第93話 図書館で自習をするほどスペースがない。
市立図書館。
本がずらっと並んで、しかし、学校の図書館よりも漫画本が少ない市立図書館。
図書館は安心する場所の一つだ。特に平日昼間にいる同年代くらいの人を見ると無性に仲間意識を抱く。ああ。これは俺と同じ不登校組だなと勝手にね。それは思うだけで精神が安定するから、それはそれでいいのかもしれない。
結局今は夏休みで、同年代の人を見たとしても、全く安心しない。
むしろビクリと体を震わせてしまう。
あ、あそこに見たことのある集団がいるではないか。俺が約束していた集団が。
「ねえ。四季くん。頼んでおいて、遅刻はないんじゃないかしら」
ビックっと体を震わせる。急に顔を覗かせて、問い詰めるような口調で俺にそう放った。
「いや。夏休みですよ?こんな早く起きられるわけないじゃないですか」
時計の針は9時過ぎを示している。俺がいつもの起床時間は12時過ぎ。3時間早く起きるのは結構、及第点であるとも言えるんじゃないか?
「7時集合って知っている?」
「知っています……」
「2時間超過。旭くんは当然として、この明らかに遅刻しそうな神々聖良も来ているのよ?」
チラリと彼女は見る。
昨日、意味わからないくらいはしゃぎ倒したというのになぜ寝る選択肢をしないのか。驚きだった。
「疲れてないの?」
「全然?」
ニカっと口角を釣り上げた。
それでも、一冊も教科書を開けず、スマホばっかり見ている彼女は疲れないだろうと勝手に納得した。
「疲れているか、疲れていないかどうでもいいから、兎に角2時間分の機会損失ということですから。今から2時間分取り戻さなければならないわ。だから、スパルタで行きますから。ほら、早く教科書開けて?」
「え?」
あ。そういえば、そういう趣旨であった。
俺は見ての通り焦ってきたので、身一つ、財布一つ。カバン、筆記具すらもなかった。
「四季くん……。勉強する気ある?」
鋭い眼光が俺を穿った。
俺は後退りで、固まるしか無かった。
「じゃあ。もう、いいわ。ここは図書館よ。学校指定の教科書でもおいてあると思うから探してきなさい」
手でしっしっとする。
結構呆れているらしい。
「そんなのめんどーじゃん。わたくしのやつかしてあげるよ?」と聖良さんは言った。
流石俺のカノジョらしき人である。華月さん相手には頼もしい。
「貴方は勉強しないとまずいでしょう?そのわたくし、わたくしという一人称に似つかわしくない成績をしているのだから」
「えーー」
「じゃあ僕が貸そうか?」
半ば宥めるように星宮が割って入った。
「旭くんなら、まあいいわ。成績も申し分ないと思うし」
「じゃあ。貸すよ。一通り持ってきておいたからね」
華月さんが申し分ないというレベルなら相当なのではないか?
渡された教科書もしっかりと使い込まれている感じもする。
「じゃあ。まず、数学からね。とは言っても、国語、社会、英語なんて覚えればできるわ。教えることなどあまりないものでしょう?」
「そ、そうなんですか?」
勉強なんて引きこもりだったもので随分と触れていないからさ、どうしたら良いかわからないのが、俺なのだ。できることなら、全てに教えを乞いたいものだけれど、乞う人がこんな態度ではどうしたって、舐めているように見える。
どうせ、どこがわからないと言われて、どこがわからないのかがわからないと答えてしまうくらいなのだ。
「では、どこの単元からやりましょうか。夏季休業期間中に全て終わるかしら」
「え、まじ。全部終わらせようというのか?その一年分を」
「いいえ、三年年分よ」
ん?
三年分?
「いや、夏休みが終わりませんか?」
「余裕で終わると思うわ」
いやいや、いやいや。
「夏休みを夏期講習で終わらせるのは愚策だろう」
というか、そんなことすれば、人生で一番何かをした夏になってしまう。
いつもの食っちゃ寝るの毎日よりも過酷でしかない。
「でも、勉強したいと頼んできたのも、貴方でしょう?」
反論の余地はない。
「じゃあ。教科書開いて?まずは三平方の定理からするから。これは証明にひゃk……」
ああ。つまらない睡眠導入剤が始まった。
数秒で寝落ちをしたのは聖良さんだった。
俺はなんとか耐えて聞いていた。うん。華月さんは教師でもなった方がいい。
けれども、なったらなったらで、あまり好かれない教師になりそうである。こんなの口が裂けても言えないことである。




