第26話 守る相手が増えてもやることは同じ
北西街道へ向かったのは、昼前だった。
ダリオたち4人。
ルークたち4人。
それに、ギルドから追加された冒険者6人。
合計14人。
少女は町に残っている。
今回は。
連れ去られた商隊の救出。
そして。
襲撃した魔族の目的を確認する。
それが最優先だった。
「足跡」
カレンが街道脇にしゃがむ。
「かなり多い」
「何人?」
ルークが聞く。
「正確には無理。でも20以上」
「商隊の分も混じってる?」
「混じってる」
ノアが少し先を見る。
「血の匂いもする」
全員の表情が変わった。
「近い?」
ダリオが聞く。
「そんなに遠くない」
「急ぐぞ」
走る。
ただし。
道を外れない。
周囲の気配も確認する。
前なら。
ルークは真っ先に飛び出していたかもしれない。
今は。
ダリオの横を走っている。
「ちゃんといるな」
「何が?」
「俺の視界に」
「またそれ?」
「褒めてる」
「最近褒め方が分かりにくいんだよ」
最初に見つけたのは。
壊れた荷馬車だった。
車輪。
荷物。
血。
「人は?」
エマが周囲を見る。
「いない」
ノアがしゃがむ。
地面へ手を触れる。
「ここで戦ってる」
「何人くらい?」
「分からない。でも」
指を少し動かす。
「人間側も反撃してる」
折れた剣。
焼けた地面。
魔族の血。
「一方的じゃない?」
「うん」
ダリオが頷く。
「商隊にも護衛がいたんだろ」
少し先。
木の陰。
「待って」
ノアが立ち上がった。
「生きてる」
走る。
護衛らしい男が1人。
肩から腹まで。
深い傷。
「聞こえる?」
ノアが膝をつく。
「……冒険者……?」
「そう」
「商隊は?」
「連れて……行かれた」
「何人?」
「12……」
「魔族は?」
「20くらい……いや……もっと……」
男の呼吸が乱れる。
「ノア」
ユナが横へ。
「先に治療」
「うん」
ノアが傷を見る。
「内側も切れてる」
「分かる?」
「多分」
「治せる?」
「ここでは全部やらない」
ユナが頷いた。
「正解」
出血だけ。
呼吸。
内臓。
必要なところを優先する。
「《治癒》」
光。
男の呼吸が少し落ち着いた。
「大丈夫」
「死なないから」
「……子供?」
「14」
「……そうか」
男は。
もう質問する力もなかった。
「進める?」
ルークが聞く。
ダリオが地図を見る。
「進む」
「この人は?」
「後方の2人に任せる」
追加された冒険者のうち2人が残る。
「残り12人」
カレンが言う。
「相手は20以上」
ルークが剣に触れる。
「人数負けてるな」
「だから?」
ダリオが聞く。
「別に」
「お前、今ちょっと嬉しそうだったぞ」
「してないって!」
「ルーク」
エマが呆れる。
「今は助ける方でしょ」
「分かってる!」
表情。
戻る。
「行こう」
街道から森へ。
足跡は。
隠されていなかった。
「妙だな」
フィンが言う。
「わざと?」
「可能性ある」
ダリオが止まる。
「誘導か」
ルークが周囲を見る。
「罠?」
「あると思え」
その時。
「前」
ノアが言った。
「人がいる」
「敵?」
「両方」
「距離?」
「近い」
さらに。
「……囲まれてる」
ダリオの顔が変わった。
「行くぞ」
森を抜けた先。
少し開けた場所。
人間。
12人。
手を縛られている。
