第49話 ここにきて衝撃。
「ゲーム?」
俺の見ている世界本当にゲームなのか?
この清廉な空気、紺碧の空、森の緑。ましてや一番重要な人間だって舞台装置であると?
「ただの妄言か何かですか?」
俺にはこの見ている全てが仮想現実には思えなかった。
俺は俺自身の五感を信用した。
「いいや。全然」
「じゃあ。なんでそんなこと言うんですか?もしかして華月さんをこのようにした犯人なんですか?」
「その物言いは心外だ。むしろ逆であると言ってもいい」
「逆?」
「私はね。このゲームの管理者みたいなものだよ」
「管理者?管理者……?」
「まあ。管理者と言ってもそれはまあ……末端部分でいえない事態には陥っているけれど。それはこのゲームの沽券に関わるぐらいに」
物憂いた顔をする。多分聞いても話してくれないだろうなと直感した。
「証拠はないんですか?」
でも、聞くべきだと思った。だって華月さんと口づけを交わしたことが現実ではないと?その目の前の女は言っているのは許せなかった。
ねえ。華月さん。いつものように毒舌極まりない言葉で否定をしてくださいよ。と問いかけたところで彼女は全身を硬直させて、不動だった。
「彼女は動かないよ。君がエラーコードを入力したからね」
「エラーコード?」
「簡単にいえばキスだよ」
「キスがエラーコードになるんですか?」
「そうなってしまったから仕方ないでしょう?メッセージウィンドウがそう差し示しているんだから」
「ははは」
「まあ証拠になるかどうかわからないんだけれど」と言って彼女は自身にメッセージウィンドウを表示させた。
俺は悪い冗談か、夢かどうなのかわからなくなった。
「そんなに困惑しないでほしい。難しいとは思うけれどさ。今から全て説明するから、それを聞いてから判断してほしい」
「まあ。うん」
上目遣いでお願いされたなら、俺は首を縦に振る他にない。聞くだけならタダである。
「まず。この世界はゲーム『RAKUEN』と言う作品の中だよ。一部業界で旋風を起こした乙女ゲームというやつだ。君は知っているかな?」
「聞いたことあるような、ないような」
「まあ。知っていたら、ピンときただろうけれど。ピンと来て無い君に説明を施すと、その乙女ゲームは主人公にフルダイブできるゲームなんだ。主人公であるプレイヤーは変なことをしでかしても、AIが適宜シナリオを書いて進んでいく。まあ結構革新的な技術の詰まった素晴らしいゲームだ。さて、そのゲームの中に君はいるんだ」
「はあ」
つらつらと並べられた小難しい説明には飲み込めないが、一応頷いておく。
「だがね。君はその中のキャラクターではない」
「そりゃあ。当たり前でしょう」
「そう。主人公でもない。ちなみに星宮ってキャラが主人公なのだけれど……」
「えっ!?星宮がっ!?」
確かに優しくて。成人君主的な彼は主人公向きではあった。ヤンデレが好きな点を除けば。
まさか本当に主人公とは……。
「そんなに驚かなくてもいいだろう?まあ。だから君に用意された席はないし、結論的にはおかしくなった」
「おかしく?」
「ゲームシナリオの変更が度々起こるようになる。比較的レールの上に乗った自由恋愛という体をとっているから、これといったシナリオはあまりないけれど、それにイレギュラーがいれば難なく崩壊してしまう」
「俺のせいですか」
「そうでありそうでもないと言える。君程度では頑固としたシナリオは覆せない。ただ、モブキャラが追加された程度だったんだ」
「それはひどい言いようですね」
「そうでもないさ。だってこんな女の子にちやほやしてもらえる世界で一切君はモテやしないし、相手にされなかっただろう?」
確かにそうだった。俺がただの弱者ではなくて、制度上そうだったという話だったのか。衝撃である。事実であったなら信じたい。俺に魅力がないという致命的なことではなくて、安心はした。
「安心はできないさ」
意図せず桜場さんは否定した。
「だってさ。現にシステムは狂いに狂っている」
「こうなっているからですか?」
固まった華月さんを見つめた。
「それもあるけれど、ここはゲームさ。何章とかあるじゃないか。結構形式的だけれど、行事やイベントを峻別するためにそう名付けているだけだけれど。そして、今のこの時点はすでに10章だ。その証拠に入学式から、比べて三年は経過した時系列になっている。変わった時、1月だっただろう?寒かったはずだ」
え?10章?どういうこと?
確かに寒かったような気がするけれど……。ただ春で、桜が散っていたあの光景、先入観に囚われていただけなのか?
