第22話 先生たちなら、どうする
その日の午後。
ルークたち4人は、久しぶりに村の訓練場へ立っていた。
ダリオたち4人もいる。
少女は少し離れた場所。
そして。
目の前には、アルドたち4人。
「で」
バルクが腕を組む。
「何するんだ?」
ルークが答える。
「砦に行く前に、少し見てほしい」
「何を?」
「俺たちの戦い方」
「今さら?」
「今さらだから!」
バルクが笑う。
「分かった分かった」
アルドは畑仕事の途中だったらしく、まだ袖に土がついている。
レイは剣。
セリアは何も持っていない。
「敵は頭を使ってくる」
ダリオが説明する。
「前回、ミナを孤立させた」
「接近戦を警戒して、今度は遠距離から抑えた」
「ノアには精鋭6人をぶつけて、治癒を封じた」
「なるほど」
アルドが頷く。
「ちゃんと考えてる敵だな」
「そこなんです」
ダリオが言う。
「馬鹿じゃない」
「だから次は、もっと対策してくる可能性が高い」
「当然だろうな」
レイも頷く。
「同じ手が2回通ると思わない方がいいわ」
エマが剣を握り直す。
「だから聞きたい」
「先生たちなら、どうするの?」
4人の英雄が。
顔を見合わせた。
「どうするって言われてもな」
バルクが言う。
「相手次第だろ」
「それはそうだけど!」
「じゃあ逆に聞く」
アルドが4人を見る。
「お前たちは何ができなかった?」
ルークが考える。
「ミナを助けられなかった」
「でもミナは自分で何とかした」
「ノアは?」
「6人に囲まれて、治癒できなかった」
「3人は倒した」
セリアが補足するように言う。
「残り3人」
「そう」
ノアが少し悔しそうな顔をする。
「治癒を発動する隙が作れなかった」
「なら課題はそこね」
セリアが即答した。
「囲まれてても治す」
ダリオが口を挟む。
「やっぱりそこなんですか?」
「だって必要なんでしょう?」
「いや、必要ですけど」
「ならできた方がいいじゃない」
ダリオは何も言えなくなった。
「じゃあ」
ノアがセリアを見る。
「やってみたい」
「今?」
「うん」
「分かった」
セリアが周囲を見る。
「誰か6人」
「え?」
ダリオが嫌な予感のする顔をする。
「ノアを囲んで」
しばらく。
誰も動かなかった。
「……俺たち?」
ルークが聞く。
「4人じゃ足りない」
「ダリオさんたち入れたら8人いるよ」
少女が言う。
「私も入れるけど」
「いや」
ダリオが止める。
「何で自然に参加しようとしてるんだ」
「戦えるって言ったでしょ」
「知ってるけど」
結局。
ダリオ。
カレン。
ルーク。
エマ。
ミナ。
フィン。
6人がノアを囲むことになった。
「治癒対象は?」
セリアが聞く。
「これでいい?」
バルクが自分の腕を少しだけ切る。
「おい!」
ダリオが叫ぶ。
「何してるんですか!」
「浅いぞ」
「そういう問題じゃない!」
バルクが不思議そうな顔をする。
「昔からこうして練習してたけどな」
「やっぱりそこからおかしい!」
ダリオの声が村に響いた。
「始めるわよ」
セリアが言う。
「ノアはバルクを治す」
「6人はそれを止める」
「攻撃は訓練用」
「でも本気で隙を作らせないで」
「分かった」
ノアが短剣を構える。
6人も動く。
「始め!」
最初。
ルーク。
正面。
ノアがかわす。
横。
エマ。
短剣で受ける。
後ろ。
カレン。
身体を沈める。
フィンの風。
足元。
ノアが跳ぶ。
「治癒!」
ノアがバルクへ手を向ける。
「させるか!」
ダリオの大剣。
間へ入る。
「っ!」
ノアが治癒を切る。
避ける。
また囲まれる。
「無理だ」
ダリオが呟く。
「これで治癒までやるのはさすがに――」
「まだ」
ノアが言った。
「いける」
動く。
1回。
2回。
3回。
何度やっても。
治癒を出せない。
避ける。
受ける。
攻撃を返す。
それだけなら。
ノアはできる。
だが。
治癒を入れる瞬間。
必ず誰かが詰めてくる。
「難しい」
ノアが息を整える。
セリアが聞く。
「何が難しい?」
「治癒の時だけ、手が止まる」
「うん」
「意識も治す相手に向く」
「うん」
「そこ狙われる」
「じゃあ」
セリアが笑う。
「止まらなければいい」
「……え?」
ダリオが嫌そうな顔をした。
「出た」
「何?」
「先生側の基礎」
「失礼ね」
「いや、褒めてないです」
「ノア」
セリアが自分の手を出す。
「治癒って、止まって使うものだと思ってる?」
「違うの?」
「違うわ」
「動きながら?」
「動きながらでも」
「攻撃しながらでも」
「避けながらでも」
「必要なら使う」
ノアが目を見開く。
「同時に?」
「そう」
「でも」
「治癒の術式を全部その場で組んでるでしょう?」
「うん」
「だから遅いの」
「……」
「先に半分だけ作っておけばいい」
アルドが横から言う。
「残りを相手の状態に合わせて完成させる」
「そんなことできる?」
「できる」
「アルドも?」
「魔法なら普通にやる」
「普通を使わないでください」
ダリオが即座に止めた。
アルドが首を傾げる。
「何で?」
「もういいです」
ノアは。
もう1度構えた。
「やってみる」
「いい?」
