第83話 遅ればせながら、登場。
「ど、どうして、桜場さんが!?」
「どうしてって?どうして?」
ニッカリと含みのある笑顔をした。
その笑みも久しぶりだった。
「いや、今まで何していたんですか!?あの、ずっと大変だったんですよぉおおお。えっと、あの……あの?」
桜場さんが消えた後のことを語ろうとして堰止まった。
色々なことが起こって、何から話せばいいのかさっぱり分からなかったからだ。
もどかしいということしか、わからないのだ。
「大丈夫だから、一つ一つ質問してくれて大丈夫だから、だから、こうしているのでしょう」
こうなっている?そういえば、今は授業中ではないか。しかし、なぜ俺は怒鳴りつけられていないのかと周りを見る。鉛筆を握りしめたまま、華月さんも、聖良さんも、星宮も、固まってしまっている。静寂なままだったので、その周りの状況に築きはしなかった。
「どうなっているんですか?」
「どうなっているって見たままじゃない?止まっている。それだけじゃん」
「意味わからないじゃないですか?現実ですか?現実なんですか?」
「ゲームだよ」
現実なことを言われた。
「簡単にいえば、プログラムを停止した」
「そ、そんなことができるんですか!?」
「まあ。結構難航はしたけれどね。上司の力を借りたから、こんな簡単にできたんでしょうけれどね」
「上司?」
「私の上司だよ。嫌なやつだけれど、有能な上司だよ」
へえ。信頼できる桜場さんの上司ならば、もっと信用できるのだろうと、安易に思った。
「で、こうして、時間を止めているのには訳があるんですよね?もしかして、俺が抱えている疑問を解決してくれるんですか?」
「まあ。ね」
また、ニッカリと微笑んだ。
なんでも聞いてくれと言わんとしているのだろう。じゃあと俺は畳み掛けるように質問をした。
「じゃあ。どこへ行っていたんですか?あの、今の状況わかりますか?」
「だから、そんなに興奮しないでくださいよぉ」
俺もどうなっているのかわからない。それでどうでもいいとか、冷静になれとか、そうものになるべきではない。危機迫る場面でそれはどうも呑気なんだろう?
「一個づつにしてくれないかな……?一個づつしか答えなれないからさ」
まあ確かに……。そんな聖徳太子でもリスニングはできるだろうけれど、スピーキングはどうしても一個づつであろう。
「じゃあ。どこに行っていたんですか?」
「ゲームの外さ」
「ゲームの外?」
え、自由に行けたんだ?そっか、俺がこんな感じで閉じ込められているわけではないよな……。
「ゲームの外で、別アプローチで対処していたんだ」
「別アプローチって何をしたんですか?」
「そこは企業秘密だよお」
茶化して言っていたけれど、曇った表情を見せていた。
何か外であったのだろうか?まさか、俺が帰れないとかないよな?
俺が不安がった表情を見せると、「大丈夫」と諭した。その大丈夫の裏には何があるのだろう。
「でも、それを予め知らせて欲しかったものですよお。聖良さんが急に消えたって言ってたんですけれど」
「ん?急には消えていないけれど、まあ。上司に呼ばれてしまったからさ」
上司は結構な権能を持っているらしい。
「まあ。いなくなった件は理解しました。そこはまあ。攻めても話が進まないので、置いとくんですけれど、この、世界はどうなっているんですか?ぶ、分裂している……じゃないですか」
「ああ。まあ。そうですね」
彼女はさほど深刻そうでもなかった。割とどうでもいいとそういう感じだった。
「いや。“まあ、そうですね”じゃないですから。え?結構おかしくないじゃないですか?この二重に進むこのストーリーは多大な影響を与えるんじゃないですか?」
「影響は限定的です。多少動作が遅くなるでしょうけれど、そんなヤワなAIを使っていません。ゲームにしてはやや、オーバスペックかもしれません」
そうか。PlayStation並みの破格さなら、心配することはない。
「二重に進むこの現象は不具合か……、まあ十中八九ないでしょうけれど。何者かによる、10章の強制進行です」
「強制進行?」
