第79話 異変があったら引き返すゲーム流行ったよね。
舞賀さんと猛特訓を繰り返していたら、もう間も無く、五時限目が迫ろうかとする時刻だった。なので、舞賀さんは打ち合わせか何かがあるらしく、お先に消えていった。
その理由で、おそらく聖良さんは退場したのかとそれを聞いてから思わされた。
俺も教室で並んで行かないといけないだろうし、遅れたらデレデレ華月さんではないから何か愚痴愚痴言われるだろうし、(仮にデレデレ華月さんだとしても愚痴愚痴は言われるのである。じゃあなにも変わらないじゃないか!?)気持ち早めに行こうかと思った。
思ったのだが。
「あら。四季?」
角から飛び出てドドドドーん。冗談です。
角から、一歩間違えればラブコメお約束の食パンダッシュのような構図で聖良さんは登場した。されども走っていないので、やっぱりぶつかることは無い。
ラブコメもない。(泣)
「さ、さっき出ていったけれど、用はもう済んだのか?」
「用?用って何かあるのかしら?」
「いや、さっき勝負を強制的に申し込んで、教室から出ていったじゃないか」
グッキリと首を傾げた。
あれ。さっきの聖良さんとは違うのか?
かと、勘繰っていた最中、ワンテンポほど遅れて「ああ。そうだね。そう言えばそうだったわね」と言い出した。
「自分で言ったこと忘れているんですか?」
「忘れることもあるわよ。だってわたくし人間ですもの」
「その割に堂々をしているのだけれど」
「堂々とするのも人間だからよ。開き直りなんて、人間くらいしかしないでしょうし」
「まあ。確かにそうですけれど」
その言葉もまるで開き直りと言えるだろう。
「なんかあったんですか?」
「どうしてそんなこと思ったの?」
「いやあ。なんか柄でもないことを言っているから」
「柄でもな……い?」
ちょっと焦ったような声を発した。
「いやだって。いつも開き直っているように見えるからさ」
「そうですか?」
「そうでなきゃ。華月さんにあれはできないでしょう?」
くすりと口角を上げて微笑した。
「わたくしのことよく見ているんですね」
ううん……。
だからこそ、俺はちょっと違和感というか…、はっきりどこかとは言えないけれど、それが現代人の悪い癖と言えばそうなのだけれど、理由もなく違うと感じてしまっている。
「どうしたの?そんなに考え込んでさ」
「いや、別に……」
口でそう言いつつも、俺は聖良さんの顔をじっと眺めていた。
本人は「そんなに美人かなあ」と喜んでいたけれど、それもまた俺の中の聖良さん像を打ち砕いた。聖良さんではあるけれど、聖良さんらしき人だと心の奥では思っていたのだった。
「ていうか、俺なんかと喋っていていいんですか?」
「仮にも旧ダーリンじゃない」
「ちょっとそれは新がいる見たいじゃないですか」
「残念ながらいるんだよ」
「華月結音とか言い出すんじゃないでしょうね」
「まあね」
あれ。今日は「まあね」だけでいいのか?なんだかさっぱりしている。毎度毎度、飽きずにダラダラと華月さんのことを話すのに。いつもというか初めから愛とか恋とかに猪突猛進で、絵に描いた餅みたいに盲目な人なのに……。
今日は「まあね」だけで済んだのか。そのさっきの一瞬間でなにが起こったというのか。
俺は若干薄気味悪さを感じて、話題を転換することを試みる。
「こんなやりとりをしたい訳じゃないんだよ」
「じゃあ。どんなやりとり?」
「いやあ。あの、生徒会の演説会のリハーサル多分始まっていますよ?」
「そうなの?」
全くもって危機感を思わせないボケーとした表情を見せた。
やっぱり忘れてしまっているのか?だったら……。
「だから、早くしないと遅れますよ?」
俺はボケーとした眼に喝を入れる思いで、そう言った。
聖良さんに喝が挿入された。言えば急に慌て出して、そちらに向かう準備をし始める。
「あああ。そ、そういうことね。だとしたら、わたくし、まずいね。じゃあ。あの。またね。ダーリン」
チュッとしまいには投げキッスをしてきた。
俺は違和感というか、悍ましさというかそういうのがこれ見よがしに爆発した。
いやいや。さっき話した聖良さんと今話した聖良さん。あまりにも何か違いすぎません?
もしやして、生徒会選挙戦の聖良さん、卒業式の聖良さん、そのまた別の聖良さんだとか違いますよね?違うといいんだが……。




