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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第24話 両方助ける

 2日後。


 再び古い砦へ向かうことになった。


 今度は偵察ではない。


 目的は、残された捕虜の救出。


 ギルド側も人員を増やしている。


 ダリオたち4人。


 ルークたち4人。


 さらに、別動隊として冒険者が8人。


 合計16人。


「前より多いね」


 ルークが言う。


「ああ」


 ダリオが地図を見る。


「だからって安心するな」


「分かってる」


「ヴェルガは、こっちがまた来ると分かってるはずだ」


「待ち伏せ?」


「ほぼ間違いなく」


 エマが聞く。


「じゃあ、前と同じ排水路は使わない?」


「使う」


「え?」


「使わないと思わせる方が危ない」


 ダリオが答える。


「向こうは正門も裏口も全部見てる」


「なら」


 フィンが続ける。


「一度通った道の方が、少なくとも途中までは構造が分かってる」


「なるほど」


 ルークが頷く。


「ただし」


 ダリオが睨む。


「同じ罠があると思うな」


「はい」


 返事が早い。


「……本当に最近聞き分けよくなったな」


「何回言うんだよ」


「前がひどかったからだ」


「そこまで?」


「そこまで」


 少女が横から頷いた。


「私もそう思う」


「お前まで!?」


 少女も今回は同行する。


 理由があった。


 救出対象の中に、少女の集落の者が残っている。


 そして。


 地下の古い構造について知っている者が必要だった。


「絶対に前へ出るな」


 ダリオが言う。


「分かってる」


「捕まったら――」


「相手の目的を達成させる」


「覚えてるならいい」


 少女は少し不満そうだった。


「私、120歳なんだけど」


「年齢と今回の役割は関係ない」


「……正論なのが腹立つ」


「褒め言葉として受け取っとく」


 砦。


 排水路。


 前回の戦闘跡は。


 ほとんど片づけられていた。


「やっぱり向こうも動いてる」


 カレンが壁を見る。


「血痕も消してる」


「罠は?」


「ある」


 前回とは違う場所。


 違う高さ。


 違う仕組み。


「増えてる?」


 エマが聞く。


「増えてる」


 カレンが答える。


「しかも嫌らしくなってる」


「例えば?」


「前は踏んだら警報だった」


「今は?」


「踏まなかったら警報」


「……どういうこと?」


「罠を避けた人間を検知する仕掛け」


「そんなのあるの?」


「あるから言ってる」


 ルークが黙った。


「賢い敵って面倒だな」


「やっと分かったか」


 ダリオが言う。


「先生たちと違う面倒さだ」


「先生たちは?」


「強すぎて面倒」


「それ本人たちに言うなよ」


「言えるか」


 地下へ入る。


 前回戦った広間。


 誰もいない。


「気配は?」


 ダリオがノアへ聞く。


「……奥」


「人数?」


「多い」


「前と同じ?」


「違う」


 ノアが少し眉を寄せる。


「2か所に分かれてる」


「2か所?」


「右の奥と、左の奥」


 少女が地図を見る。


「その先……」


「知ってる?」


「右は昔の兵舎」


「左は倉庫区画」


 フィンが言う。


「捕虜を分けたか」


 ダリオの表情が変わる。


「ヴェルガだな」


「何で?」


 ルークが聞く。


「こっちを分けたいんだよ」


「……あ」


「2か所に捕虜」


