第80話 生徒会選挙出禁。
「四季くん?遅いわよ。貴方にはまだ昼休みに見えるのかしら」
さっきの聖良さんのことを考えながら、教室に戻ると華月さんが毎度お馴染み火力の高い文言を吐き捨てた。また遅刻してしまったらしい。卒業式の時も遅刻。生徒会選挙演説も遅刻。俺っていうやつはどんだけ遅刻したら済むんだろうか。
「ははは。すいませんね」と苦笑いしながら、飄々と交わしていく。この対応も慣れたものだった。
「すいませんと思うなら早く並ぶことね」
周りを見ると俺を怪訝そうな顔をしていた。ああ。俺が最後だったらしい。俺は華月さんに見せた恭しさよりも恭しく、ペコペコと頭を下げながら、列に並ぶのだった。
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昨日設立した生徒会選挙の演説会は想像以上に盛り上がっていた。
全員がフィーバーと化しているわけではないよ?それなら、俺は不登校に不当ながらなるしかないが、実際はコソコソと話しているその話し声が堆積していって、この大きな盛り上がりを見せていたというだけである。
主席番号の近い人に知り合いのいない俺では話す人がいないのだけれど……。ああ。知っている人は桜場さんなのだけれど、その桜場さんはいないし、いつになったら彼女は来るのだろうかと憤りを感じながら、その周りの話し声を聞き取るぐらいならできるのだ。
どれどれ……。
「聖良さんよね」「俺はやっぱり王道を征く舞賀系ですかねえ」
「舞賀さん一択!」「聖良様!!聖良様!!」
なんか聞いてはならないくらい激しい奴らばかりだ。
そこまで生徒会選挙に賭する熱気はなんなのだ?
でも、冷静な分析をするとなぜか舞賀さんも、聖良さんも半々くらいで推移しているような気がする。
どして?な、なんで?そこが一番のミステリーじゃないのか!?やっぱ俺の時みたいに詐欺師日御池さんが練り歩いて、だまくらかして指示されて勝ち取った支持ではないのか?俺はそうやって疑いの目を向けておく。
「これから、生徒会選挙立会演説会を挙行致します」
そうアナウンスされたところで、その騒がしかった体育館内がピタリと静まり返る。
「まずは、生徒会副会長候補日御池海桐花さん。生徒会副会長演説及び、生徒会会長応援演説をよろしくお願い致します」
そう言われると、辺りが暗くなりスポットライトが当たる。
聴衆は一点に集まっていく。
その黒髪、清純清楚なんていう言葉が似合う壇上の少女に。黙っていれば、生徒会の片隅にいそうな人である。が、そうもいかないのがその日御池という少女である。
「ご紹介に預かりました生徒会副会長候補に立候補しました日御池海桐花です」
あれ?案外まともなのか?
そりゃあ。捻りなんて入れる必要もなにもないから、ね。ほっと。心のどこかが安心したようだった。
「えっと。皆様は愛されていますか?それとも愛していますか?」
ぶっと俺は吐き出してしまった。え?は?その冒頭がそれでいいのか?え?誰がそれを許可したんだ?ああ。まともじゃない。
「私は愛しています。ただ一人を。それが重いだとか言われようとも、なにを言われようと、愛しています。それを一途だとか、健気だとか、言うんでしょうか。しかし、そんな話は幾らでもあります。私じゃなくていい。そう。アニメやドラマの主人公によくあることで、現実にも多少そういうことがありますから、その人たちが語ればいい。だから私の話は沢山あるうちのただの一人なんです。だけれど、だけれど、その沢山あるうちの一つが私にさもありなんと出会ってしまうとどうして特別に思えてしまうのでしょう。世界でただ一つのものを受け取ってしまったと思えるのはなぜでしょうか。そして、それを誰かに伝えなくてはならないと義務感を抱いてしまうのはなぜでしょうか。幸せ自慢?自分を良く見せたい?そうじゃありません。だってまだ、私は結ばれてさえいません。ですが、聞くところに寄ると恋すると遺伝子レベルで変わってしまうらしいです。その答えは受胎に備えるというロマンチックのかけらもないことでしょうけれど。そこから得られる私の教訓は……。恋する女の子は最強なんですっ!」
にかりとクラクラするようなはにかんだ表情を見せて笑った。
聴衆全員がその日御池劇場に釘付けだった。彼女の演説が終わることにはスタンディングオベージョンをするバカな輩もいたけれど、俺はしばし考えた。
日御池さん。これ。やったた感を全面に押し出しているけれど、これ違うだろ。
生徒会演説じゃないだろ!結局会長の応援演説もしていないし……と思ったところ。
「あ。ついでに神々聖良もよろしくです」とまるで自分が主役かのようなことを言って彼女の演説は終了した。
応援なのに応援していない。俺はポカンと呆然としていた。
周りを見るけれど、満足している奴もちらほらといる。だから、大層な拍手をもらえているのだろう。しかし、それでも俺と同様困惑している奴もいる。
「次は生徒会会長候補。神々聖良さんお願い致します」
その騒がしさを静かにするのもまたアナウンスだった。
同様にスポットライトが当てられ、注目が集まる。心なしか、さっきよりも注目度が高まっているような気がした。
それから、注目の人物が登壇する。
彼女はマイクに指を添えて。「ピイイイイイ……」と煩わしい音が鳴り響く。
皆が皆静まり返る。強者が登壇したみたいだった。
「すみません。やってみたかっただけです」
なんだこいつ。
「えっと。手短に。公約は規制緩和。散々ビラを撒き散らしたので、いうことはそれだけにします。話長いのは嫌でしょう?投票よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた。そして降壇していく。
多分1分も経っていない。
聞いていた全員が思っただろう。は?え?これで終わり?
演説終わりの拍手なんてなかった。みんな呆気に取られていたからである。
しかし、俺は怒りを覚えていたのである。
お、おま……お前勝負を申し込んでおいて、そのあれは……舐めているとしか考えられないだろう。これを聞いている舞賀さんはどういう気持ちなのだろう。勝負を申し込んでいない俺でさえ、こんなに五臓六腑が煮えくり返りそうだというんだ。舞賀さんはこの世のものと思えないほどに激昂なさっているだろう。
え?そんなことをして。聖良さんはなにを考えている?なにを企んでいる?ただただ掻き乱したくなったのか?それともそれ以前に何も考えていないというのだろうか。
俺は彼女のことがなにも分からなくなっていた。




