第39話 女の子はわからない。
保健室から出たあと、一言も喋ることもなく、別れた。
すでに舞賀さんはあのナヨナヨしたような雰囲気ではなく、凛々しい元々のものに変わっていた。この雰囲気は作っていたのだろうか。それとも本来のものだろうかと悩ましい所存であった。
まあ。俺はどちらもそれはそれで良さがあって良いと思う。
彼女………。ではなく、彼は女の子と見間違うほどには艶やかな肌と、婀娜婀娜しい脚をお持ちになる。
見れば見るほど、美人には変わりないし、凛々しい顔つきをしてらっしゃる。
まさか誰も彼が男なんて思わないものだ。
「あら。あなたはあの女に現を抜かしているのかしら」と不機嫌な極まりない言葉で釘を刺したのは華月さんだった。
「そうです。気持ち悪いわー」とひょっこりと現れた華月さんのストーカーである聖良さんが非難囂囂を浴びせてくる。
聖良さんはともかくとして、華月さんが舞賀さん関連では首を突っ込んでこないと思っていたのだけれど、これは意外だ。
意外も意外で俺は思わず頓狂な声を噴き出してしまう。
「い、いやあ。ちょっと。ねえ。ほら。星宮が、あの。叱られていたじゃないか。どんな人なんかな。と。改めて思って」
句読点だらけの焦りに焦った物言いなのは明らかだった。
「へえ。別に旭くんは咎められてはいないわ。まあ、彼女らはいうまでもないけれどね……」
「どうなったんですか……」
「それを聞くのは無粋ってものじゃない?」
「まあ確かにね」
「それよりも無粋なのは何?いくらなんでも見つめすぎよ。こうして本を読んでいる私が気に障るほどよ」
なんの本を読んでいるのだろうと身をかがめる。
《黒死館殺人事件》だった。日本三大奇書におハマりのようだ。
「それも無粋よ」
「あ、すいません」
「というか、あの態度以前に何?」
「?」
それ以外で咎められる姿勢はあっただろうか。
特にそんな失礼な態度はしていなけれど(読んでいる本のタイトルを確認した程度なのだけれど)。一考してみても、愚行にしかならない。
「あ、ああ。あなた。か、彼女と……。その。きき、キスというか接吻というか……」
句読点だらけの文章を生成した。
「え、は?」
なんで広まっているの?俺は周囲を確認した。
俺の噂をしているグループらしきはない。聖良さんの方を見るけれど、「うわあ。四季があー?」と酷い目をされる。
「え。やばいねえ。マイスイートハニー結音、対抗してわたくしたちもそうしましょう」と調子よくいう。こんなカオスな状況まで自分の恋路に利用するそこまでのタフガールだっけ。
「あなたは黙ってなさいよ」と軽くあしらわれるのは日常だった。
華月さんは俺の顔に近づいて圧をかけながら「違うわよ。旭くんに聞いたのよ」と吐き捨てた。
嘘お。
星宮なら、言わないと思っていた。
でも、星宮は顔に出やすいやつだもんな。首根っこ掴まれて、吐かされたのかも。
「そんなことしないわよ」と心の中まで干渉してきやがった。
「四季くんみたいな人じゃあ。ないならね」
ギロリと眼光がさんざめく。ああ。俺終わった。弁解、駄弁を振るうしかねぇ。
「誤解だから。誤解」
「どう。誤解なのよ」
どう。どう誤解かと言われましても、舞賀さんが男という前提にすべて帰結していて、尚且つ前提は口封じ。
「言えないけれど……」
「言えないって?どういうことよ」
「それはまあ……。説明できないけれど。信じてくれ」といつしか舞賀さんから言われた言葉をそのまま引用するしか無かった。
「やっぱ。結音ちゃん。あれだよ。やましいことを隠しているんだ」といらんことを聖良さんはいう。
それに対する対抗手段も虚しく「だから、まあ」と言うしかない。
申し訳ない気もする。俺も言いたい気もするけれど、それを言っては、おしまいだ。
ペラペラと口の軽いやつにはなりたくない。
「もういいわ。話にならないわ」
「す、すいません」
「四季くん。あなたはあれね。流されて、流されて、どうにかなってしまうのでしょうね」
「す、す、すいません」
「私の気なんて知らないで」と吐き捨てて、華月さんは元のように椅子に座り直した。
俺はいたたまれない気持ちではち切れそうだった。
でも、その反応はなんだ。そんな、怒られるような不快感にさせるようなことをしたことはないつもりなのに……。
女の子はわからないと思った。
ただし、聖良さん。聖良。華月さんと俺が仲が悪くなったこと嘲笑っていたことは許さねえ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
私はどうしてこんなにも彼へと怒りを向けているのだろうか。
胸が締め付けれらて、それを発散することに心血を注ぎたいと思っている。それに対しての思考思索が回転している。
まともであるためのストッパーが効かない。あるとこから湧き上がっているような……。
ついぞ狂ってしまったのだろうか。
ああ。そうだ。狂ってしまったんだ。病気だろうか。気の迷いだろうか。
全然わかりやしない。しかし、この感情を優先することを厭わないことだけはわかった。
そう思うと私は携帯を取り出していた。
そして、忌々しいとも思っている人へコンタクトを取ろうと思った。