その周囲。
魔族。
24人。
武器を持っている。
そして。
中央に1人。
他とは装備が違う。
「来たか」
男が言った。
ダリオが止まる。
「待ってた?」
「当然だ」
「誰だ?」
「名乗る必要はない」
男が捕虜を見る。
「近づけば1人ずつ殺す」
ルークの表情が変わった。
剣へ手が伸びる。
「ルーク」
ダリオの声。
止まる。
「……分かってる」
男が笑った。
「聞き分けがいい」
「子供まで連れてきたのか」
「その子供に部隊消されたら笑えないぞ」
ダリオが返す。
男の目が少し変わる。
「……何?」
やはり。
情報は届いていない。
ダリオはそれ以上言わなかった。
「目的は?」
ダリオが聞く。
「お前たちをここへ呼ぶこと」
「商隊は餌?」
「そうだ」
「何で俺たち?」
「確認したいことがある」
男の視線。
ルークたち4人へ。
「砦へ入った若い冒険者」
「4人いたと聞いた」
ルークたちの表情は変わらない。
分かっているのは。
そこまで。
「お前たちか?」
誰も答えない。
「まあいい」
男が手を上げる。
「戦えば分かる」
魔族たちが動いた。
「捕虜を守れ!」
ダリオが叫ぶ。
「ルーク!」
「おう!」
前。
4人。
盾。
ルークがぶつかる。
硬い。
「止めろ!」
敵も。
明らかに昨日までとは違う。
ただの兵ではない。
「重っ!」
盾の向こう。
槍。
「右!」
ノアの声。
ルークが身体をずらす。
槍が抜ける。
「エマ!」
「分かってる!」
横。
盾の死角。
一閃。
槍だけ切る。
「なっ!」
「次!」
ミナ。
風。
地面。
盾役の足元だけがずれる。
「今!」
ルーク。
体当たり。
盾役が崩れた。
だが。
敵も止まらない。
「後衛!」
6人。
今度は。
ノアではない。
ユナとフィン。
「大人の方を潰せ!」
ダリオの目が変わる。
「なるほど」
これまでの情報がない。
だから。
普通に見える役割へ。
普通の対策を取った。
「カレン!」
「分かってる!」
向かう。
だが。
別の敵が止める。
「行かせるな!」
きちんと。
戦力を分けている。
ルークは。
一瞬。
ユナたちを見る。
助ける?
昨日までなら。
行った。
でも。
バルクの言葉。
仲間を信じろ。
「エマ!」
「うん!」
「こっち崩す!」
「了解!」
行かない。
前を壊す。
ミナも同じ。
ノアも。
誰も。
慌てて後ろへ戻らない。
敵の指揮官の眉が動いた。
「……助けない?」
違う。
助けないのではない。
必要ないと判断した。
ユナ。
フィン。
そして。
ダリオ側の冒険者。
大人たちは。
弱くない。
「舐めるな!」
フィンの風。
2人吹き飛ぶ。
ユナの支援。
カレン。
速度が上がる。
「そっちは任せて!」
カレンの声。
エマが笑う。
「任せた!」
指揮官が。
少しだけ顔をしかめる。
「捕虜!」
ノアが叫ぶ。
「右端の3人、縄が切れかけてる!」
「何?」
魔族の1人が振り向く。
その瞬間。
ミナ。
「《風弾》」
剣。
手から飛ぶ。
「ルーク!」
「おう!」
一気に入る。
「捕虜を殺せ!」
指揮官が叫ぶ。
2人の魔族が剣を振り上げる。
「間に合わない!」
エマ。
距離。
遠い。
ノアが。
捕虜を見る。
縄。
木。
足元。
「ミナ!」
「何!?」
「右の木!」
ミナは聞き返さない。
風。
枝。
バキッ!
