第56話 関わりなかった人が連絡くれるのってそう言うこと。
昨日の妹のことを考えながら、学校に行く道中に「よおっ。カレシくん」と呼び止められた。
カレシくんだなんて言う黒歴史みたいなもんを引きずってくれちゃっているのは大体絞れる。3人、いや2人しかいない。俺は眉を顰めつつ、振り返る。
「日御池さんですか?」
「そんな疑問符にならなくて大丈夫、安心して。日御池さんです」
陽気なテンションで言われるものだから、俺の陰気さも目立つ。
「その日御池さんが何の用ですか」
「用がなければ、話しかけてはダメですかー?じゃあY Oと言っておくきますYO」
「そういうわけではない気がするけれど」
YOのYOのYOのYOOOOと。
DJっぽい真似をする彼女は陽気さの塊だった。およそヤンデレではなさそうな感じだ。むしろ逆というか。
「しかし、カレシくんのような人はやっぱり用を言わなきゃダメですかあ。安心しないのんですかあ?」
「正直に言えばそうなんですけれど」
「ははっ、やっぱりです!それならカレシくんと華月さんはどことなしか似ていると思います」
急にそんなことを言われたので、心臓がドキッとした。
似ているから、似ていたから、彼女華月結音が思ってしまったからあのようになってしまったのか。そう気の迷いを発生させるモヤが生まれた気がした。
俺はそれを拭うかのように、「そ、そんなことないと思います」と慌てて否定をした。
ちょっとは嬉しくなったけれど、いずれは戻らなければならない俺なのだ。
思い入れは捨てなければいけないのだ。
「えー」
乗り気じゃない態度に日御池さんは不満を露わにする。
「お似合いだと思うんですけれどー」と彼女は譫言を言う。無視だ。無視無視。
「用がどうとか言っていたけれど、用と言うのはこれなのか?」
「別にー?そういう訳ではないんですけれどさあ。もっと雑談に花を咲かせる気は無いんですか?コノヤロー。ほら私たちさ出会いが最悪だったじゃないです?」
最悪どころじゃない。
誰もその関係値から話しかけたいとは思わないくらいだ。
昨日、話しかけられた気がするが、それは生徒会選挙だとか言う隠れ蓑があったから成り立っているまでと言えたのだ。
「人の第一印象は3秒から5秒で決まるらしいので、日御池さんのレッテルは地に落ち過ぎていますよ」と雑学でも披露して彼女に過ちを自覚させよう。
軽蔑して近づかないだけマシだと思っておいてほしい。
「はっ。はっ。じゃあ。もっと関われば3秒か5秒かの割合は低くなるから仲良くしましょう」
謎理論を展開した。
「だって、パラメーターの尖った部分だけ見られても私って感じじゃないんです。だから、ちゃんと喋って、そのイメージを払拭したいんですから」
「まあ。それもいいんですけれど、俺たち、あんま関わりないから話すこともないんですけれど」
「はっきりと言うものなんですかあ。酷いですなあ」
会話慣れしていないから許してほしい。
「だから、用を用意してきたんです!!」
納得。この人結構機が使える人なんだ。恋する人には全く頓着なく使っていないけれど。
「てか、YO YO言ってないでその用を言って欲しかったんだけれど」
「まあ。そこは愛嬌じゃないですかー」
「凶悪だよ」
にははと小さく笑って彼女は誤魔化した。
いや、流石に誤魔化されませんけどお?
「で、用ってなんですか?」
「大したことじゃないんです。票稼ぎのためのそれ」
ああ。あ〜。軽蔑した目で見る。
「何ですかー?そんな目で見られたら興奮するじゃないですか」
軽蔑した目もできなくなったから俺は困り果てた。
さっきの第一印象の論理を払拭したいとか何とか言っていませんでしたか?逆に掘り返してしまっているのだけれど。相手にするだけ無駄だと思った俺はさっさと学校へ向かうことにした。
「ま、待ってください」
「な、何だよ」
「さっきのは嘘でぇ……。本当はカレシくんと話したかっただけですから」
「ああ。さいですか」
「だから…。ま、待ってください」と言われて、袖を掴まれた。
おいおい。俺は星宮じゃないぞ。その……俺に色目を使ったところで何もないぞ?何も生まれないぞ?
でも、待ってしまうのは、そのこの構造がいけないのだろうか。ゲームのキャラとわかりつつトキめいてしまう俺も悪いのだろうか。
「分かりましたよ」
俺はポッキリと心が折れた。
やれやれと先だっていた足を彼女の足に合わせた。
「じゃあ。じゃあ。何を話しましょうか」
「ないですよ」
「いいや。あるんですぅ」
俺の否定に覆い被さるように自信満々にそう言った。
「何ですか」
「いやあ。私ね。二年にもなって。と思うんですけれどね。人の名前とかうる覚えなんです」
コントみたいな物言いに対して内容は自信なさげな打ち明け話だった。
だから、カレシくんだとか酷い名前で言ってくるのか。俺はフリーだ。
「俺もクラスの全員は流石に覚えていないからどうしようって話ですね」
「漢字を書くってなったら、それはもう書けなくて」
「確かにそうですね」
「だからさ」と言ってポケットに手を突っ込んだかと思えば、徐に紙を取り出した。
「カレシくんの名前書いてくれませんかー?」なんて言い始めた。
「俺の名前書けなかったのかよ。全部常用漢字だぞ」
「いいから。いいから」
そう強引に催促されるものだから俺は一端の達筆に見せかけた悪筆でスラスラと書いて見せた。
「ほらよ」と手渡すと彼女の口角は気持ちが悪いほど上がっていた。
俺の悪筆に笑いを抑えられないのだろうか。
それを見せびらかすように他人に渡した。いや、聖良さんだった。
「あはは。海桐花。やったわね」
「ええ。朝飯前ですぅー。こんなの」
な、何か良くない会話をしている。待て待て状況が。
「どう言うことだ」と声を張り上げて彼女らに詰問する。
「どう言うことってさっき書いたのは契約書でしょう?」
「契約書?何の?」
「投票契約。神々聖良に投票することを誓いますっていう……」
はあ?おい?はあ?
それは公職選挙法違反……だとか思ったけれど、もうダメだ。ここは一学校の選挙で、しかもその法が有効ならすでに引っかかることばかりやっている集団である。言っても無駄がもっとも普通の落とし所である。
俺はため息をついて、日御池さんを見た。
「テヘヘ」と照れ隠しをする。
今日この日。日御池海桐花の俺の中のイメージはですます口調の見た目だけ清楚系ヤンデレ変態から詐欺師にジョブチェンジを果たした。




