第40話 表と裏で性格違う人っているよね。
舞賀さんと華月さんのこと。急に二つの出来事が舞い込んできて、頭の中をもどかしくさせる。
悩ましい。悩ましい限りではあるが、悩み続けること、それが解決に向かうことはなかった。
「と、そういうわけなんだ。どういうことだと思う?」と一人で悩むには抱えきれない重量を持っていて、俺は誰かにリリースすることを選んだ。
リリースというか無理に背負わせる。無責任というか……。
「あはは。私以外にそれ言っていないよね?そうしたら、色々と可笑しくなってしまうから」とゲーム中の桜場さんが問う。
「言えないよ。言えないから……」
星宮には言おうと思えなかった。キスとかなんとか言っていた本人には後に訊きたいところではあるが、その機会は虚しく、学校の時間は終わってしまった。
ここ毎日ゲームをしているのでちょうどいいと俺は尋ねたのだ。
「まあー」と変な間を開けて、「私は知っていたんだけれど」と言った。
「……」
俺の思考は止まった。止まった挙句射殺された。
「ちょ、ちょ何してんのー。下手な私を置いていかないでー。あはは」と言って1分後に脳天を撃ち込まれていた。
「え、えっと。ん?」と声を出せたのはその後だった。
「すまないねー。いやあ。確認不足が招いた敗北だよ。あはは」
「いや、そうじゃなくて」
「うん?」
「知っていた?」
「知っていた」
「え、な、なんで?どうして?桜場さんが?え、どこまで?」
「あはは。そんなに問い詰められても一気には出ないよお」と翻弄する声を出す。
確かに乗り出しすぎた。
ちょっくら自重するように口を噤んだ。
「まあね。どこまでっていったなら、端から端までだね」
「端から端まで?」
「舞賀が男の子だとか、君にバレただとか、ね。あはは」
本当に端から端までじゃないか。え、どういうこと。
新情報に頭が混乱を隠せず、固まっていた。
「あはは。まあ、理由はさ。私が彼と友達だからだよ。ずっとね。元々はネットの人だったけれど」
「ネットって……」
とんでもない繋がりだなあ。
「ちょっと、呼ぼうか。舞賀さんを」とやはり主導権は向こう側で、ディスコードで見知りの彼女を追加した。
ワンコールと言ったところか、一瞬で入って来た。
「あ、あの……」
昨日聞いたことがある声。
気弱そうな、それでいて可愛らしい声を俺は知っていた。
「ドクターMさんですか?」
「え、あ。はいそうですけれど……」
「えっと、俺はドクターMさんじゃなくて、舞賀さんを……」
あれ。待てよ。ドクターMのその気弱そうな感じを、それは最近見知った人で……。
「ま、舞賀です……」ととんでもなく小さな声で自己主張をした。
震えるその声だった。それはまさしくドクターMではある。でも、その人は舞賀だと自称している。脳が追いつかない。
「え、本当に?」
「そ、そうです……」なんて陰キャみたいな卑屈な声を出すのだろうか。
「あの剛気果断なあの風紀委員の舞賀さんじゃないの?」
「そ、それはお恥ずかしながら……。キャラですかね……」
キャラ…キャラだと……。
青天の霹靂。まさにそのことだった。
「じゃあ。それが素の状態なんですか」
「あ、はい……」
「そ、そうなんだ…」
言っちゃ悪いが俺よりも気の小さい男の子だ。それがあの舞賀さんだから……。
俺は衝撃のあまりぎこちなく肯定することしかできなかった。
「ボクはそんなに果断でもなく、そんなに気も強くないただのゲームオタクなんだ……。名家名家と持て囃されているボクがこんなんじゃあダメだよね……」
「い、いや……」
それ以上の言葉は出てきそうになかった。
その名家というやらの責任。ましてや当主の責任など俺に想像できようもない。
だから、とやかくいう心情は憚られた。
それ以上は口に出さないというか出せなかったから、空気は固まった。
ゲーム画面も進められず、二人は黙ったままだった。
「あはは。その辺にしておきましょうや。舞賀さんには色々あったということでさ」
「色々って」
それじゃあ。済まされない数々なことがあるけれど。
煮えきれないことばかりはあるけれど。
「ほらほらあ。早くゲーム開始してくださいよー」と一番弱い桜場さんは進めてくる。
ゴリ押して進めてくるけれど、まあ。いいやで流されるもの自分だった。
辛気臭い話するよりも良いからね。
陰キャは辛気臭い話に耐えられるほど頑丈な作りをしちゃいないからね。
「まあ。そうですね」と言って俺は開始ボタンを押した。
やっぱりそんなことが気にならないほどに舞賀さんは上手かった。
何か晴れないもやがあるけれど、一応段落はついたようだった。




