第51話 夢を見るときは大体悪夢。
俺はパチパチと瞬きをしても未だ微睡んでいる。
ぼやけた眼を擦る余裕さえ無い。
けれど、知っている天井だった。
馴染みのある、毎日毎日引きこもっていたその部屋だった。
その生活が、戻ってきてしまうのか……。
遠い目をする。
俺は今見た夢の内容を小さく反芻する。
あー。なんか不思議な体験をした気がする。
俺がゲームの中にいるなんていう夢に。それにも関わらず全然モテない。意味の分からぬ都合の悪い夢。
そういう願望があるのなら、ちょっと俺の癖が疑わしくなってくる。
夢は脳が記憶を整理する際に見る断片的な記憶だ。自分の深層心理を反映しているなんて言う。そんな雑学を思い出して、絶望する。
「ねえー。お兄ちゃーん」
バコンと勢いよく扉を開け広げる。
ああ。五月蝿いのが来た。その騒音を和らげる思いで俺は布団を被る。
「なあにをしているのお兄ちゃん。朝からうちの声を聞けるだなんて素晴らしいでしょう?」
いや、全然素晴らしくない。
てか、現実世界の妹なら、俺の部屋を勝手に入ったりはしないのだ。
ANSER。俺が引き篭もりだから。
「なんで入ってきているんだよ。出ていってくれよ」
俺は横暴な態度で蹴散らす。
「いやいや、仕方ないでしょうよ。布団干すんだから」
「平日だろう?休日にやればいいじゃないか」
「いいじゃない。別に。随分と洗っていなかったことを昨日思い出したから」
適当な。
それで、こうして不登校ダラダラライフが出来ないのは最悪だ。
俺はなんとか、この布団を保守するために「時間ないだろう?」とぼそりと呟く。
「時間の有り余ったお兄ちゃんがする?」
「しないよ」
何も出来ないからこんな体たらくなのだろう。
「じゃあ。うちがするから」
「どこに時間があるんだ?」
そう問い詰めると、人差し指で顎を撫でる。
「まあ。学校が創立記念日だから……大丈夫だから」
なんだか嘘っぽいのだけれど。
もしかしてお前も不登校になってしまうのは、まずいぞ?この関根家に引きこもりになる血筋があるのかもしれないと、遺伝子検査をしてほしいものだ。
「まあ。大丈夫。引きこもりになりたい言い訳じゃないから。その証明にほら、うち、友達かな?今日は外へ出る用事があるからさ」
へえ。創立記念日なんて言うのは嘘じゃないのかもしれない。
「どこへ行くんだ?」
「ちょっとそこまで」
近所の人に聞かれたぐらいの淡白さに言った。
身内だろう?ちょっとは教えてくれよと思ったけれど、そういえば俺は外なんかに出ないから知ってもしょうがない。
適当に「ふーん」とだけ頷いておいた。
「まあ。好きにしたらいい。俺はもう一眠りする」
まだ6時なんていう健康極まりない時間だ。12時超えてから俺の中では健康的なのだよ?お分かり?
「バカなの?お兄ちゃんは寝たらまたすぐに昼夜逆転するのを学習しなさいよ。早く布団を捨てなさい」
そう言って、俺に纏わり付いた布団ちゃんを引っ剥がそうとしてくる。
「いや、そんなことできる訳ないじゃないか。お、俺の恋人だから。やめて、やめてくれ。俺の、フィアンセを……」
「恋人かフィアンセかどっちかにしなさいよ」
「恋人もフィアンセもいないからもう言葉の意味も忘れてしまった」
「なんて悲しいことを言うんだ」
憐れみの目線を向けてくる妹。
その行動が俺を一番惨めにしてくれちゃっているんだよ。
「えっと。ちょっと聞きたいんだけれど、お兄ちゃんはこの身のタイプはどんな感じの人?」
「は?」
急に何をいうんだ。俺の恋人の布団ちゃんの取り合いではなかったのか?
「ちょっと気になったというか、兄妹の仲を深めるちょっとした会話をしようかと思ってさ」
朝から?その思いつきで?
まあその思いつきで付き合うなら、俺も思いつきで浮かんだものを考える。
「まーあ。黒髪の清楚とか?」
なんか一番最後に思い浮かべた女性がそんな人だった。
それを反射で言っているような気がする。
「あー。うん。やっぱり」
適当に言った文言になんか意味わからないけれど、納得された。
「おっけい。じゃあ。色々わかったから、うち。もう外でないといけないから」
「オーケー。オーケー」
俺は流されるまま、goodマークを作った。そんな調子よくしたけれど、やる気はない。やる気があったら、こうしてベットから出られないなんて有り得ないじゃないか。
俺はまだ眠る気なのだ。さっきも言っただろう?俺は12時超えてからじゃないと健康的じゃないと。
そして妹の諫言を無視して眠りについたのだった。
また、あの夢を見たくなったのは違うと信じたい。