「同時に危険が起きれば」


「戦力を半分にするか」


「どっちかを後回しにするか」


「選ばせる」


 少女の顔が険しくなる。


「性格悪い」


「頭がいいとも言う」


「褒めてる?」


「敵としてはな」


 その時。


 遠く。


 鐘。


 1回。


 続いて。


 もう1回。


 右。


 左。


 両方から。


「何?」


 ルークが聞く。


 フィンの顔が変わる。


「魔力が上がった」


「どっち?」


「両方」


 ダリオが地図を見る。


「始めやがった」


「何を?」


「分からない」


「でも急げってことだ」


 別動隊の冒険者が言う。


「分けますか?」


 ダリオが黙る。


 16人。


 2か所。


 普通なら8人ずつ。


 だが。


 それを相手が狙っている。


「……」


 ルークが地図を見る。


「分けない方がいい?」


「普通ならな」


 ダリオが答える。


「片方ずつ確実に助ける」


「じゃあ先にどっち?」


 そこで。


 ノアが言った。


「両方」


「え?」


 全員が見る。


「両方助けられると思う」


 ダリオが眉を寄せる。


「どうやって?」


 ノアが指を差す。


「ここ」


 右と左。


 その間。


 細い通路。


 地図では途中で途切れている。


「この先、繋がってない?」


 少女が見る。


「……昔は繋がってた」


「本当?」


「補給用の横道があった」


「今も?」


「分からない」


「でも」


 ノアが言う。


「向こう側に人がいる」


「どこ?」


「右と左の間」


 全員が静かになる。


「見張り?」


 ダリオが聞く。


「多分」


「人数?」


「少ない」


 フィンが地図を見る。


「なるほど」


「捕虜を2か所に分けた」


「でも指揮や連絡のために」


「中央の横道は残してる可能性がある」


 ダリオの口元が少し上がった。


「使えるな」


「どうする?」


 ルークが聞く。


 ダリオが考える。


「俺たちは右へ行く」


「別動隊は?」


「一緒」


「全員で?」


「ああ」


「じゃあ左は?」


「先に右を落とす」


「そのあと中央通路を使う」


「そこから左へ入る」


 エマが気づく。


「外から2つに分かれない」


「そう」


「中で繋がる」


「そういうこと」


 少女がノアを見る。


「よく気づいたわね」


「人の位置が変だったから」


「それだけ?」


「うん」


「……」


 少女はもう何も言わなかった。


 右。


 旧兵舎区画。


 敵は待っていた。


「来た!」


 魔族。


 12人。


 盾。


 槍。


 魔術師。


 きれいに役割を分けている。


「予定通り!」


「押し込め!」


 盾3人が前。


 後ろから槍。


 魔法。


「突破するな!」


 ダリオが叫ぶ。


「崩すぞ!」


 正面。


 ダリオ。


 ルーク。


 盾とぶつかる。


 ドンッ!


「重い!」


 ルークが言う。


「当たり前だ!」


 ダリオが返す。


「盾役なんだから!」


「じゃあ」


 ルークが一歩引く。


 前へ出ない。


 バルクに言われたことを思い出す。


 正面が固いなら。


 固いところを殴り続ける必要はない。


「ミナ!」


「分かった!」


 風。


 盾ではない。


 足元。


「っ!」


 盾役の踏ん張りがずれる。


「今!」


 エマ。


 横。


 剣。


 盾の隙間。


 武器を弾く。


 ルークが身体を入れる。


 ドンッ!


