第38話 ファーストキッスは後悔の味。
体育は結局出れそうになかった。
俺は順当にぶっ倒れた。
なので、星宮に担がれて、保健室にいる。保健室ってなんかいいよね。
落ち着くというか、ゲームの教会みたいな心地よさがあるよね。
でも、隣に落ち着かない美少女……だと思っていた舞賀さんが顔を赤くしながら悶絶を繰り返していた。
俺だってそうしたいよ!?
だって何一つとして、飲み込めていないもの。
舞賀さんが男の娘だということとか、それにファーストキッスを奪われたとか、その上星宮に目撃されたとか……。
「ああああああ。俺を殺してくれえええええ」と隣のベットで悶絶しているよりも激しく、悶絶を始めた。
バタバタと足を揺らして、静寂な保健室を確実に壊していく。
「だ、大丈夫だから。ねえ。何もしないから。誰にも言わないから。大事にはしたくないから」と星宮の4段戦法で気を沈める。
まあ。見られたのが、案の定星宮なのが安心材料である。
もし華月さんだったら、それはもう凄惨なある事件へと変貌していただろうから、それに比べればマシなはず。
はず……。こんな感じで落ち度をつけなければどうにかなってしまいそう。
「えっと。まあ。キスしたこととかは……」と照れた目で言ってくるところだとかは最悪だった。まあ。女の子とキスしたと思われているのは悪くはない気分であるけれど、結局最悪なのは変わりない。
「ちょ、ま、待てやあああ」
「悪いんだけれど、もう僕。体育戻らないといけないから……」といって弁解の一言も言えないまま、星宮は保健室から消えていった。
星宮に少なからずとも誤解を、語弊を、更衣室が行為室になっているなんて見当違いなことを思われているかもしれない。
そんなことをぐるぐる考えれば、考えるほど、悶絶する。
いや。待てよ。これの諸悪の根源は隣のやつではないか。一から千か万まで綺麗さっぱり説明責任を果たしてもらわなければ、この心は宙ぶらりんではないか、と。
俺は舞賀さんの横たわっているベットへと目を向ける。
舞賀さんはまだ顔を真っ赤にして顔を手で覆い隠していた。
そんな奴には喝を一発入れなければ。
「あの。あの、良いですか?」
入れられるわけない。俺は陰キャ以前に引きこもりだぞ。人が怖くなくて引きこもりではない。
「あ……。あ。んうう…」と酷い呻き声を上げた。
明らかなる拒否反応。聞きづらくなるじゃないか。
でも、そんな些細な感情では微動だにしない。
「あの。男ですか?」と改めて質問をする。
やっぱりその質問をするのかというような顔を浮かべ、しばしこの保健室に沈黙が訪れる。舞賀さんは苦渋の狭間で揺れているようだった。
「はい……」
聞こえるか、聞こえないかぐらいの僅かな捻り出したものはほとんど喘ぎとも取れる声だった。
さっきのあの感触というかあの察知は間違いではなかった。
その首肯が本当なら、点と点が線になった。
「じゃあ。あの提供の時にあったよね」
「あ、うん。はい」と縮こまって泣きそうな目をしている。
その鬱々しい雰囲気と、目を合わせられないその態度は。俺を鏡写ししているようだ。
逆に俺にダメージが入っている。
じゃあその俺に話しかける言葉として最適解というものは……。
「なら、安心してよ。色々聞きたいことはあるけれど、そうと分かれば何もしないよ。怒りもしないしさ」と俺はへたくそながらに笑みまでした。
「本当う?」
「ほんとですよ」
にこりとひらがなで優しさを演出した。
「だから、どうして《《そんなこと》》をしているのか教えてほしい」
「それは……」と下を向いて落ち込んだ表情を見せた。
そしてさっきよりも長い沈黙が続いた。その問いが終わるのを待っているかのような当分の間だ。
陰キャはそれに耐えきれない。そうやって沈黙を貫かれると辛くなるだけだった。
「いいよ。言いたくないこともあるものだろうし、俺はそこまで詰問するべきじゃないと思う」
「な、なら。ボ、ボクが男であることを黙ってもらえるかな……」
「ああ。それくらいなら」とはいったものの、お安いご用とは言えなかった。
俺は苦々しい顔をして、うんともすんとも言わず、口を噤むだけだった。
俺らは次のチャイムまで、この空気の中だった。




