第77話 打ち上げを断る勇気。
卒業式の余韻に浸っている俺であったが、いやはや……。そんな時間もないのが今日という日なのである。校舎に掛けてある時計を見るに間も無くで12時と言ったところである。
すでにお昼時である。意外と卒業式は長かったんだな。
もう少しだけ、早く終わるかと思っていた。これなら約束の時間も近いじゃないか。
「四季。これ終わったら、打ち上げにでも行こうと思うのだけれど、中華にしたいと思っているのだけれど」
「あ。あ……」
そうか、さっき何となく言っていたよな……。打ち上げに行きたいと。
俺も行きたいのだけれど、中華とか食べてみたいのだけれど。満漢全席。まあ。学生の身分でそんな贅沢なものを食べられるとは思っていない。というか、昨日舞賀さんの家で俺は最後の晩餐を食べたのだ。世界線は違うけれど。
だから、これ以上贅沢なものを食べてしまったのなら、俺は罰当たりで天罰でも降りかかってしまうかもしれない。そういう気持ちを持って、勇気ある断りを入れようと決意する。
「あの、華月さん」
「結音と呼びなさいと毎回言っているのだけれど、聞き分けがないわね」
まだ、照れくさいのだよ。半分は付き合っていないものだからさ。
「じゃあ結音さん」
「はい」
「申し訳ないんですけれど、俺これから用事があって行けません」
そう言った瞬間、時が止まった気がした。
あ、俺、言ってはならないことを言ってしまったらしいぞ。
「そう。なら、残念ね。けれど、卒業式なんていう大切なイベントがあるというのに、用事を入れるのは大層大馬鹿者ね」
うわあ。これは結構楽しみにしていた口だ。そりゃ。卒業式の日っていうものは、式が挙行されている時ではなくて、式が終わってからが、一番盛り上がるところである。その盛り上がりに俺は水を刺してしまって白けさせたと言っても過言ではないのだ。
だから、俺は頭を下げることしか叶わない。ただ、今のカノジョに誠心誠意の謝罪を受け入れてもらうしかないのだ。
「いいよ。行ってきなさいよ。私は私で楽しんでおくから。主に……まあ。星宮ら辺かしら」
嫉妬のような目線を向けて俺の前から立ち去った。
またあったのなら、何か奢ってあげなければ。物で釣れるとは思わないけれど、しないよりはマシだろう。
この万札ばかりで買い物していたから小銭で重くなってしまった長財布で奢ってあげよう。今確認したけれど、全然足りなかった。
これから舞賀さんに会いにいくのでついでにお金も借りてしまおうかな。
ああ。今は約束を果たすのが優先だ。どうして、苦渋を舐めて打ち上げを断ってきたというのだよ。このためじゃないか。
俺は出来るだけ、急いで卒業式を終えて出てきたルートを逆戻りする。
卒業式の後に学校に行かなければならない生徒がいるだなんて、学校嫌いには最悪なことである。俺もその一人であるのは変わりないのに、こんなことをしているだなんて悪夢だろう。
一度、校舎の中に入るとさっきまで卒業式という非日常であったのに、何事もなかったかのように平常運転が続いている。窓の外を見ると未だ卒業式を続きが続いている異常さを知るのは俺だけなのだ。急勾配の急落だ。
「窓の外に何かあるの?」と俺に話かけてきたのは舞賀さんだった。
昨日の風呂の一件があるので、ちょっと意識してしまうけれど、男装をしている舞賀さんだった。
「ああ。別に……。なにもないですよ。舞賀さん」
「そう。それならいいんだけれど。てか、今日はもうこないのかと思っていたよ。華月さんに聞けば、来てないというからびっくりしたよ?え、今から登校なの?」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと色々立て込んでいたからね」
ほんと色々だよ。これからも色々なんて、色々疲れてしまうことよ。
ビックイベントの後にビックイベントなのだから尚のことだろう。
「まあ。事情はよく分からないけれど、取り敢えず来てくれてありがとう?って感じ?そして、練習する時間も惜しいからさ、早速行こう?」
「あ、まあ。そうですね。どこでするんでしょうかね?」
「元々自分自身で練習するためにさ。多目的室を借りていたんだ」
そりゃ熱心なことで何よりと、じゃらじゃらと纏められている教員用の鍵を見せてくれた。
中高生が多目的と聞いてムフフとなってしまうあの部屋か。
そう考えてしまう俺もまだ高校生。
「えっとさ。あれから練習した?」と俺は場つなぎ的に質問をした。
「したよ。結構。でも、遅くまでしてたから、おばさまに怒られちゃったね」
「あー。そうか。結構律儀な人って感じだったからさ、想像通りっちゃあ想像通り」
「あはは。それでもやったからね。結構上達したから」
「じゃあそれを見せてもらおうか」と言ったところで、丁度よく多目的室に到着する。
流れるように扉を開けようとするも、「あれ。空いている」と舞賀さんは言った。
「空いてる?」
「誰も使う予定はないって聞いたんだけれど……」
俺たちは顔を見合わせて、固唾を飲み込んで、扉を開けた。
その刹那、強風が舞い込んだ。見るに部屋の窓は全開になっていて、その前に聳え立つ髪の翻った少女がいた。
「聖良さん!?」
「やあ。果たし状を突きつけてきたぜ」
ワイルドに彼女はこちらを睨みつけてきた。
かっこいいと思ってやっているのなら、やめた方がいいですよ?返って格好悪いですから。




