第54話 国会選挙は適当。生徒会選挙は利己。
確かに生徒会選挙というものはあるらしい。
朝、門を潜るときは何もなかったというのに、放課後になると活発にその姿を見せていた。
ビラ配り、演説。まるで本物の選挙みたいなことをする。
中学の時の生徒会選挙なんて体育館で演説して、はい投票って感じだったぜ?やはりゲームだ。規模が違うし、まさに想像する通りって感じだ。
ただそれにしても近所迷惑かってくらい五月蝿いという印象を受けた。華月さんもそう公表していたがなるほど。それはほとんどあいつのせいだろう。
「え〜こほん。本日。本日から一週間余りお世話になる神々聖良でっ〜す。好きな食べ物はパフェなんですよ〜。訳あって、縁あって立候補させていただきましたあ。より良い学校にしたいです。具体的には規制緩和なんですけれど〜。公約はビラ受け取って貰ったらわかるんでw w。まあ。なんとかなるんですけれど……。え〜と兎にも角にも一票を投じて貰わないとどうにもできないんですよ〜」
マイクも持っていないのに、馬鹿でかい声量で学校中に行き渡らせている。
その内容がいいも悪いにしても。
いや、その二択で言えば、悪い。なんだその粗末な演説は。演説どころじゃない。声優の舞台挨拶くらいのテンションで声優の舞台挨拶みたいな内容だった。じゃあ。それはもう声優の舞台挨拶じゃないか。
これとともに対照的に聞こえてくるのが舞賀さんの演説だった。
「このたび生徒会長に立候補させていただきました舞賀祈です。立候補しようと思った理由ですが、もう少し、意見を言い易い制度というものを導入したいと考えています。私は一年ないし二年間、風紀委員として働いてきまして、度々多くの人と関わる機会がありまして、ああの方がいい。こうのほうの方がいい。という意見が散見されましたが、結局は胸の内に秘めるばかり。そもそも、意見をしなければ何も変化はないのです。だからこそ、意見を言い易い制度というのを実現、可能にしていきたいと思っています。どうか、舞賀祈に清き一票をよろしくお願い致します」
声を張り上げるのは得意ではないようだ。俺の想像の範疇だったが、マイクぐらいは持たせた方がいいのでは?と思う。
ほら彼女の方がとてもいいことを言っている気がするから全校中に届くように。
ほぼほぼテンプレみたいな喋りだってけれども、聖良さんの《《あれ》》を聞けば、普通でも輝きを放つというものだ。聖良さんのは声がでかいだけ。悪貨は良貨を駆逐するというけれど、あれは事実らしい。
「ほらほらあ。そこで突っ立ているのでしたら、わたくしのビラを受け取ってくださいよ〜」
帰るタイミングを見過ごしたせいで、捕まりたくない方に捕まってしまった。
くっそお。そこでダラダラと考えていたせいだ。猛省しなければならない。
「ビラ受け取ったら、帰らせてもらえるか?」
俺はそんなことよりも桜場さんに会わなくてはならないのだ。
理由はない。会うと安心するからだ。
こいつは安心しない。そこにいる彼女も含めて。
「そんな訳ないじゃないですかー?カレシくん。でも受け取ってくださいですよ?」とビラを押し付け、嘲るように躊躇もなくくっ付いたのは日御池海桐花さんだった。
あのヤンデレの。チョコレートに愛情を混ぜ込んだあの日御池さんだった。
その日御池さんは星宮という聖人に公認ヤンデレ?として、同行を許されて有頂天の極みだったけれど、その肝心の星宮が見当たらないのだが。
キョロキョロと辺りを見回したところ、実に灯台下暗しだった。
日御池さんの正面。肩から腰までに伸びた襷に副生徒会長候補とデカデカと印字されていたのだ。
「副会長候補なんですか?」
「そうです。意外ですかー?」
彼女は腰に手を据えて偉そうにした。
すでに当選したようだ。
まあ意外というか何というか。ストーカーの聖良さんが生徒会長で、ヤンデレの日御池さんが副会長。
この並びなら納得というか……。これはただの犯罪組織にこの学校が乗っ取られてしまうだけではと感じてしまうくらいには納得感があった。ないけれど。
「はあ。華月さんは多分入れないでしょうね」
「どうして華月さん?」と本当に不思議そうに聖良さんが首を傾げた。
その後に思い出したかのように「ああ。そうね。わたくしその為だけに一意専心しておりますからー」と追い打ちで捲し立てた。
若干違和感があったけれど、それも次の来訪者のせいで消し去った。
「こらこら。生徒に過干渉すぎなのも、選挙としてどうなんだ」
ここに来て、舞賀さんが威風堂々と堂々登場。偉そうにしていた日御池さんがまさに小物に見えた。多分小物。確実に小物。
「これはれっきとした草の根活動ですよーだっ」
「さいですか」
「ですから、ねえ。関根。関根四季さん?ここに私のヌードがあるんですけれど、あっ。そこのカノジョたちっ!!ここに星宮旭秘蔵写真集があるんですが。いかがですかあ?」
「悪・即・斬」
スパリとその写真集は亡きも無惨な形にされてしまった。
正に外道。
それは舞賀さんにではなく、聖良さんに。外道な手段がすぎる。政治で言えば連日ニュースに取り上げられ、野党に揚げ足を取られる話題提供だ。
無数の女子たちの非難が聞こえる。
「旭くんのヌードを見せろ!?」「悪の枢軸。独裁主義者!!」「旭くんを独占する気か!!独占禁止法有効!!」
ロクでもない文言しか聞こえない。最悪だ。外道を推している奴らも外道。
そして、生徒会長候補の激突。
空中に火花が散っている。そんなシリアスを感じて、体は硬直した。
どちらともに支持者がいて、どちらともに負けられない信念が。
なるほど。華月さんが変に接戦になるとかいっていたのはそういうことか。
これは一票がどれほど大切かがわかるな。
「そうだよ。一票がどれほど大事かを学ぶ政治的教訓のある物語だよ。あはは」
水が上から下に流れるように、肩に手を乗せられた。
「ああ。桜場さん」
「そうだよー。桜場さんなんだよー。あはは」
「何ですか?」
「ほらほら。これをあげるから」と言われて選挙公約の紙をもらった。それは舞賀さん側のビラだった。
「でも、俺が入れた所で変わらないでしょう」
「あはは。それがダメなんですよ。若者のダメな所なんですよ。ほら。ゴミの中からより酷くないゴミを選ぶという気軽なやり方を取るのがいいですよ?」
「それは酷い言いようですね」
「まあ。そのビラを眺めてから決めてくださいよ」
「はあ。期待しないでくれよ」
俺はビラを見比べた。
生徒会長候補、神々聖良。副生徒会長候補、日御池海桐花。
生徒会長候補、舞賀祈。 副生徒会長候補、天川要。
あれ。天川先輩?天川先輩が副会長?
……。
俺は即断即決したのだった。




