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例えば男女比1:30の世界で、例えばそんな世界だからこそ免罪符で女の子に……とかないんだがっ!  作者: √宮ハルヒ
第一部

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第8話 テニスはそんなに血気盛んだっけか。

 スパっ。スパっ。

 ラリーがずんずんと途切れるはずもなく続いている。

 続けなくては、尊厳に関わる程度のその必死さもひしひしと感じさせられた。


「オラあああ。負ければあ?」

「貴方こそね。はっ」


 獣の声が聞こえる。本当。俺がやっていたものがお子ちゃまの遊びだと思ってしまう。

 別に先輩が下手とかじゃなくて、むしろ先輩のテニス捌きにはエロスティックすらも感じたのだけれど。貴族の遊びじゃあなかった。


 はあ。俺はその仁義なき戦いをあの群衆のように眺める訳でもなく、冷めた目でまたベンチに舞い戻った。俺、スポーツするとやっぱこんなことになるんやな。先輩は彼女らの点を数えるために向こうに行った。俺は一人になった。


 彼女らを応援する気も起きない。ぼうっとベンチで眺めているのが定位置でそれはそれで安心材料であった。


「えっと。四季。す、すまん。こんなことなって」

 

 一人でもうスマホをいじろうかと考えていた俺のところに渦中の相手、星宮が来た。


「いーや。別に。俺とは全く関係なさそうな雰囲気がしていますし」

「まあ。まあ。そんなこと言わず、それでも迷惑をかけているから、それはそれで謝らせて欲しい」

「それなら、俺じゃなくて、そこで不憫に審判を担っている、せ…天川要さんに終わったら謝ってあげて欲しいですね」

「後でするよ。それは絶対…」


 にこりと屈託のない笑顔を見せる。これがあの戦いを産んだことを露知らず、平然と誰にでも向けるのだろう。笑顔を振り撒くだけで女にモテる。羨ましい限りだぜ。


「で、これはどうしてそうなったんですか?」


 俺はあの戦いを横目にそう尋ねる。

 あの尋常じゃない殺気。そして、もう始まって5分程度は経っているはずなのにあの体力の底の見えないプロ級の試合の訳を。


「まあ。それは、複雑でもなく全然単純明快なんだが…」


 星宮はやや言い淀む。


「僕と、結音ちゃんは幼馴染というのは話したんだろうけど、聖良ちゃんもまあ中学時代同じクラスの同窓生なんだ」

「へえ。だ、だとしたら名前も覚えてない華月さんひどくないじゃないですか!?」

「いや。基本的に結音ちゃん。人の名前覚えないし、人にも声かけないし。当然僕の名前覚えてくれるのも結構かかったし、僕らか話しかけないと一生接点持てなかったものだよ」

「へー」


 あら。じゃあ。俺は何?すぐ覚えたのだけれど。え、何。華月さん俺のこと好きなの?


「それに歯牙にも掛けない相手だと、本当に歯牙にも掛けないから」

 

