第81話 これがよくある生徒会選挙。
ついぞ後半戦である。
前半戦はこの学校の黒歴史に刻まれたぐらい酷いものだったけれども、後半戦はそうでもない。不良生徒が束を組んで、全うに学校を乗っ取ろうとしているのに比べては、優等生の優等生による学校統治を謳うものである。
いわばそれらの戦いである。
真剣勝負である。
だからと言って俺は聞いているだけに過ぎないけれど、それでも出ているのは少なからず、友人であるのだ。
友人の頑張りを見届けない友人がいるだろうか?いないと答えるほどには性格、捻くれちゃいない。
「続いては、生徒会副会長候補、天川要さん。お願いします」
このアナウンスにも慣れた頃だった。けれど、ちょっと柔らかい口調だったのは逃さない。やはり、そのに置けても信頼できる演説が待っていると期待できるのだ。
「ご紹介に預かりました天川要です。私は良く周りから聞き上手だねと言われることがあります。その特技を、次は学校のために活用できないかと思い立った次第で、立候補しました。副会長に必要なのは、周囲の意見を調整する力です。私はテニス部部長という立場で培ったフットワークの軽さを活かし、教職員と生徒、先輩と後輩の隔たりをなくす雰囲気作りから始めたいと思います。そのためには私が推薦する舞賀祈さんが最も生徒会会長に相応しいと考えます。その理由は彼女の懐の深いフラットな性格なためです。相手の学年によって態度を変えない首尾一貫した態度はこの人に相談すれば大丈夫だという安心感が広まると考えます。その皆さんの声をカタチにする一番身近な生徒会にします。ぜひ我々に清き一票を宜しくお願い致します。ご清聴ありがとうございました」
深く、最も礼節を表す90度の礼を見せた。
そして、聴衆から一斉に盛大な拍手が送られた。日御池さんの時の演説でしていたようなことはしないけれど、俺も心の中でスタンディングオベーションをしておいた。
なぜなら、まともだったからだ。
そうそうこれだよ。これ。これが本来の生徒会副会長演説なんだよ。言い方は悪いけれど、このつまらなさというか、目標的というか、標語的というか、その臭さに俺は安堵を隠せなかった。
絶対この人はふざけないと分かっていたけれど、前のあいつらを見ると不安にもなりたくなるものだ。なにか、ニューロンが栃狂ったことをしたくなるかもしれないのだ。万が一の万が一に。
「ありがとうございました。続いては、生徒会会長候補、舞賀祈さんです。お願いします」
スポットライトが当たる。まるで、映画か何か始まるのではないのだろうかという高揚感が俺を包んでいた。
彼女は震えていない。寧ろ誰が見ても、堂々と、台の前にまで登場した。
漸く、彼女がスピーチをするのだという実感が湧いた。俺の心臓が最大限に跳ねた。
俺は彼女との練習を振り返った。一番最初の演説は酷いものがあったものの、でも、練習の回数を重ねていく内に聞いている俺でさえも凌駕する圧倒的なスピーチに生まれ変わったと、俺は我が子のように思う。だからこそ、俺は本人以上にドキドキしているような気がした。
「はい。紹介に預かりました。生徒会会長候補。舞賀祈です。私は……」
この後の演説の内容は聞き飽きたほどだった。練習で何百回も聞いた内容なので、空で俺も話せてしまうかもしれない。それぐらいに聞き飽きた代物だった。
なんか、目安箱の設置とか、校内の風紀改革だとか、まあありきたりな内容である。AIで生成したと言われたって変わりは無いし、さっきの天川先輩の演説とは大体内容は同じである。だから、誰かにとってはつまらないと感じられる出来である。失礼だけれど。
されども、俺は確かに覚えている感情があった。感動である。俺は心なしか大粒の涙を流していた。空で言える俺が言ったとしても、ここまでの感動を誘えるはずはないだろう。
「ぐすん…、あ、あ」
俺は袖を拭っていた。
神々しい演説だった。皆んなそう思っているのだろうよ。俺が育てたという色眼鏡なしでも、皆も思うでしょう。
あああ。うう。成長してぇ……。もう、お父さん、ハンカチを手放せないよぉお。
降壇する際のやりったと言う笑顔を見ると、俺は感動してならない。あ、俺の方を向いてウィンクをしたような気がする。
「な、なんですか?えっ。大丈夫ですか?」
隣の女子に心配されてしまった。困惑ともいうかもしれない。生徒会選挙で急に泣き出している意味の分からない男子生徒であるのだ。
「あ、大丈夫です」とコミュ障らしく、“あ”から話し始める伝家の宝刀を取り出した。
「そ、そうですか……」
その女子生徒は苦い顔をして頭を下げた。え?気まずいんだが?ちょちょ。隣の人とこんな気まずい状況になると思わなかったんだけれど。怖い怖い。
舞賀さんの演説によって感動していたその実感が、それによってかき消され、なんとも言えない感情に包まれてしまっていた。
はっきり言えば白けてしまったものだ。涙もすっかり引いてなくなってしまった。
なのに、もっと白けることになった。
何故か、随分と大人しい演説で終えた彼女。そう、聖良さんは再び壇上に登壇、いや、乱入して、司会者のマイクを略奪することに成功する。
あ、嫌な予感がする。
「ハ~イ。やっぱり、悄気てしまったねぇ。じれったくなってしまったねぇ。じゃあ、その気を取り直して……、テンションあげてこううう」
これはもはや陽キャじゃない。
なにかしら指導者や、教祖様、はたまたアイドルだとか、そう言う先導者の風靡がある。そう、簡単に言えば付いていけない。
こんな後味は悪くとも、生徒会選挙立会演説会は崩壊という形で幕を閉じたのだった。




