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『伝説の英雄たちは田舎で静かに暮らしたい ~25年前に魔王を倒した俺たち、村の子供を普通に鍛えたつもりが全員規格外になっていた~』  作者: オレンジペコ


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第10話 初めての昇格

 初心者講習から3日。


 ルークたちは、朝から依頼板の前に立っていた。


「これ、どう?」


 ミナが1枚の依頼書を指す。


 街道沿いの薬草採取。


 指定された薬草を20束。


 期限は今日中。


「いいんじゃない?」


 ノアが言う。


「場所も近い」


「討伐じゃないのか……」


 ルークが少し残念そうな顔をする。


「またそれ?」


 エマが呆れる。


「冒険者なんだから、戦う依頼もしたいだろ」


「昨日、荷運びしたじゃん」


「だから今日は戦いたい」


「でも、これ」


 ノアが依頼書の下を指した。


「採取場所の近くで、小型魔物の目撃ありって書いてある」


「……受けよう」


 ルークが即答した。


「分かりやすい」


 ミナが笑う。


 受付で依頼を受けると、4人は町を出た。


 この3日で、依頼はすでに4件終えている。


 倉庫から商店への荷運び。


 用水路に詰まった枝や泥の除去。


 町外れの家畜小屋の修繕補助。


 迷子になった山羊探し。


 どれも危険はほとんどなかった。


 ただ、4人は意外と楽しんでいた。


「冒険者って、もっと魔物ばっかり倒すと思ってた」


 ルークが言う。


「町の何でも屋みたいだね」


 ミナが答える。


「困ってる人の仕事を代わりにするんだから、これも冒険者なんじゃない?」


 ノアが言う。


「山羊探しは結構大変だったけど」


 エマが笑う。


「あれ、ルークが追いかけ回したからでしょ」


「逃げると思わなかったんだよ」


「追ったら逃げるでしょ」


「魔物より速かったぞ」


「山羊だからね」


「山羊、強かったな……」


「強くないよ」


 そんな話をしながら、4人は採取場所へ向かった。


 目的地は街道から少し森へ入った場所だった。


「依頼書だと、この辺」


 エマが周囲を見る。


「赤葉草20束」


 ミナがしゃがみ込んだ。


「これじゃない?」


「違う」


 ノアが即答する。


「葉の先が丸い」


「あ」


「赤葉草はもっと尖ってる」


「分かってたよ」


「今摘もうとしてたじゃん」


「確認しただけ」


「去年も同じこと言ってた」


「今日は摘んでないから!」


 ルークが笑いながら周囲を見る。


「向こうにあるぞ」


 木の根元。


 赤みがかった細長い葉。


 まとまって生えている。


「これだ」


「20束ならすぐ終わりそう」


 エマがしゃがもうとした。


 だが、ノアが止めた。


「待って」


「何?」


「全部取らない方がいい」


「なんで?」


「根元の小さいのまで取ったら、次に生えてこなくなるから」


 ミナが頷く。


「セリアも言ってたね」


「必要な分だけ」


「じゃあ、大きいのを中心に集めよう」


 4人は分かれて採取を始めた。


 しばらくして。


「18」


 ノアが数える。


「あと2束」


「向こうにまだあるよ」


 ミナが立ち上がった。


 その時だった。


 ガサッ。


 少し離れた茂みが揺れる。


 4人の手が止まった。


「何かいる」


 ルークが小声で言う。


 エマが周囲を見る。


「1匹?」


「分からない」


 ノアが耳を澄ます。


 ガサッ。


 今度は少し右。


「移動してる」


 ミナが杖に手をかけた。


 だが、すぐには抜かない。


「薬草、あと2束だよね」


「うん」


「ここで取らないと駄目?」


 ルークが聞く。


 エマは周囲を見る。


「別の場所を探した方がいいと思う」


「僕も」


 ノアも頷いた。


「何がいるか分からない」


「じゃあ移動しよう」


 4人は採った薬草を持ち、ゆっくりその場を離れた。


 追ってくる気配はない。


 少し離れてから、ミナが振り返る。


「何だったんだろ」


「分からない」


「見に行く?」


「行かない」


 エマとノアの声が重なった。


「冗談だって」


「ルークなら言いかねないから」


「俺じゃないだろ!」


「昨日、山羊追いかけたじゃん」