「あなたが華月さんとキスしたことにより、10章は壊れて、この8章に飛ばされました。しかし、その10章を強制的にでも進めた人がいたのでしょう。だから、無理繰りに進めようと試みたけれど、すでに8章が進行している。この結果、その二重になってしまっているということです」
「戻せないんですか?」
重い口でそう尋ねた。
「戻す。というのは違いますね。上書き、そういう形でなら、そのコンピューターへの圧力を抑えられると思います」
「どうするんですか?」
彼女はにこりとした。
そうして、こう聞いた。
「今は何をしているんですか?」
「そりゃあ。生徒会選挙ですけれど……」
「この話は8章なんですけれど、このゲームのコンセプトはわかりますよね?」
「まあ。仮想現実ならではの自由さ」
「そう。限りなくルートに乗った自由恋愛に見せかけた紛い物だとしても、狙った人と恋愛できないのは最悪。そんな時の救済手段がこのゲームには存在するのです!!そう。この章が実はこれは特殊ルートなんです。具体的にいえば、聖良か、舞賀祈を攻略する際のルート分岐なわけです」
彼女は自信満々にそう言った。
それから腰に手を当て、体を張って、指差した。
「つまり、その紙へどちらかの名前を書けば、攻略ルートに入れるわけです!」
桜場さんはそう言い切った。
テーマーパークの従業員が如く陽気に満ち溢れて。
「まあ。どちらも選びたくない時は白紙投票で、おそらく生徒会選挙編が消失し、卒業式という本来のルートに統合されるでしょうけれど。統合されれば、それを仕組んだやつの思い通りだ。だから、際はどちらか選んでもらわないと。上書きにならないでしょう?」
まあ。確かにそうだ。しかし、一つ思うことがある。
「切り替わった時点で、また強制進行が起きればどうなるんですか?そんな世界を切り替えて、また強制進行が起こって、また切り替えて、なら、それはイタチごっこになるんじゃないですか?」
「うん。鋭くいい質問だね」
褒められた。
「それは問題はない。なぜなら、君がヒロインを選ぶから」
「?」
「なぜだか、このシステムは君が中心に回っているらしい。だから、君が選び取った選択肢を尊重しているようだ」
「なんでですか?」
「なぜだかって言ったじゃないか。わからないよ」
桜場さんでもわからない理論を運用していると。
ちょっと不安になったものの、そうしなければ変わらないのも確かだ。
「どっちかを選ぶ。ぶっちゃけどっちでもいいよ?」
聞ける相手がそんな無責任なことを言ってくれる。だからこそもっとも苦手な行為をしなければならないらしい。
俺は手元に目線を落とした。白紙の紙が置いてあった。
桜場さんにはどっちでもいいことと言っていた。しかし、俺には悩ましい事実だった。
聖良さんか、舞賀さん。
この二人。どちらかが好きと言われれば断然、舞賀さんでしかない。
舞賀さんはもうすでに俺とラブコメみたいな、お風呂回を消費してしまった。あれは見てはいけないものを見た気分だった……。今考えるだけでも、むふふな気持ちになってしまうことよ。だからこそ、その無礼を働いてしまったお礼に選挙には一票入れてあげたい気持ちがあった。
じゃあ尚更、聖良さんという選択肢はなかった。
デート回というラブコメの王道回のようなものを消費しておきながら、訳のわからない勝負を挑んでくるし、詐欺師を送り込んでくるしは、全然いいところはなかった。
「どっちがいいと思いますか?」
「散々悩んでおいて決めかねるのもどうかと思うんだけれど」
「じゃあ。桜場さんならどうしますか?」
「うーん。私?私はね……。一度相手にしたことがある人がいいかも。あまりトラブルが少なそうじゃない?」
軽く桜場さんはそう言った。
だとしたら、そちらになる。俺はペンをスラリと走らせた。
「参考になった?」
そのようにした。
「なら、あの投票箱に入れてきなさいな」
パチリと手を鳴らして、時を動かした。
そして、隣でわちゃわちゃと喋っていた桜場さんは消えるように自席に戻っていた。再び消えたかと思ったじゃないか。変なふうにしないでほしいものだ。
俺は彼女にそういう愚痴を言おうと決めた。
その前に立ち上がって、投票箱に紙を入れようとする。投票した瞬間に視界がくすんで倒れてしまった。そういう転換点の辛さみたいなのどうにかなりませんか?




