第42話 他人の意図なんかわからないさ。
『えっと。どうして当主に立候補しようと思ったのでしょうか?』
『それはあれだわ。特に理由もないわ』
『り、理由ないんですか?』
『ええ』
『ええ、……』
『何よ。あなたたちだからといってリップサービスの一つ、二つすらないわ』
『ええ、え』
『何よ。何も書くこともできないインタビューでも生み出すのがマスコミの特技でしょうに』
『いや……』
『あら。間違っている?間違っているのなら、マスコミらしく罵詈雑言を浴びせるといいわ』
『くう……』
『まあ。しかし、一つ決意表明でもしましょうかしらね。私は今の高校を辞めようと思うわ』
『それはどうしてですか?』
『あら。舞賀家の当主ならばそこも一流でなければいけないのでしょう?以前の当主は知らないのですけれども…』
YouTube上でリアルタイムで流れている動画はインタビューなんかではなくどこぞやの挑発動画かも知れない出来をしていた。よく放送したな。
普段の華月さんに変わりはなかった。急に中身が入れ替わって、とち狂ったとかそういうわけではないらしい。ならなぜ彼女はその画面内で何をしているのか余計分からなくなった。
「え、ま、まって退学?するとかなんとか?へ、ん?」と理解するにはYouTubeのシークバーは大分流れていた。
「あはは。な、何やっているのでしょうね。こんなのシナリオ通りじゃあないですよお」とあわあわした様子で桜場さんはスマホ画面に釘付けだった。もう画面から華月さんを取り出そうかという勢いだった。俺も取り乱しているのに、もっと取り乱している人がいるのならば、すんとしてしまう。
俺はなんと桜場さんを羽交締めにして奇行はなんとかやめさせる。
今度は星宮をなんとかしないといけないのだろうかと思っていたけれど、そこまでじゃないらしい。
ひっそりと絶望して、地べたにお尻をついて、三角座りでもしている。
「た、退学だって……」とわなわなと震えを隠せてはいない。
華月さんに近しい星宮にすら何も聞かされてはいないらしい。よほどのショックがあるのだろう。
それを労るように右に日御池さん。上に維川さん。上とはどういうことかというと、維川さんが直立して、スカートをたくし上げて星宮の頭に被せている。
何それ。そこを代われ。そこで絶望に呑まれた顔をしているよりも笑顔を見せた方が失礼じゃないからな。羨ま光線を浴びせておく。
まあ。そんなこんなで華月さんと親しい連中は軒並み驚天動地であるのには変わりはないだろう。その中の一人ではあったのだけれど、だがしかし、俺はこのニュースを聞いてどうすればいいのだろうか。
「どうすればいい?」と聞いてしまうほどにどうしていいか分からなかった。
「こっちこそ」と桜場さんも言った。
意見は揃った。この切羽詰まった状況で意見が揃ったとしても優柔不断が増えて機能停止に陥るだけだ。
「あはは。こういう予定もない。どうしよう」と桜場さんはボソボソと愚痴るぐらいには参っているみたいだ。
仕方なし、星宮……。に目線を向けても無駄ということはわかっているのでもう少し目線を上げて「日御池さん、維川さんは……どうすればいいと思う?」と普段なら聞かない人に声を掛けた。
二人は顔を見合わせて腕組んで「「う〜ん」」と眉間に皺を寄せる。
「どうすればいいと思うって?どのことについてですか?」って日御池さんは気持ちを言い表した。
どの……?
どの?なんていう疑問が湧くなんて……。どうすればいいってわかりきったことだろう?桜場さんや星宮、絶望仕切った中でもそれは共通認識があるというのに。
「その華月さんがいるところですよ」
「あ〜あ」と彼女らはぼうっと納得した。そのおちゃらけた態度に3人ともに目で釘刺した。
「私には分からないけれども、う〜ん。とりあえず電話とか?」とナイスなことを言った。
そうじゃん。ダイレクトに全てが判明するではないか。俺は意気揚々として、電話を掛ける。数十回コールを入れて何度も不在着信という表示を見る。
「出ないのか?」とさらに何十回とコールをすれば、『何よ。五月蝿いわね。何回コールをしているのよ。常識というものを知らないわね』と聞き馴染みのある毒舌が耳に通過した。
「華月さん」
『何よ。急に私の名前を呼んで』
「どういうことですか」
『どういうもこうもないわ。ご覧の通りよ』
「どうしてですか。華月さんは名家が嫌いだとかなんとか言っていたじゃないですか。その論理を捻じ曲げるほどに信念のない女ではないはずです。適当な女ではないはずです」
『あら。出会ってちょっとのあなたが私のことを随分と語ってくれるわね。信念を捻じ曲げるのも自由勝手じゃない』
「それはそうなんですけれど……」
『じゃあ。それで解決じゃない』
「それじゃあ、決着には成らない」
『ただの屁理屈ね』
ああ。華月さんに論舌で言い包めるなんて難しいと判っていたのに、なのにどうして勝負しているんだ。
『もういいわね。あなたの我がままを聞きたいわけでもないのだから』
「ちょ、ちょっと待て……」と言ったところで無駄であった。
無惨にも鳴り響いているツーツーツーという音は俺自身を馬鹿にしているかと思える音だった。
「ど、どうすれば……、どこへ行けば……」
俺はフラフラと立ち眩みがしたものである。身近な机へと凭れ掛かる。
これで道は無くなったものである。
意味の分からない御託を散々並び立てて、俺の気持ちは蔑ろか。一発殴るくらいが丁度いいくらいだ。
しかし、どこに行けばいいのかも分からない。そんな八方塞がりであった。
「聖良ちゃん……」
「聖良ちゃんなら何か知っているかも」と星宮はつぶやいた。
その声にむかつきをもたらす前に俺の目はカッ開いていた。
ああ。そういえば、そうだ。華月さんが退学するなどという一大事を見過ごすことのできない彼女である。入学してちょっとから付き纏っている一級ストーカー師、プロのストーカー。その彼女であるなら、合法非合法の、あらゆる手段を使って丸裸にしているだろう。
その聖良さんをいち早く見つけなくては。
もうこの街にいないだとか。そうならば、居ても立っても居られないではないか。
「あ、ありがとう」と一言吐き捨てて、俺は考えもなしに廊下へ飛び出した。
「ねええ〜〜。まってえええ私を置いていかないでええええ」というとんでもない叫びをした桜場さんに気がつかないほどには俺は分からないほどに焦っていた。
華月さんがそうさせている感情を。それは分からない。
嫌なら嫌とはっきりと配慮の一つもせず断る扱いにくい女だったはずだ。
だからこそ、この胸に澱んで沈澱している。
確かめなくてはならないだろう。