困惑を隠せない。
「1章から3章位までは曲がりながらも不安定に進んでいたはずだ。しかし、3章後半にして、いやもう1章から狂っていたかもしれないけれど、3章からは断絶した。そして10章まで飛び去った。最終章の10章までに」
「ど、どういうことですか?どうして最終章まで……」
「それはわからないですよ」
「わからない?」
「ええ。《《明確》》には」
明確を強調して自らの顎に触れた。
「一つの仮説を話そうかと思う。これは何度も強調するがゲームだ。ゲームのシステムにはゲームのシステム内の情報しかない。それはわかるかね?」
「まあ。わかりますよ」
「なら、3章。そこで何かしらパラダイムシフトが起こった。4章に進めないほどのとんでもないそれがね。でも、コンピューターというのは正直な者でね。3章の劇的な変更を受けて、何と無く繋がりそうなシナリオをAI自信が考えたのだろう。その結果。繋がったのが10章だった。そこまではよかったのだろう。まあ。よかったシナリオかというと別だね。なんか現行シナリオよりも支離滅裂だった気がする」
それは言われないまでもない。
華月さんの怒涛の説明を聞くまで何がなんだかわからないものを見ていたようだった。
三年の末に転校の話とかおかしかった気がするし。
「しかし、明確な意思を持った君とAIの操れるキャラである華月結音では齟齬が発生する。つまり君の行動は乱数だらけだった。だからついぞ動作不良を起こしてしまったのだろうという仮定だ」
「う……ん…」
俺の頭では完全に理解できた気がしない。
「だから、これを元の時系列に何処かで戻さなければならない。不具合をここで乗り越えたとしても、それは蓄積して行ってしまう。いつかデータが爆発するだろう。なので、不要物を消去するべきだろう」
「それはあれですか。俺という存在を消すことか?」
俺は声をやや荒げて言ってしまった。不具合。そんなの聞いていれば俺みたいだ。このゲームに不要な存在。本来要るべきでは無かった存在。
俺は確信をついてしまったのか、桜場さんは押し黙った。
「図星か」
「はい……」という首肯には一つの宇宙が誕生して消滅したかのような長い時間に思えた。
それと同時に俺は膝から崩れ落ちた。
「ははは。俺は、俺は最初から翻弄されているだけのただのバカだったのか」
ゲームのキャラにただ感情を動かされていたバカだったのか。ゲームのキャラに偽の恋人になってだとか、凛々しい毒舌キャラに惚れられたりだとか、それも全部……。
俺はここ一ヶ月のことを思い返した。
なんで、なんでなんだろう。大粒の涙が溢れてくる。
「すみません。私たちのミスです」
負目を感じているのか、俯きながら言った。
虚無に打ち込んでいただけの俺はバカだったのか。いまで感じた現実感は最悪そのものだった。
「誰のせいだ?」
「わかりません」
そ、そうなのか。誰の意思でもない。ただのミスで俺はこうなっている。
誰だ?社会か?あいつが悪いのか?
「俺はこの世界から去らないといけないのか?」
切実な思いだった。頭をあげて、答えを期待する。
桜場さんは首を振った。
「今はわからない……。押してしまったら、現実世界で目覚めるかもしれない。はっきりとは言えない。畢竟、君はこの世界に必要的存在ではないから。プログラムの異常の発生源とは言わないけれど、いち要因ではあるから。だからそのメッセージウィンドウを押すしかない。私たちでもそのブラックボックスの選択に迷っている。だから、君に選択権を委ねる」
「俺が……」
メッセージウィンドウの前に躊躇もなく立った。
YESかNOを選択する時期がきたらしい。
YESならどうなるんだろう。NOならどうなるんだろう。
俺がこの世界から消えてしまうのだろうか。そんな風なことを桜場さんは言っている。恐ろしくなった。何もかも無駄になるのではないか。だったら曖昧な返事をしたい。けれど、しなくちゃいけない。吐き気がしそうだ。選ぶだなんて烏滸がましい。
俺は卑屈にもそう思っていた。反対に堂々とした彼女を思い出した。
「イエスかノーを曖昧にするものじゃないわ。はっきりイエスと言えばいい」と告白の最初に言っていた。
なぜだか、心に残っている。
彼女からのアドバイスを取り入れるべきだ。だってこれは彼女の想いを踏壊す行為なのだから。躊躇した。時間は掛ったが、YESのボタンを押した。
そうしたらすぐさまこの世界はぐにゃりとぐにゃぐにゃと混ざり合い溶け合い俺の意識は失われたのだった。
今度、目覚める時には彼女とも会うことはないのだろう。
第一部完結です。
引き続き当作品を宜しくお願いします。