 1人。


 崩れる。


「治癒役を狙え!」


 敵の1人が叫ぶ。


 ノアへ。


 3人。


 今度は6人ではない。


 前回の情報は。


 ここまで届いていない。


 ただ。


 人間のパーティを見れば。


 ノアが後方。


 治癒役に見える。


 だから狙った。


「3人」


 ノアが言う。


「前より少ない」


「前より?」


 敵が聞き返す。


「ううん」


 短剣。


 1人目。


 剣。


 逸らす。


 風弾。


 膝。


 崩れる。


「なっ!」


 2人目。


 槍。


 かわす。


 柄。


 腕。


 そのまま足。


 倒す。


 3人目。


 止まった。


「……治癒役?」


「そうだよ」


「嘘だろ」


「何で?」


 ノア自身が分からない。


 敵の方が。


 もっと分からなかった。


 右区画。


 数分。


 決着。


「捕虜!」


 奥。


 9人。


 全員生きている。


「治療は?」


 ユナが見る。


「急がなくていい」


「なら移動できる?」


「できる」


「よし」


 ダリオが中央通路を見る。


「次」


「左だ」


 中央。


 壁。


「塞がれてる」


 エマが言う。


 少女が触る。


「昔はここ」


「本当に?」


「間違いない」


 ミナが壁を見る。


「壊す?」


「待て」


 フィンが止める。


「罠かもしれない」


 ノアが壁へ近づく。


「向こう」


「人いる?」


「2人」


「動いてる?」


「うん」


 ダリオが笑う。


「見張り付き」


「なら当たりだ」


 フィンが魔法を調べる。


「壁そのものは後付け」


「壊すと?」


「警報が鳴る」


「じゃあどうする?」


 ミナが聞く。


 アルドに言われた。


 壊す。


 抜ける。


 干渉する。


 引き込む。


 4つくらい同時に考えろ。


 壁。


 警報。


 向こうに2人。


「……壊さない」


「じゃあ?」


 ミナが床を見る。


「下」


「下?」


「壁だけ後付けなら」


 杖。


 土。


 少しずつ。


 壁の下を掘る。


「穴?」


「小さくていい」


 フィンが気づく。


「魔法だけ通す気か」


「うん」


 小さな隙間。


「《風流》」


 向こう。


 風。


 見張り2人。


「何だ?」


 足元。


 風が絡む。


「っ!」


「今」


 フィン。


 眠りの霧。


 穴を通す。


 数秒。


 ドサッ。


 ノアが確認する。


「倒れた」


「よし」


 それから。


 警報術式だけ解除。


 壁を壊す。


「……」


 フィンがミナを見る。


「昨日より早いな」


「何が?」


「考えるの」


「アルドに言われたから」


「昨日の今日で?」


「うん」


 フィンは。


 もう驚かないことにした。


 左。


 倉庫区画。


 敵は。


 待っていた。


 だが。


 向いている方向が違う。


 正面入口。


 そちらを警戒している。


 まさか。


 右区画から。


 中央の封鎖壁を抜けて来るとは思っていない。


「行くぞ」


 ダリオが小さく言う。


 16人。


 一気に入った。


「なっ!?」


「後ろ!?」


「どうしてそこから!」


 戦闘。


 開始。


 終わるまで。


 長くはかからなかった。


 捕虜。


 11人。


 生存。


「全員?」


 少女が1人ずつ見る。


「……いる」


「集落の人?」


「ここに連れて来られた人は」


「多分、これで全員」


 少女の声が震えた。


 ノアが笑う。


「よかった」


「……うん」


 少女は。


 小さく答えた。


 ダリオは。


 そこで終わらなかった。


「敵確認」


「右12」


「左10」


「中央2」


「合計24」


「逃げた?」


 カレンが答える。


「今のところゼロ」


「通信は?」


 フィン。


「止めてる」


「よし」


 ルークが聞く。


「また?」


「ああ」


「こいつらも見た?」


「全部じゃない」


「でも」


 ダリオが周囲を見る。


「俺たちの侵入経路」


「ノアの索敵」


「ミナのやり方」


「それなりに見てる」


「じゃあ」


「逃がさない」


 ルークが頷く。


「分かった」


 その頃。


 さらに地下。


 ヴェルガは。


 報告を待っていた。


「まだか?」


「はい」


「右区画からも?」


「ありません」


「左は?」


「ありません」


 ヴェルガの指が止まる。


「両方?」


「はい」


「……」


 おかしい。


 片方なら分かる。


 敵が片方を選び。


 救出した。


 だが。


 両方から。


 連絡がない。


「戦力を分けたか?」


「その可能性が」


「なら」


 ヴェルガが地図を見る。


「どちらかで損害が出るはずだ」


「……」


「同時に?」


 部下が聞く。


 ヴェルガは答えない。


 右。


 左。


 その間。


 指。


 止まる。


「中央通路……」


「塞いであります」


「分かっている」


「では」


「もし」


 ヴェルガの目が細くなる。


「見つけたなら?」


 初めて。


 わずかに。


 笑みが消えた。


 しばらくして。


 足音。


 地下の奥。


「ヴェルガ様!」


「何だ」


「右区画」


「全滅です」


「……左は?」


「連絡がありません」


「捕虜は?」


「消えています」


「侵入者は?」


「確認できません」


 ヴェルガが立ち上がる。


「中央通路を見ろ」


「はい!」


 部下が走る。


 ヴェルガだけが残る。


 前回。


 1部隊が消えた。


 今回。


 2つに分けた捕虜。


 2つに分けた防衛。


 選ばせるつもりだった。


 だが。


 相手は。


 選ばなかった。


「……両方か」


 ヴェルガが呟く。


 29年前。


 同じようなことがあった。


 人間なら。


 どちらかを捨てる。


 そう読んだ。


 なのに。


 4人の若者は。


 こちらが作った選択肢そのものを。


 壊した。


「まさか」


 ヴェルガは。


 すぐにその考えを捨てる。


 そんなはずはない。


 あの4人は。


 もう若くない。


 そして。


 今の侵入者は。


 人数すら違う。


 それでも。


 胸の奥に。


 29年前の。


 嫌な感覚だけが。


 少しずつ蘇っていた。

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