セリアが聞く。
「うん」
「じゃあ始め」
6人が動く。
ルーク。
正面。
ノアは避ける。
エマ。
横。
短剣で流す。
カレン。
後ろ。
身体をずらす。
その間。
ノアの左手。
ほんの僅かに光っている。
ダリオが気づく。
「もう組んでる?」
ノアは答えない。
フィンの風。
足元。
跳ぶ。
着地。
ダリオが詰める。
ノアは逃げない。
短剣。
大剣。
ぶつかる。
その瞬間。
「《治癒》」
光。
ノアの手から。
ダリオの横を抜け。
バルクへ。
傷。
閉じる。
「……」
全員。
止まった。
「できた」
ノアが自分でも驚いた顔をする。
セリアが頷く。
「うん」
「でも今、かなり雑だった」
「最初はそれでいい」
「もっと速くできる?」
「できる」
「動きながら?」
「できる」
「攻撃しながら?」
「できる」
「複数人?」
「できる」
ノアの目が輝く。
「やりたい」
「やりましょう」
ダリオが頭を抱える。
「育つなあ……」
「何?」
「何でもない」
今度はミナ。
アルドが見る。
「孤立させられたんだっけ?」
「うん」
「透明な壁」
「下に隙間あったから風通した」
「それで?」
「外の4人転ばせて、杖飛ばした」
「なるほど」
「どう?」
アルドが少し考える。
「悪くない」
ミナの顔が明るくなる。
「でも遅い」
「え?」
「その場で考えすぎ」
「……」
「壁を見た時に」
「壊す」
「抜ける」
「外へ干渉する」
「敵を中へ引き込む」
「最低でもその4つくらいは同時に考えとけ」
「同時に?」
「うん」
フィンが横から聞く。
「それ、何歳の子に教える内容です?」
「14」
「年齢聞いてません」
「?」
フィンは諦めた。
エマはレイ。
ルークはバルク。
それぞれ。
短い確認。
短い修正。
だが。
中身は全然短くなかった。
「エマ」
「はい」
「敵がノア狙うなら」
「うん」
「守ろうとしすぎない」
「え?」
「ノアは自分で守れる」
「……」
「あなたが敵の攻撃役を潰した方が早い」
「なるほど」
「ただしノアが本当に危ない時だけ入る」
「判断難しくない?」
「難しいわよ」
「基礎じゃないの?」
「基礎よ」
カレンが遠い目をする。
「また出た……」
「ルーク」
「おう」
「敵がノア狙う」
「うん」
「お前どうする?」
「助ける」
「毎回?」
「……違う?」
「違う」
バルクが言う。
「6人ノアに行ったなら」
「他が薄くなるだろ」
「……あ」
「そっち壊せ」
「でもノアが」
「3人倒してるんだろ?」
「うん」
「じゃあ任せろ」
「……」
「仲間を信じるのも戦い方だ」
ルークが少し黙る。
「分かった」
「よし」
ダリオが。
そのやり取りだけは。
静かに聞いていた。
「今のは普通にいいこと言いましたね」
「今のは?」
「いや何でもないです」
夕方。
訓練が終わる。
ルークたち4人は。
かなり疲れていた。
「……先生たち」
ミナが言う。
「何?」
「前より教えること難しくなってない?」
アルドが首を傾げる。
「お前らができるようになってきたからな」
「昔は?」
「もっと簡単だった」
「例えば?」
「魔力を漏らすな」
「剣振る時に目を閉じるな」
「転んだ時に手をつけ」
「怪我したらまず血止めろ」
ルークたちが黙る。
「……本当に昔は普通だったんだ」
「当たり前だろ」
ダリオが横から言う。
「問題は」
「そこからどこまで上げたかなんだよ」
少女は。
少し離れた場所から。
ずっと見ていた。
29年前。
自分が見た“魔王殺しの4人”。
その4人が。
今。
次の4人を育てている。
だが。
弟子たちは。
師匠の真似をしているわけではない。
ノアはセリアとは違う。
ミナもアルドとは違う。
エマも。
ルークも。
同じではない。
教わって。
失敗して。
その場で変えていく。
「……似てる」
少女が小さく呟く。
「何が?」
ダリオが聞く。
「29年前と」
「こいつらが?」
「違う」
少女は首を振る。
「雰囲気」
「……」
「私、あの時」
「魔王軍が人間を止められなくなっていくのを見た」
「最初は誰も気にしてなかった」
「でも」
少女はルークたちを見る。
「戦うたびに」
「4人が変わっていった」
ダリオが少女を見る。
「この4人も?」
「……少しだけ」
少女は答える。
「似てる気がする」
同じ頃。
古い砦。
地下。
ヴェルガは。
地図を見ていた。
「連絡の途絶えた部隊」
「まだ何も?」
「はい」
「侵入者の痕跡は?」
「8人前後だと思われます」
「8」
ヴェルガが指を止める。
「冒険者か」
「おそらく」
「次は来る」
「はい」
「捕虜を残してある」
「餌に?」
「違う」
ヴェルガは部下を見る。
「救出に来る相手なら」
「こちらも人質を殺せない」
「……なぜです?」
「殺せば来なくなる」
「なるほど」
「だから生かす」
ヴェルガは。
淡々と続ける。
「侵入経路を限定する」
「罠を変える」
「前回消えた部隊と同じ配置は使うな」
「はい」
「相手は学習する」
「……」
「なら」
ヴェルガの目が細くなる。
「こちらも学習すればいい」
まだ。
敵も。
止まってはいなかった。




