第94話 勉強は向き不向きがあるから。
「ぐへえ……」
俺は机に突っ伏した。
もう、何も入らない……。詰め込みに詰め込んだ気がする。脳のキャパを大幅に超過しているだろう。ダメだ……。
「初日よ?それで根を上げていたら、これから二十数日どうするつもりなのよ」
「まあ、いいじゃない。頑張っていたと思うよ?だからさ。多めに見ようよ」
スパルタ精神全開の華月さんと、俺を庇ってくれる星宮。
まるで天使と悪魔だ。
もっと最悪なものもいる。
「おいおい。ここのcommandは知らねえーよ。大天才of大天才のわたくしがどうにかして殺りましょう!?」
聖良さんは諦めて、図書館の共有スペースで寝っ転がってスマホゲームをしている。
つまらない勉強をしているからか、その楽しげな態度を心底羨ましそうに眺めていた。
ただただ気が散ってしょうがなかった。ある意味一種の拷問じゃないのかと思う。
「聖良?貴方はできたのかしら?」
この文言も聞き飽きたものである。
彼女がサボれば、適宜そのように言っていた。約30分から1時間おきぐらいに。
「あー。まあ?」
これも聞き飽きた適当な返事だ。
ああ。どうせしていないと分かる言動だった。
華月さんは聖良さん自身によって隠されているワークを引っ張り出す。
ペラペラと捲っていく。
「うん。やっているわね」
え、まじ?あんなゲームばかりしているやつが俺よりも終わらせるのが早いだと?俺と同じレベルじゃなかったのか?
もしや本気出していないから成績低いというあの厨二心くすぐられる人だったのか!?
驚愕していると華月さんが呆れた目をする。
その驚愕がお門違いと言っているようだ。
「やっているわねっていうのは、やっているということよ。ランダムな数字を書いているということよ」
な、なんて適当な……。
ぱっと見で確認するタイプの提出物ならベストアンサーだ。俺もちょっとはしたことがある……。されども、一対一の教鞭でそれをするのは勇者かよほどのアホなのだろう。多分聖良さんは後者。あれ、やはり俺よりも下なのか?
俺はほっと一息ついた。
「あら、それで安心しているというのならまだやるかしら?」
「勘弁してください」
だってこの感じだと本当に明日もするのだろう?
ここで疲れ果ててしまったら、寝過ごしてしまうなんて幸甚の至りじゃないか。それなら、もっとやればいいのだろうか?
勉強のし過ぎで気が狂ってきたらしい。柄にもないことを思っているみたいだ。
「まあ、四季くんは帰っていいわよ。私は聖良さんを教えないといけないから、これから大体3時間程度……」
「え?」
ゲームをしながら、バタ足をしていた彼女の足が緊急停止した。そして、急速に体を起こして走り去ろうとした。華月さんに足を引っ掛けられて、盛大に転倒したけれども。
「は、薄情なあ。勉強は拷問にも等しいでしょう?憲法36条、36条」
「無効」
「無効なんてある訳ないじゃない。国際条約でもあるから、拷問禁止条約」
「はいはい。政治経済が得意なのは分かったわ。けれど、今は数学なのよ。お数字観測しましょうね」
聖良さんの襟ががっちりと掴まれる。
ずるずると蟻地獄に落ちていくように引き込まれていく。向こう側は本当に地獄だったのかもしれない。
「ああ、別に星宮も帰ってもらってもいいわ。こいつの処置は私でなんとかするから。感謝なんて要らないわ」
堂々と、不気味な笑みを浮かべていた。
これ、絶対暴力めいた何かを使う気だろう。そんな時必ず口を挟んでくるであろう星宮を手際よく返したと言われても違和感がないぞ?
「まあ、そこまでいうなら、四季と帰るよ」
「あ……うん…」
俺はカノジョである彼女が虐められるだろう状況を見逃していいのだろうか?まあ。俺はカノジョだと思っているのか微妙なのだけれど…。
「助けてくれーー。ダーリン」
けたたましい叫び声が聞こえる。
俺は反射的に「図書館は静かにしろよ?」と返してしまって、この陰キャらしさというか、同類だとは思われたくなくて、俺は星宮と共に図書館から出ていった。
すまん。聖良さん。
今度は一緒にバックれよう。




