第23話 次は、こっちが合わせる
翌朝。
ルークたち4人は、町へ戻る前にもう一度だけ村の訓練場へ集まっていた。
昨日。
それぞれが師匠から修正点をもらった。
ノアは、攻撃を受けながら治癒する。
ミナは、その場で1つずつ答えを探すのではなく、最初から複数の選択肢を持つ。
エマは、ノアを守ることだけを考えず、ノアを狙う敵そのものを崩す。
ルークは、仲間が狙われたからといって毎回助けに入らない。
「じゃあ」
バルクが腕を組んだ。
「4人でやってみろ」
「相手は?」
ルークが聞く。
「俺たち」
「……」
4人が止まった。
「先生たち4人?」
「そう」
「無理じゃない?」
ミナが言う。
「勝てとは言ってない」
アルドが答えた。
「昨日直したところを使えればいい」
「それだけ?」
「それだけ」
エマがレイを見る。
「本当に?」
「本当に」
「途中から本気出さない?」
「出さないわよ」
「怪しい」
「何で信用ないの?」
「昔、10分生き残れって言った時も大変だったから」
「あれは生き残れたでしょう?」
「ぎりぎりだったよ!」
少し離れた場所で。
ダリオたち4人も見ている。
「……これ、訓練になるのか?」
ダリオが呟く。
少女が答えた。
「なるんじゃない?」
「根拠は?」
「この子たち、4年これで育ったんでしょ」
「それを言われると何も言えないな」
「始めるぞ」
アルドが言った。
ルークたち4人が構える。
前。
ルーク。
横にエマ。
後ろにミナ。
ノア。
対する4人。
アルド。
バルク。
レイ。
セリア。
「開始」
最初に動いたのは。
レイだった。
「速っ!」
エマが前へ出る。
剣。
金属音。
一撃だけ。
エマが大きく後退した。
「エマ!」
ルークが向こうを見る。
「来なくていい!」
エマが叫ぶ。
その瞬間。
バルク。
ルークの正面。
「ほら」
「っ!」
拳。
ルークが剣で受ける。
衝撃。
足が地面を滑った。
「他見てる余裕あるか?」
「ある!」
「なら見ろ」
次。
ルークは受けずに横へ流した。
後方。
アルドが手を上げる。
魔法。
火。
ミナの右。
風。
左。
土。
足元。
「3つ……!」
一瞬。
どれから消すか考えかける。
昨日。
言われたことを思い出した。
壊す。
避ける。
逸らす。
利用する。
「《水壁》!」
火だけ消す。
風は避ける。
土。
壊さない。
「《風流》!」
隆起する地面へ横から風。
向きが変わる。
そのまま。
ルークへ迫っていたバルクの足元へ。
「お?」
バルクが一歩ずれた。
ルークが目を見開く。
「ミナ!」
「使えるものは使う!」
アルドが少し笑った。
「そうそう」
ミナが顔をしかめる。
「褒めながら次撃たないで!」
「実戦は待ってくれないぞ」
「分かってる!」
ノア。
相手はセリア。
「来る?」
ノアが聞く。
「行くわよ」
「はい」
セリアが踏み込んだ。
「え?」
治癒役。
のはずだった。
掌。
ノアの肩。
かわす。
次。
足。
ノアが跳ぶ。
「やっぱり速い!」
「治癒役が狙われた時どうするの?」
「自分で逃げる!」
「それだけ?」
「反撃もする!」
風弾。
セリアが首を傾けるだけで避けた。
「いいわね」
「当たってないけど!」
「撃ったことが大事」
次の瞬間。
ノアの腕へ。
セリアの指。
軽く触れる。
「はい、怪我した想定」
「何それ!?」
「今のところ切られたと思って」
「分かった!」
「じゃあ治して」
セリアが攻撃を続ける。
ノアが避ける。
短剣。
受ける。
手が光る。
途中まで組んでいた術式。
「《治癒》!」
動きながら。
自分の腕へ。
発動。
「できた!」
「まだ遅い」
「厳しい!」
「次」
「もう!?」
エマは。
レイと剣を合わせていた。
速い。
1回。
2回。
3回。
全て。
押される。
「ノアを狙われたら?」
レイが聞く。
「助ける!」
剣。
受ける。
「毎回?」
「違う!」
エマが踏み込む。
「狙ってる敵を潰す!」
「なら」
レイが横へ動いた。
ノアへ向かう。
「私を止めて」
「っ!」
追う。
だが。
レイの方が速い。
「間に合わない!」
「だったら?」
エマが一瞬。
レイではなく。
その進路を見る。
剣。
地面。
小石。
蹴る。
カンッ!