「あれは依頼だ!」


「逃げる山羊を追い回す依頼じゃないよ」


「結果的に捕まえただろ」


「3人で反対側から囲んだからね」


 結局、少し先で残り2束も見つかった。


 帰り道。


「止まって」


 今度はエマが言った。


 街道脇。


 草の倒れ方がおかしい。


「何か通った?」


 ルークがしゃがむ。


「足跡ある」


 大きい。


 草鼠や角兎ではない。


 爪の跡。


「黒猟犬?」


 ミナが聞く。


「違うと思う」


 ルークは首を振る。


「もっと広い」


 ノアも見る。


「1匹だけかな」


「分からない」


 エマはその先を見る。


 跡は森の奥へ続いている。


「これ、ギルドに言った方がいいよね」


「うん」


 4人は場所を覚え、そのまま町へ戻った。


 ギルドへ入ると、すぐに受付へ向かった。


「赤葉草20束です」


 ミナが袋を渡す。


 受付の女性が中身を確認する。


「傷みも少ないですね。規定量あります」


「あと、途中で大きい足跡を見つけました」


 ルークが続けた。


「どの辺ですか?」


「街道の東側。町から歩いて半刻くらいのところです」


「どんな足跡?」


「爪があって、これくらい」


 ルークが両手で大きさを示す。


「1匹?」


「分かりません」


「追跡は?」


「してません」


「どうして?」


 ルークが少し困った顔をした。


「何の魔物か分からなかったので」


 受付の女性が頷く。


「それで正解です」


「また正解」


 ミナが小声で言う。


「何?」


「いえ」


 受付の女性は報告内容を書き留めた。


「こちらで確認しておきます」


 それから4人の冒険者証を預かった。


「少し待っていてください」


「?」


 4人が顔を見合わせる。


 待っている間。


「お前たち、最近よく見るな」


 声をかけられた。


 振り返るとダリオだった。


 今日は大剣を背負っていない。


 隣にはカレンもいる。


「依頼ですか?」


 ルークが聞く。


「今日は休み」


「Aランクも休むんですね」


「そりゃ休む」


「毎日依頼するのかと思ってました」


「死ぬぞ」


「え?」


「休まず戦い続けたらな」


 ダリオは笑う。


「休むのも仕事だ」


「なるほど……」


 ルークが真剣に頷く。


「そこまで真面目に受け取らなくてもいいけど」


 カレンが苦笑した。


「お前たちは今日は?」


「薬草採取です」


「へえ」


 カレンが袋を見る。


「もう終わったの?」


「はい」


「魔物は?」


「会ってないです」


「物音はしたけど、離れました」


 ミナが答える。


「何か分からなかったので」


 カレンが少し笑う。


「慎重ね」


「先生たちに、分からないものには近づくなって言われてます」


「いい先生ね」


「はい!」


 即答だった。


 ダリオがその様子を見ながら言う。


「で、何を待ってる?」


「冒険者証を預けられました」


「なら昇格じゃないか?」


「昇格?」


 4人の声が揃った。


「多分な」


 ダリオが言った直後。


「ルークさん、エマさん、ミナさん、ノアさん」


 受付から呼ばれた。


 4人は急いで向かう。


「お待たせしました」


 受付の女性が冒険者証を4枚並べた。


「これまでの依頼達成数と内容、それから報告を確認しました」


「はい」


「4人とも――」


 少し間を置く。


「Eランクへの昇格を認めます」


「……」


 一瞬、誰も反応しなかった。


「え?」


 ルークが冒険者証を見る。


 F。


 ではない。


 E。


「上がった!」


 ミナが叫んだ。


「本当に?」


 エマも冒険者証を取る。


「Eって書いてある!」


「僕も」


「俺も!」


 4人の顔が一気に明るくなる。


「やった!」


「早かったね!」


「まだ数日だぞ!」


「何件やったっけ?」


「今日で5件」


「5件で上がれるの!?」


 受付の女性が笑った。


「普通は件数だけでは決まりません」


「え?」


「依頼の達成状況。依頼主からの評価。報告内容。問題行動がないか。総合的に判断します」


 ルークたちが聞く。


「あなたたちは全部きちんと終わらせていますし、草鼠の巣や黒猟犬、今日の足跡も報告してくれました」


「でも、黒猟犬は倒してないですよ?」


「倒したかどうかだけで評価しているわけではありません」