落ちる。
魔族2人の間。
「っ!」
一瞬。
止まる。
それだけ。
ルークには。
十分だった。
飛び込む。
剣の腹。
1人。
回転。
2人。
倒れる。
「よし!」
「縄!」
エマが走る。
切る。
「動ける人から後ろへ!」
捕虜が逃げ始める。
「止めろ!」
敵がそちらへ動く。
その瞬間。
ルークたち4人の周囲。
敵が薄くなった。
ダリオが気づく。
「行け!」
「おう!」
ルーク。
正面。
エマ。
左。
ミナ。
魔法。
ノア。
全体を見る。
指揮官が。
初めて後退した。
「……待て」
何か。
おかしい。
前衛が。
前衛だけではない。
剣士が。
剣士だけではない。
魔術師。
治癒役。
まだ。
全部は見えていない。
だが。
4人の動き。
互いの穴を埋める速度。
役割を越えて。
形が変わる。
「何だ、こいつら……」
指揮官が呟いた。
そこへ。
ノアの声。
「ルーク、3秒後に右!」
「分かった!」
「エマ、そのあと前!」
「うん!」
「ミナ、地面!」
「了解!」
3秒。
敵の右列。
動く。
ルーク。
先にいる。
「なっ!」
崩す。
その穴。
エマ。
入る。
魔術師が下がる。
ミナ。
土。
足場。
止める。
「どうして!」
敵側の動きが。
完全に読まれていた。
指揮官が叫ぶ。
「退け!」
「ですが!」
「捕虜はもう使えん!」
「これ以上情報を渡すな!」
判断は速い。
ダリオの目が変わる。
「逃がすな!」
今度は。
最初からだった。
「こいつらも見てる!」
「了解!」
ルークたち4人。
動く。
敵が逃げる。
ミナが道を塞ぐ。
エマが横へ回る。
ルークが正面。
ノアが。
逃げる相手の位置を。
次々に知らせる。
「左2!」
「奥1!」
「木の上!」
逃げ道。
消える。
指揮官だけが。
まだ戦っていた。
ダリオと剣を合わせる。
「強いな」
ダリオが言う。
「貴様もな!」
一撃。
二撃。
重い。
速い。
「ヴェルガの部下か?」
「答えると思うか!」
「思ってない」
「なら聞くな!」
「一応な」
ダリオが笑う。
次の一撃。
剣が飛んだ。
「終わりだ」
大剣。
首元。
止まる。
「殺せ」
「捕虜を殺さなかったらな」
「……」
「俺たちも必要ない相手は殺さない」
男は。
悔しそうに目を閉じた。
戦闘終了。
敵24人。
逃走。
ゼロ。
死者。
なし。
重傷者は。
ノアたちが治療する。
商隊12人。
全員救出。
「また全員治療するの?」
追加で同行した冒険者の1人が聞いた。
「できる人がやった方が早いから」
エマが答える。
「君、剣士だよね?」
「うん」
「治癒も?」
「少しだけ」
隣。
ミナも治療。
ルークは警戒しながら。
傷の浅い捕虜へ治癒。
その冒険者が。
ノアを見る。
「……あの子が治癒役じゃないの?」
「そうだよ」
ダリオが答える。
「じゃあ何で」
「聞くな」
「え?」
「俺も最初は聞いた」
ダリオは遠い目をした。
「余計混乱する」
帰り道。
救出された商人が。
ルークへ聞いた。
「君たち、Dランクなのか?」
「昨日なった」
「昨日?」
「うん」
「……」
商人が黙る。
「何?」
「いや」
24人の武装した魔族。
人質。
待ち伏せ。
それを。
Dランクになった翌日の少年たちが。
普通に突破した。
「Dランクって」
商人が呟く。
「こんなに強かったか……?」
ダリオが横から答えた。
「違う」
「え?」
「あいつら基準にするな」
今度は。
ルークたち4人が振り返る。
「聞こえてるぞ!」
「聞かせてるんだよ!」
その夜。
捕らえた指揮官の所持品から。
1枚の紙が見つかった。
地図ではない。
命令書。
短い文章。
フィンが読む。
「人間領北西部」
「複数の街道を確認」
「対象の所在を探れ」
ルークが聞く。
「対象?」
「誰か探してる」
ノアが言う。
以前。
捕虜の魔族が。
人間領にいる誰かを探している。
そう反応した。
「同じ話だ」
ダリオが言う。
「でも誰?」
「まだ分からない」
紙の最後。
1つだけ。
記号。
少女がそれを見て。
顔色を変えた。
「これ……」
「知ってる?」
少女は。
しばらく答えなかった。
「昔」
「魔王軍の中でも」
「ごく一部しか使ってなかった印」
「誰の?」
少女が紙から目を離す。
「四天王」
部屋が静かになる。
「29年前の?」
ルークが聞く。
少女が頷いた。
「少なくとも」
「この命令を出した側には」
「昔の四天王と繋がってる奴がいる」
ヴェルガより。
さらに上。
29年前の戦争を知る存在が。
少しずつ。
こちらへ近づいていた。