レイの足元へ。
ほんの僅か。
踏み位置が変わる。
「……」
レイの速度が一瞬落ちた。
そこへ。
エマ。
剣。
届く。
レイが受けた。
「今のは?」
エマが聞く。
「悪くない」
「やった!」
「でも私ならその石も避ける」
「今避けたじゃん!」
「だから速度が落ちたでしょう?」
「……そっか」
「そこを使うの」
エマの目が変わる。
「もう1回」
「いいわよ」
ルークは。
バルクと正面からぶつかっていた。
一撃。
重い。
二撃。
もっと重い。
ルークが耐える。
「ノアが危ないぞ」
バルクが言う。
視界の端。
セリアがノアへ。
ルークが動きかける。
止まる。
「行かねえのか?」
「ノアなら大丈夫」
「本当に?」
「3人倒したんだろ」
バルクが笑う。
「そうだ」
「だったら」
ルークが踏み込む。
「こっちを崩す!」
バルクへ。
一撃。
受けられる。
次。
さらに。
バルクが少しだけ後ろへ足を引いた。
「お」
「動いた!」
「1歩な」
「十分!」
「調子乗るな」
拳。
「うわっ!」
ルークが飛ばされた。
訓練は。
10分も続かなかった。
「そこまで」
アルドの声。
ルークたち4人が。
一斉に地面へ座り込む。
「疲れた……」
「昨日よりきつい」
「先生たち、絶対少しずつ上げてたよね?」
「上げてない」
4人の師匠が答える。
ダリオが即座に言った。
「信用できない」
「何で俺まで疑われるんだ」
アルドが困った顔をする。
「お前らの弟子見たら分かります」
「何が?」
「積み重ねの結果です」
「?」
少女は。
少し離れた場所で。
ずっと4人を見ていた。
「昨日より違う」
ダリオが聞く。
「分かる?」
「少し」
「何が?」
「4人とも」
少女が言う。
「誰かが狙われても、すぐ助けに行かなくなった」
「それ?」
「それが大きい」
ダリオも頷く。
「パーティとして」
「自分の役割じゃなく」
「4人全体で動き始めてる」
少女は少し考える。
「元々役割ないんでしょ?」
「正確にはある」
ダリオが答える。
「得意分野はある」
「でも」
「必要なら誰でも代わる」
「……」
少女がルークたちを見る。
「面倒ね」
「敵からしたらな」
「うん」
「俺なら絶対戦いたくない」
「Aランクが言う?」
「だからこそだ」
その日の夕方。
町へ戻る途中。
ノアが言った。
「次、敵はどうするかな」
「またミナを隔離?」
エマが聞く。
「同じのはやらないと思う」
ミナが答える。
「ヴェルガって頭いいんでしょ?」
少女が頷く。
「昔から」
「じゃあ」
ルークが考える。
「今度は別のことする?」
「多分」
ダリオが前を歩きながら言う。
「そのつもりでいろ」
「敵がこっちに合わせてくる」
「なら」
ルークが言う。
「俺たちも合わせればいい」
ダリオが振り返る。
「何に?」
「敵に」
「……」
「昨日までは、先生たちのやり方を使おうとしてた」
「でも」
ルークがエマたちを見る。
「相手によって変えればいいんだろ?」
ミナが頷く。
「私もそう思う」
「私も」
「僕も」
ダリオが少し笑った。
「やっとそれっぽくなってきたな」
「何が?」
「冒険者」
「今までは?」
「規格外の田舎者」
「ひどくない!?」
少女が吹き出した。
その頃。
古い砦。
ヴェルガは。
3つの報告を机に並べていた。
侵入者は8人前後。
上の部隊は全員戻らない。
捕虜7人が消えた。
そして。
通信具も使われていない。
「全員捕らえられたか」
ヴェルガが呟く。
「殺された可能性も」
「それは低い」
「なぜです?」
「捕虜を助けに来た連中だ」
「無闇に殺すタイプなら」
「最初から捕虜など気にしない」
部下が黙る。
「つまり?」
「こちらの兵は生きている可能性が高い」
「では情報が」
「人間側へ渡る」
「……」
「構わん」
ヴェルガは地図を見る。
「その代わり」
「こちらは次の情報を取る」
「何を?」
「侵入者が」
「どういう判断をする連中か」
ヴェルガが指を置く。
地下。
最も広い区画。
「ここへ捕虜を移せ」
「全員ですか?」
「いや」
「半分だけ」
「残りは?」
「別の場所」
「……分ける?」
「ああ」
部下が意図を理解した。
「どちらを助けるか」
「違う」
ヴェルガが言う。
「両方を助けようとした時」
「どう動くかを見る」
「戦力を分けるか」
「片方を捨てるか」
「罠と承知で入るか」
「引き返すか」
ヴェルガの目が細くなる。
「力だけではない」
「判断を見る」
部下が頭を下げた。
「了解しました」
ヴェルガは。
1人になる。
29年前。
魔王軍は。
強い人間を何人も見てきた。
力だけなら。
四天王に迫る者すらいた。
だが。
恐ろしかったのは。
強さだけではない。
戦いながら。
変わる人間。
1度通じた攻撃が。
次には通じなくなる。
こちらの戦術を。
その場で食い破る者。
「……まさかな」
ヴェルガが小さく笑う。
29年前の。
嫌な記憶。
若い4人。
まだ。
結びつける理由はない。
だが。
戻らない部隊。
救われた捕虜。
慎重に引いた侵入者。
少しずつ。
興味が。
強くなっていた。




