第68話 漠然としたイメージは多分人に伝わらない。
なんかドッと疲れた気がする。決めるだけなのに。いいや、おれは決めることが苦手なので、何も決めなかったから、というか、あのゆるーいグループの指揮系統である華月さんがその放棄をしてしまったからだろう。
大将が死んで仕舞えば、軍隊が空中分解になることが身に染みて分かってしまったようだ。これから俺は何を学んでいるのだろうと、思ってしまった。
取り敢えず、疲れた精神を癒すために向こうの華月さんのところにでも行こうと思った。なんか全てを峻別してくれそうないい人だからな。そんなこんなで俺が教室へ戻る途中だった。
「ねえ。四季?」
星宮から話しかけられた。
急に話しかけられたものだから、びくりとしてしまったじゃないか。
「どうしたの?」
「いや、別に……」
若干歪ませた顔を星宮はした。
「もしかして旅行の計画に何か不満とかあった?俺も不満点は結構あるんだけれど……」
まだ舞賀さんの別荘に行くことしか決まっていないんだもの。
どこにあるのか。そこへ行くまでの道程が何なのかすら一言も分かって居ないんだ。卒業旅行に行くにしても、準備をできるわけがない。
「それは別にいいんだけれど……」
それはいいんだ。まあ星宮は全て旅行がお膳立てされていても、何であっても楽しめそうだものね。いいね。俺は楽しめるか楽しめないかは分からないけれど、流されて行きはするだろうね。
でも、旅行の話ではないらしい。じゃあ。なんだろうか。
「今日のことなんだけれど。今日だとは限定しなくてもいいんだけれども、昨日とか?」
昨日?昨日はなんかあっただろうか。あまり身に覚えがない。こういう話の仕方は何かしてしまったのだろうかと考えてしまう。俺は星宮に何か悪いことでもしただろうか。
悪く言われるようなことなんて一切していないと思うし、むしろ可哀想なまでのことしかされていないような……。勿論、他の人に。
そういうわけで、考え込んでもひとつたりとも思いつきやしなかったので、星宮の顔を見る。
「いやあの。じゃあ今日なんかおかしくなかった?」と星宮は言い出す。それに俺は「おかしい?」と鸚鵡返しをした。
おかしいことはいっぱい、いっぱいあったよ?
俺の知っている皆んなが二重にいるなんて言うのは最もおかしなことだ。本当、今だに混乱が隠せないものだ。しかし、これを星宮に言ったとしても、信じてもらえないんじゃないか?とそういう思考が入った。もっと日常的な何かじゃないのか?
だから俺は「いいや、別に何も」と本当に何もなかったかのような顔をした。
星宮ははっきりとした落胆したような顔をした。
そして、「そうなのか?僕だけなのか?僕だけなのか」とぼそりと呟いていた。それが何なのか推測すらもできそうになかった。
「何かおかしなことがあったの?」
俺は直接的に訊く。
「いや、う、う〜ん」
ちょっと苦渋に満ちた顔を星宮は見せる。
そして、言うか、言わないかを考えていたようだ。
「なんか、漠然とした違和感があってさ」
漠然とした言いだ。
漠然とした顔をしている。
これではなんの掴みもないじゃないか。でも、相当言葉を選んだような物言いだ。吟味に吟味を重ねていそうだ。
「と、言うのは?」
「まあ。それだけなんだけれど」
深く探ろうとしたのに、霧をつかんだようだ。星宮が何を言おうとしているのか全然分からない。混迷を極めてきた。
「それを俺に話してどういうことなの?」
俺はその意図が分からなすぎて、珍しくもズバリとそう言ってしまう。
星宮は口篭った。そして、考えていた。
「いや、それを話したかったんだ。でも、その理由といえば、全くわからない。なんか知っているような気がしたんだ」
なんだその全幅の信頼感。そこまで友情を育んだだろうか。
けれど、その違和感を分からないまま、俺に話しかけてくるのは幾ら友情があるからと言っても以心伝心できないよ?それを信じて言ってくれたのなら大分、衝動的なような気がするけれど。
その後、星宮は考え込んだ。それでも、話始めることはなかった。本当に漠然だったらしい。だけれど、そのせいで気まずくなってしまったよ。
俺はその星宮に向けて、苦笑いするしかなかった。何か話題を提供しなければ。
「ああ。そうだ。桜場さんがどこにいるか知っていますか?」
「どうして急に?まあ。確かに今日は来ていなかったようだけれど。それがどうしたの?」
やっぱりそうなんだ。
桜場さんはどこへ行ったのだろうな。こんだけ聞いても桜場さんが見つからないとはどんだけ、隠れるのが上手いのだろうか。
「まあ特にないよ。ちょっと気になっただけ」なんていうお決まりの台詞吐いて置く。
それで、自然に星宮との話は終わった。
この中身がありそうで良くも分からない会話だった。俺は心の中に澱を植え付けられたかのようにモヤモヤとし始めた。桜場さんに続いて、こちらも考えなければならないのかと。
俺は気付けば教室に向かって早歩きしていた。そういうことを考えたくなかったのかもしれない。