 あー。それはもう想像に容易たやすい。

 話しかけられた俺に対しても、すぐ相手にしない毒舌攻撃めったざしが多かったような。いや、なんか王族と庶民の戯れがごとくサラッと弄ばれていうるって感じがする。


 神々聖良みわせいらといったかな。あの人プライド高そうで無視されるとかありえないタイプの人だ。それがいじられキャラになった瞬間あのように闇堕ちしてしまうんだろう。


「だからこそ。あんなに拗れているのだろうと僕は思うんだ。もう、全く」

「心中お察しします」


 あの群衆でまみれている見ずらいコートをなんとか眺めて見ても拗れ具合が半端ない。

 まだ掛け合いの喧嘩してる。

 まだラリーが続いている。むしろ仲が良いのでは?と思わされる。


「あら、もう。バテてきました?」

「な、何をいっているんですかー。今からですよー?」

「まあ。粋がっちゃって。お可愛いことだわ」


 くうーっと。神々さんは地団駄を踏む。それを利用してスマッシュを打つ。

 打ち返された。


「あーははは。不意打ちだと思ったのでしょう。残念。無念ね。これで勝てないなら一生涯私に勝てないのでしょうね」

「あー。むかつく。むかつくんだけど。あー。あんたの全部が憎らしい」

「憎らしくて結構。貴方は私にとってどうでも良いもの」

「ははは。わ、わたくしが女だからというのですか?」

「いや、別に。関係ないでしょう?」

「関係ありますぅー。あんたの友達、男ばっかでしょーが」


 あ、言いやがったぞこいつ。初日であるが、初日であっても華月さんが女から嫌われる女であることを見抜いてしまうくらいだぞ。


「それは、貴方がた女の方が仲良くしてくださらなかっただけでしょう」

「そ、それは」


 口籠る神々さん。そりゃ男が貴重な世界で、男と悠々自適と関わりを持つことのできる彼女を皆寄ってたかって嫉妬するのはわかる。

 俺だって友達に彼女ができたら嫉妬はする。流石にハブにしないけれど、女子世界と男子世界の在り方は根本から違うのを俺は知っている。


「と、とにかくっ!わ、わたくしの好きな人取るなあああ」

 

 ついに反論の余地もなく、思いの丈が爆発した。

 それは本気の愛。などとは感じられなくて、文字のまんまだった。

 公開告白に近い。俺なら後悔すべき事態だが、特段皆、当たり前かのような視線を向けた。前から公言していたのかな?


 俺は星宮の方へ目を向けてそれを聞きたかった。同時に群衆の視線が全く同じところに集まったのでそれどころではなかった。


「ははは。申し訳ないです…」


 ただ一言。後頭部を掻いて憎めない笑顔をする。

 そうだよ。俺じゃないにしても注目されると勘違いしてしまうほどには焦点を当てられていたのは間違いないのだから。胃がキリキリする。


「好きな人?ああ。なんかあったわね。旭は絶えず恋文が届く程度にはですものね」

「ふざけるな。ふざけるなっ。ふざけるなあーっ!!」

「そこまで声を荒げると醜いですよ」

「かと、言って何?両手に花かよ。そこの男子と旭くん」


 またこちら側に視線が集まる。それは俺も含めてそうだった。

 辛い。スマホさんに目を落としてどうにかやり過ごす。

 相も変わらず星宮は王族みたいな笑みをこぼしていた。


「クソビッチ。あんた一つぐらいは譲りなさいなあ」

「はあ。まあ。はたからみればそうなんでしょうけれど、クラスの女子たちに責められ後ろ指を指されるのはたまったものではないわ。いつか胃痛か、刺されて死ぬんでしょうね」

「自慢話を聞きたいんじゃない」

「あら。じゃあ。貴方がどうにかして彼を落とすことに専心することだわ。こんなことしてないで」

「むきいいい」とテンプレのような怒りの表現をしたけれど、彼女は最後の最後でボールを取りこぼしてしまった。

 

無慈悲にボールはコロコロと転がっていく。無慈悲に神々さんはコートに手と膝をついた。


「ほら。私には勝てないって言ったでしょう。私はそう天才だから」


「15−40。華月結音の勝ち」と先輩は高らかにそう宣言した。

 試合が終わった。だけれども、歓声は一向に上がらない。


 皆華月さんの負けを願っていたかのように。だから皆呆然としていたのだろう。しかし、また彼女が勝とも誰も思っていたのだろう。


 そんな彼女ら彼らを如何ともせず、ツーンと尖った口角をあげて、髪を掻き上げて、まあなんともなかったみたいに華月さんはこのテニスコートを去ろうとする。


 ああそうだ。そういえば、彼女に誘われてこんなところに来たのだった。

 お、追わないと。

 そうベンチから立ちあがろうとすれば、星宮に腕を掴まれた。


「ど、どうだと。思う?」

「まあ。華月さんもその神々さんもどっちもどっちで悪いだろうね」


 これが俺の総評だった。

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