第35話 中身が華麗ではない華麗な人。
ちょっと舞賀さんについて、積もる話もあったのだが、チャイムがなったので席に着席した。
それでも星宮たちは戻って来なかった。まだ何か揉めているのだろうか。風紀委員が偉いのか知らんけれど、先生も気にしている様子はない。
それにしてももやもやとする。
整理すると、その舞賀さんが提供場所で出会った人ということかもしれないということだ。
しかし、華月さんは明確に舞賀さんのことは《《彼女》》と呼んでいたし、男という感じでも無さそうだ。
「どういうことなんだろうか」と自席で頭を悩ませていると、「あはは。そんなに難しい顔をしてどうしたんだい?」と汗だくの桜場さんが顔を覗かせていた。
乱れた髪に、ぐちゃぐちゃになったスクールバック急いできたみたいだ。そういえばホームルームにいなかったな。
「遅刻?」
「そう。いやあ。昨日ゲームしすぎたね」
「確かにそうですね。俺もものすごく眠たいです」
「あはは。だから、難しい顔をしていたんだねー」
「いや。また違った理由なんだよ」
「何?それはー?」
「舞賀さんのことなんだけれど……」
「ん?ん…んん?」と露骨にぎこちない雰囲気に豹変する。
「ど、どうしたの?」
「いやあ。あはは。何でもないよおー」と怪しげな誤魔化し方をするけれど、俺はそれを咎める材料を一つも持ち合わせてはいない。
だから「そうなの?」と俺も誤魔化して、強行して舞賀さんのことを聞く。
「う〜ん。それにしても舞賀さんか〜。風紀委員だから優秀ってことは知っているけれど……。それ以外はなあ」と優柔不断な回答する。
「いやあ。あの提供の時あったような。会わなかったような気がするんだ」
「へ?」と一瞬間固まったような物言いをして「まあ。あれなんじゃないあれ。うん」と中身のないことを散々並べたてた。
「舞賀さんのことはまあ、舞賀さんに聞けばいいんじゃない?」と直球なことを言ってきた。はい?いきなりラスボスは無理だよ?
まだ始まりの街にすら到達していないというのに。
「いや。あ、あの」
「呼んでくるよ」とさらにはこういう始末で、どこかへ消えて行った。
「ええ、ええ」
俺はポツンと取り残されたみたいだ。文字通りでもある。
携帯ゲームでもして心を落ち着かせておこうかといつものようにログインボーナスを回収するのである。
それに熱心になっていたら、俺は目の前の人の存在に微塵も気が付かなかった。
気づいたのは前の人が「うげっ」なんて不快感たまらない声を出したからである。
俺は夢中だったゲームを中断してその人の方向を向く。
舞賀さんだった。毅然とした態度で凛々しい。腕には風紀委員という腕章をつけている。本当に連れてきやがった。
「桜場?ボクどういうこと?聞いていないんだけれど」
「言っていないからねえ」
「《《あのこと》》は言っていないでしょうね」
「言っていないですよ。あはは。私だってそれぐらいの思慮分別はあるんですからー」
「ならいいわ」と桜場さんとのすり合わせが終わったところで俺の方へと向き直った。
「えーと。こんにちは初めましてボクは舞賀祈です」と丁寧な自己紹介をしてくれたが、見た目の凛々しさ華麗さとは想像できないほどにキャッチーな人だった。
「あ、うん。まあ。はい」
「えーと。何も事情を聞かずに桜場に連れてこられたのだけれど……。帰っていいですか」
「あはは。ダメだよ」と腕をがっしりとホールドする。
退路を絶たれ、気分は良く無さそうだ。
俺も退路を絶たれた。質問をするしかない。
俺はキョロキョロと様子を伺う。桜場さんは言え。言えと急かしてるようだが、対照的に舞賀さんはドキドキと緊張しているみたいだった。
「あ、あのお。提供の時会いませんでした?」
「いいや。あっていないね」ときっぱりと言われた。
「じゃあー。いいですー」と萎縮した子犬顔負けに引いた。
「あはは。恐ろしいほど適当だね。もうちょっと問いただすとかして見たらどう?」
「桜場は何を助言しているんだあ」
「じゃあ。あの。じゃああれは何だったんですか?」
「あ、え、ん?あー。あれだよ。あれ。ボクには弟がいてね。多分弟だと思うんだ」
「弟?」
「そう。ほら。こんだけ男が性犯罪に遭う時代でしょう?そりゃ変装の一つや二つはしていると思うんだあ」
「そ、そうなんですか?」
「そうそうそう」
「桜場さんそうなんですか?」
「あはは。本人が言っているんだったらそうなんじゃない?知らないけれどー。あはは」
「なら、もう解決したよね!うん。ボクもう色々としないといけないから。それじゃあ。またね」と捲し立てて、去っていった。
うーん。なんか二人とも戯けている感じで真意がよくわからないなあ。
口裏合わせているとか?
でも、探りようないし……。弟がいるとか言っていたなあ。それをどっかで聞いて見ようか。それで存在しなかったら、男子禁制の場に秩序を維持する風紀委員がいるなんて汚職も汚職じゃないか。
そんなことはないよなあ……。いや、政治家の娘と華月さんは言っていたのだ。
ありえなくもない。
嫌な想像をしてしまったから肝が冷えてしまった。
違うよな。違うよなと期待をしながら、窓の外を眺めるのだった。




