第76話 式の後が式をしている感があるのは否めない。
最後の退場まで日御池への怒りを抑えつつも、ぎこちなくも卒業式は終了した。
何だかあっさりだったと言う感想だけだった。
退場が終わって、知っている人が誰も出席番号の近い人がいなくて、トボトボと歩いていると、華月さんが校門のあたりで腕組で堂々待ち伏せしていた。
「四季?何やっていたの?」とこの聞いていることは卒業式中に色々あったからだろう。
「いやあ、色々ありましたねえ。あははは」と誤魔化してみるけれど、含みのある目線でじっと見つめられていた。
「まあいいわ。貴方が恥を晒そうが……いや、やっぱり、私も恥ずかしいわね。改善しなさい?」
「いや、まあ……。改善って言ったって……」
俺はその経緯を説明した。
それが言い訳と取られても仕方がないと思うけれど……。
「じゃあ。私はその日御池海桐花を殴ればいいんのかしら?」
「そんな物騒な」
そんな物騒なことを言い始めるから、殊、何をしでかすか分からない華月さんだからなのか、日御池さんへの怒りは収まっていた。
「もう終わったことだろう?今のことについて語ろうか」と俺はこう言い出すほどだった。
「貴方がいいというのなら、私はもうどうでもいいわ」と華月さんは言った。
なんて切り替えのいい人なんだ。
「閑話休題。今日は卒業式よね」
「そうですね」
「卒業式の終わりにすることなんて大体決まっているじゃない?」
唐突にクイズが始まったのだけれど。え?卒業式終わりにすること?俺は小中学共に、若干の不登校気味だったから、することなんて一つも思いつかないんだけれど。
「強いて言うなら、打ち上げ?」
「それは一段階飛ばしたものだわ。まあ。やりたいとは思っていますよ?」
「あ、そうなんだ」
行事ごとにドライな彼女かと思っていたけれど、まあ。そうだよ、卒業旅行なんて言い出したのはかくいう華月さんじゃないか。何もおかしなことではない。寧ろ順当だろう。
「じゃあ。華月さんは何をしたいのですか?」
「そりゃあ。ねえ」
華月さんは周りをキョロキョロと見渡す。それにヒントが隠されているのか?俺も合わせてキョロキョロと見回す。
桜が舞い散り、人々は狂喜乱舞になっている。
舞賀さんは女の子に告白されているようだ。そういえば、学校では男ということで通っていたな。すっかり頭の中から抜け落ちていた。
まあ。舞賀さんよりもすごい数の女の子に取り囲われている星宮の方がすごいと思う。あれだけ行けば、寧ろ恐怖と言っても差し支えないだろう。
「告白?」
「それはもう済んだだろう?」
確かに。
俺はとんでもなく的外れなことを言ってしまったらしく、頭を抱えて「はあ」と一息ついた。
「あそこを見てみなさい?」
カップルが第103回卒業式祝なんて言うよくある看板の前で写真撮影を行なっている。
「ああ。写真ね」
「そう。私だってああやってあの人たちみたいに浮かれた気分を写真収めしておきたいと思ってもバチは当たらないでしょう?」
まあね。だって今日は晴れ舞台なのですから。
それにしたって、なんて回りくどい言い方なのだと思うけれどさ。俺みたいな察しの悪い人にはやめておけよ?
こんな心配を傍に俺たちも看板の方へと向かう。
「えっと、そうは言っても撮ってもらう人がいなかったわね?」
「聖良さんは?」
「呼んでも来ないのよ」
「呼んでも?」
「ほらこうして手を鳴らしているのだけれど」
「それはなんかやばい空気が漂っていますね」
そんな電話のワンコールなんて目じゃないみたいな連絡お化けじゃないですか。
「あ、ちょっとそこの日御池さん?」
「あ、はい?私ですか?」
うげ。今の彼女には決して会いたくなかった。
だって華月さんが何をしてくれるか分からないからだ。
「私に殴られる or 写真撮ってくださる?」
華月さんの方を日御池さんは一瞥した。
そして、そこから横の方に視線をずらす。
「あはは。カレシくんじゃないですかーあ。卒業式の時は大変爆笑させていただきました!ごちですっ!!」
「ホントふざけ上がって、許さねえ」
「あははあ」
二人ふざけていると割って華月さんが憤慨した様子で口を開く。
「で?撮ってくださるの?くださらないの?それともやっぱり殴られたい口?」
「いやあ。旭くんのストーカー……じゃなくて、監視じゃなくて、保護?まあ分からないけれどそれをしなくちゃいけないから……です」
「あら。拒否権はないわ。バカなのかしら」
「え?」
「拒否権はないわ。貴方は常任理事国ではないもの」
それはどこの国連ですか。
そんな圧を掛けまくるものだから、萎縮してしょうがなく日御池さんは華月さんの駒使いに成り果てることを了承した。殴らなくてよかったあ……と安堵するのは俺だけではないはず。
「で、あの。はい。撮りますからー」
強制的にやらされているのもさながら、なんてやる気のない声をしているんだ。
対照的にちょっと照れくさそうにしている華月さんがいる。こっちを見ておこうか。
「じゃあ。はいチーズ」と適当に連写して、適当に渡して、適当に退散していった。
「適当なやつね」
ついには華月さんは言ってしまった。
「まだ、写真の出来栄えを確認していないというのに、退散するのはいかがなものかと思うのだけれど」
「まあ、いいじゃないですか」
そこまで、悪くなる要素がないじゃないですか。
そう思っていたのも、写真を見る前だった。一枚目、二枚目、三枚目、以下省略。
サブリミナル効果ばりに人が映り込んでいる。これはよく知る人物。
苛立って、華月さんはパンパンと手を鳴らした。
「神々聖良ーーーーーーーー!!!!!!」
「呼ばれて飛び出てほら参上。聖良ちゃんでーす」
物陰から唐突に現れて、ピースピースと指でチョキを作ってアピールをする。やや、ぶりっ子ぶって。それが華月さんの癪にベタベタと触れていく。
「ねぇ。私、四季と写真を撮りたかったのだけれど?」
「わたくしも結音ちゃんと撮りたかったんだけれど」
「貴方は要らないわ早く消えなさい。ああ、消えてしまったら、良くないわね。責任もって私たちの写真を撮りなさい?」
そう言ってスマホを聖良さんに渡した。
「でもぉ、結音ちゃんとわたくしツーショットが撮りたいんだけれど?」
「嫌だわ。そんなことする人とは」
「そんなあ。堪忍やって結音ちゃん」
華月さんの腰周りに引っ付いて、籠城作戦を展開させる。ブンブンと跳ね除けようとしてもアロンアルファみたいにくっついている。さすがの冷酷無比な華月さんであろうと、その粘り強い行動に心が折れて「後で撮ってあげるから。だから、早く私たちを撮ってくださる?」と引き攣った顔で渋々お願いをしてみせた。
言われた聖良さんはもう舞い上がって五月蝿かった。背に腹はかえられぬと言った華月さんは即刻後悔していた。
しかし、撮られた写真を見て、彼女は照れたような表情を浮かべていた。
「四季。もうちょっと髪とか整えた方が良かったかもしれないわね」
「じゃあ整えてから、もう一回撮りますか?」
「いいわよ。これもこれで思い出なのだから」
にこりと俺にだけに向けた満面の笑みを浮かべた。
それに呼応して桜が散っていく。これだけで一つの絵になっていくようだった。
ああ。卒業式っていいのかもしれないと俺は初めて思えたのだった。