 受付の女性は言った。


「冒険者ギルドが一番困るのは、依頼とは関係ない危険に首を突っ込んで帰ってこない新人です」


 ルークたちは少し黙った。


「無事に依頼を終わらせる。その上で、必要な情報を持ち帰る」


 受付の女性が4人を見る。


「十分、Eランクに上げていいと判断しました」


「……」


 ルークは冒険者証を見つめた。


「ちゃんと冒険者やれてるってことですか?」


「そうですね」


 その一言で。


「やったあ!」


 今度こそ4人が喜んだ。


「もうEか」


 少し離れたところで、ダリオが呟いた。


「早いわね」


 カレンが言う。


「戦闘力で上げられたわけじゃなさそうだけど」


「むしろ、そっちの方がいい」


「そうね」


 ダリオは喜んでいる4人を見る。


「新人は、強いやつより生き残るやつの方が伸びる」


「随分気に入ってるじゃない」


「別に」


「昨日も見てたでしょ」


「たまたまだ」


「今日も話しかけた」


「目の前にいたからだ」


「はいはい」


 カレンが笑った。


「Eランクだと何ができるんですか?」


 ルークが受付の女性に聞く。


「受けられる依頼が増えます」


「討伐も?」


「増えますよ」


「よし!」


「ただし」


 すぐに釘を刺される。


「Eランクからは、Fランクより危険な仕事も入ります」


「はい」


「魔物討伐では、こちらが指定した数や場所を守ってください」


「はい」


「勝手に依頼の範囲を広げないこと」


「はい」


「無理だと思ったら帰ってくる」


「はい!」


 その返事を聞いて、受付の女性は頷いた。


「では、明日からEランクです」


「今日からじゃないんですか?」


「今日はもう依頼を終えたでしょう?」


「もう1件くらい――」


「ルーク」


 エマが止めた。


「休むのも仕事だって、さっきAランクの人が言ってたでしょ」


「……そうだった」


 ルークはダリオを見る。


 ダリオは笑っていた。


「素直だな、お前」


「先生たちにもよく言われます」


「そうか?」


「同じ失敗すると怒られますけど」


「それは普通だ」


「ですよね」


 ダリオは少し考えてから聞いた。


「なあ。お前たち、その先生たちに何を教わったんだ?」


「何って……」


 4人が顔を見合わせる。


 ルークが指を折る。


「走ること」


 エマが続ける。


「剣」


「魔法」


 ミナが言う。


「治療」


 ノアも言う。


「野営とか、薬草とか、魔物の見分け方とか」


「足跡」


「地図」


「水の探し方」


「毒」


「怪我人の運び方」


「荷物の持ち方」


「逃げ方」


「まだあるよね?」


「ある」


 ダリオが途中で止めた。


「待て待て」


「はい?」


「先生、何人いる?」


「4人です」


「4人で全部?」


「はい」


 ダリオがカレンを見る。


 カレンも少しだけ眉を上げていた。


「……随分、色々教える先生だな」


「冒険者になるなら必要だからって」


 ルークが答える。


「そうか」


 ダリオはそれ以上聞かなかった。


 剣士が最低限の応急処置を覚えることもある。


 魔術師が護身用の短剣を持つこともある。


 冒険者なら、野営や魔物の知識も必要だ。


 1つ1つなら、おかしな話ではない。


 ただ。


 ダリオの中に、小さな疑問だけが残った。


「基礎、か……」


「何か言いました?」


「いや」


 ダリオは首を振った。


「Eランク、おめでとう」


「ありがとうございます!」


 4人は揃って頭を下げた。


 その夜。


 宿の部屋で、4枚の冒険者証が机に並んでいた。


 Eランク。


「先生たち、驚くかな」


 ミナが言う。


「まだEだぞ」


 ルークが答える。


「でも上がったじゃん」


「4年も教えてもらったんだから、これくらいはできないと」


 エマも頷く。


「むしろ遅いって言われたりして」


「ありそう」


 ノアが笑う。


 4人は、自分たちが少しずつ冒険者になれていることが嬉しかった。


 それでも。


 先生たちと比べれば。


「まだまだだな」


 ルークが言う。


「うん」


 3人も頷いた。


 その基準がどれだけ高いのか。


 4人が知る日は、まだ少し先だった。

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