第53話 一言で見方が変わったみたいだ。
俺は学校に遅れるから色々準備をしたいと桜場さんに言えば、瞬間移動の如く目の前から消え去った。
これがゲームの世界だなんだと言われなければ、ついにサイエンスフィクションがサイエンスリアルに変貌したのかと歓喜したことだろうに。
俺はそそくさと準備をしてリビングへと降りる。
あれ。今日は妹先に出てしまったのだろうか。うう〜ん。どういうことなんだろうか。まあ。いいか、こんなところで立ち止まっていたなら、遅刻してしまう。
俺は若干、駆け足で駅へと駆けた。
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教室に入る途中。教室プレートを見ると2年だった。
ははは。本当に2年なんだ。じゃあ。席が変わっているのかもしれないと思えば、別にそんなことなかった。そういえば鈍感な俺は気にも留めなかったが、10章の時でも変わっていなかった。それも教室ごと。ここはゲーム仕様ということらしい。まあ。いちいち変わるほど、気合いもないだろう。席替えイベントとかあるのだろうか。
しかし、この席には愛着すらも湧いているので、そのイベントは避けたいところだった。
「あら、登校時間ギリギリなのね」
隣席の美少女、華月さんが声を掛けてきた。
この人はゲームのキャラ。本来主人公と結ばれて然るべき存在。
俺にとってはつい最近、告白をされた華月さんだった。
時系列で言えばもう少し未来ということなのだろう。だから、今の彼女にそのことを言ったところで無駄なこと。それに玉響の侘しさを覚えつつ、いつものように俺は会話を始める。
「仕方ないだろう。バス通だから」
「それは理由になっているとは限らないわ」
「じゃあ。それが俺のセオリーなんだ。ギリギリまで寝てたいし、家にいたいものだよ」
椅子に深くもたれ掛かって、俺は適当な理由を言った。
「一理あるわ。私にはわからないけれど」
「5分前行動主義者か」
「その感じで合ってるわよ。四季くんもすべきよ。というけれど、しかし、酷よね。ゆっくりしたいのは山々なのに、家が遠いなんてね。それは大体親によって固定しているというのに」
それはもっともなことだけれど、なんて根本的なんだ。
もっと早く起きろとか、そういうことを言うんじゃないのか。なんかズレた提案だ。
「華月さんは家が近いのか?」
「そうよ。近い。電車通学なんてありえないわ。徒歩圏内だもの」
「羨ましい限りだ」
「そう?結構多いものだと思うけれど……。旭くんや神々聖良とかも」
幼馴染だとか言ってましたからね。そりゃあ近いのは当然な出来事だ。
うう。俺だけ仲間はずれですか。悲しい限りですよ……。
「そういえば、聖良さんは?」
その四六時中付き纏っている犯罪者予備軍でなくストーカー規制法違反者、神々聖良被告。
「彼女なら生徒会選挙の選挙活動でしょうよ。朝から五月蝿いからやめてほしい限りだわ」
「え?どうして?」
彼女が?生徒会選挙?
何かの間違いでないか?クラスの中心人物だった頃があったからおかしくはないけれど、今の彼女ならしないことではないか?本当はただ生徒会にストーカーの件で吊し上げにされているだけではなくて?
「どうしてって?生徒会長候補として出馬しているわ。校門で見なかった?ああ。四季くんが来るのが遅くて見られなかったんだ」
華月さんは疑心たっぷりな俺に義心として、教えてくれた。
俺は「なんで?」と聞かざるを得なかった。
「なんでって。出たいからでしょう?それかチャラチャラとしているからノリという線も拭えないけれど」
「か、華月さんじゃなくて?」
「あら。出て欲しかったの?御免なさいね。私は有能でも、人望はないのよ。神保町の本屋で立ち読みをする品行方正な少女であっても、男の友達がいるという点で、その人望は無に帰すわ」
解釈一致。
いくら有能でも、その姿が似合っていても、所詮学校の生徒会選挙はほとんど人気投票だ。それとほんのちょっとの人脈とカリスマ性。華月さんが持ち合わせているのはカリスマ性のみ。魅了する能力のないカリスマ性である。
意味が分からないことを言ってしまった気がする。
「他に誰か出るの?」
「舞賀祈。以上。だから神々聖良と舞賀祈の一騎打ちというところね」
「舞賀さん?」
「そう。まあ。風紀委員なんて堅物がする仕事だから腑に落ちるところだわ。生徒会長もその延長線上の出来事だろうね」
この時系列だとまだ舞賀さんは舞賀家の当主なのだっけ。
彼女のやりたいやりたくないに関わらず、おそらく家の意向なのだろうか。大体そんなものだろうな。俺が知っているあのナヨナヨとした彼女がしっかりと遂行できるのか悩ましいところだった。
「なんか属性の勝負みたいですね」
「そう?」
「ほら、陽キャと陰キャの勝負みたいですね」
「神々聖良が陽キャで舞賀祈が陰キャで」
「投票するのはなら舞賀の方かしら」
「そういうわけではないけれど……」
「じゃあ。顔の好みで神々聖良の方かしら」
「それもない」
あれだけは絶対してはいけない。顔はそうかもしれないけれど……。
なんでこう図星をついてこられるのだ。この華月さんはよお。
かといって舞賀さんに投票する気もない。無効票か。俺が投じるべきなのは。
「どちらに入れてもいいでしょう。多分接戦になるだろうから、どちらを勝たせたいかを選ぶべきよ」
「接戦?」
聖良さんのボロ負けだろう?
「まあ。私にとっては生徒会長選挙なんて歯牙にも掛けないところだわ」
「どうして?」
周りに耳を傾けると、その話で持ち切りだということはわかった。
それに逆行する物言いをするもので思わず聞き返してしまう。
「そりゃあ。ここが私立で、そこそこの規模のある学校だからと言って生徒会ごときで何も変わらないでしょう?そんな強大な権力を持つわけがないのは分かり切ったことでしょうに。漫画やアニメの話じゃああるまいし」
いや。華月さんそれは間違いです。
ここはゲームの中なんですから。
だからか、俺もあの聴衆のように気乗りしなくなった。まるで魂が抜けたように関心もない。どうせ予定調和のことなんだろうと、そんな諦めた言葉を吐きたくなった。
どうせ俺が主人公じゃあ。あるまいし…。




