第69話 反復横跳びは得意じゃない。
星宮をしてから、教室へと舞い戻って来たが、普段と変わらぬ日常がそこにあった。
と、言うか選挙期間内という日常があった。
10章かと思えば、こちらは8章が進行している。
モニターを2画面で再生して、やっぱりついて行けなくなっている状態だ。
えっとこちらはまだ何も起こっていないのかな?
「華月さん今何の時間ですか?」
「何の時間?貴方こそ、何の時間を過ごしていたのよ。随分と舐め腐った態度じゃないの」
「も、申し訳ないです」
黒板の時間割を見るとあれから1時間以上は経過している様子だった。間も無く昼と言った感じだ。
「で、どこにいたのよ。私なりに先生に頼まれてちょっと捜索したというのに、どこにも見当たらなかったのよ?」
「見当たらないって?俺は図書室にいましたけれど……」
「あら…おかしいわね…。その辺りも見に行ったんだけど、貴方の存在感のなさで、見当たらなかったのかしら?」
見当たらなかったてっ……。
もしやすると、あの空間だけは10章になっていて、こちらの8章の華月さんは視認できないということなのか?それが本当ならば、少し実験に付き合ってもらいたいところなのだけれど。
それが証明されたら、俺は10章と8章を反復横跳びするヤバいやつになってしまうけれど。
「まあ。いいわ。結局見つかったのだから。そうそう、貴方。職員室行きなさいよ?見つかったら、言うように先生から言われただけだから、ちょっとよく分からないのだけれども」
「え?終わった?」
「終わったのは貴方の人生だけにしておきなさいな」と最大限の嫌味を吐いて、俺を外へ追いやった。
そこまでされたのだったら、俺は仕方なく職員室に赴くしかなくなった。
全く気乗りもしない。
廊下が幾星霜も離れている気がする。
「ははは。だーあレダ」
目を両手で隠された。
「聖良さんですか」
「そうデース」とにははと笑うけれど、俺には誰かわからなかった。
ああ。皮の聖良さんということは声色で分かるんだけれど、どっちの聖良さんかは分からなかった。
「華月さんにひっつかないんですか?」
「いーや?選挙戦があるからね。まだ色々とやることがあって忙しいのだよ。手伝ってくれる?」
ああ。選挙戦の聖良さんらしい。その会話を出してくれないと、どっちがどっちなんて区別できないんだ。華月さん見たくわかりやすい変化ではなかったからね。
「無理ですよお。俺。先生に呼ばれてしまっているんで」
「それはあれか?わたくしじゃなくて、舞賀の方に肩入れしていたから、釘を刺されるって言うこと?」
「そんなことあったら汚職も甚だしいでしょうよ」
「でも、わたくしか舞賀だったら」
「舞賀」
あっ、ついつい反射的に答えを言ってしまっていた。聖良さんと比べて、性別詐称をしている点を除けば清廉潔白な正統派美男子を選択してしまっていたああ!?咄嗟に口を塞いでみるけど、時すでに遅し。
聖良さんの機嫌は最低を記録していた。
「四季。お前。ちょっとこい」
ガッチリと腕を掴まれて、撤退さえ許されない状況に追い込まれてしまう。
「い、今から訂正できないでしょうか?」
「無理。わたくし一度決めたことは曲げませんの」
今は曲げて欲しいのだけれど。一歩、二歩近づいて来る。顔が近い。同時に圧が強いんですけれど。
「俺、先生に呼ばれているって言っていなかったけ?だから無理なんだけれど」
行かなかったら、先生にぶち殺されてしまうでしょうよ。それに華月さんのメンツの問題もあるだろうし。板挟みでプレスされて圧死するぞ。俺。
しかし、こちらの事情など些事らしく、聖良さんは「生徒会長(候補)に呼ばれている方が重要でしょう?」とかいうとんでもない理論を展開した。
反論なんて差し込む時間は与えられなかった。
聖良さんにぐいっと手が減り込むぐらい腕を捕まれる。そんなことだから、声は雄叫びぐらいしか上げられない。
「うるさい!?」
なんて最悪な女だ。
色仕掛けで捕まった俺だが、今度は暴力で訴えかけられているではないか。
非力な俺は抵抗虚しく連れて行かれる。こいつ本当に女子か?
てか、一つも聞いていないんだけれど、俺どこに連れて行かれるの?




