第33話 コミュ障同士は潤滑油役がいないと話にならない。
卵子提供とか言うものは存在しないらしい。
分かってた。分かってたよ。
ただただ相談した星宮にトチ狂ったやつとか何とか思われてしまっただけだった。
いや、本当にとち狂ってしまっただけなのだろう。
至近距離でイチャイチャを見せつけられ、提供とかいう訳わからんことをさせられたからか。
そうだ。そうに違いない。あれは幻だ。幻。
「あはは。面白いね。実に面白いと思う」とケラケラと笑うのはあの桜場さんだった。
桜場さんとはゲームで仲良くなって、すぐにFPSを夜にしようという約束をしたのだ。夜、女、FPS。何だか配信者の失敗例みたいなものだが、楽しいからいいじゃないか。
誘ってきたのは向こう側でやっぱり受け身な俺だった。
「面白いって……」
「あはは。まあ私は色々と知っているからさ。それで面白いっていうか、何というか」
「なんかよく分からないことを言うね」
「そういうのが好きなんだよ。許して欲しいなあ」
「まあ。友達は選ばないから」
「そう?じゃあ。アドバイスとして選んだ方がいいと思う」
「どういう?」
「無駄口ばかり叩いてたら、手元狂って負けちった。あはは」
「え。待って。今はダメだって」
それでミスるのはエイム力が雑魚すぎるぞ。あ。え?ランキング維持できないよ?どうしてくれん……。
「あ。右、右に敵が、ちょ、対応して…」
「む、無理だって。ああああああ」
見事にヘットショットを決められた。you're loseとデカデカと表示される。
「あはは。負けちゃったねえ」
「桜場さんちゃんとしてやあ」
「私はもともとソシャゲ派なのだよ。FPSはもっと上手い人がいるからさ。ちょっと呼んでみるわ」
「優しい人にしてよ」
じゃないと俺は縮こまって話がたじたじになるからね。
「あはは。優しいという尺度はよく分からないけれど、個性的で面白い人だと思うよ」
「へえ〜」
ディスコードでコメントを打つ音が響く。
LINEじゃなくてディスコード。
「これるってさ。追加するよお」
ピロンっていう音が聞こえた。おお。なんかドキドキするなあ。
「こ、こんにちはあ」と弱々しい甲高い声が聞こえる。
どこかで聞いたことがあるなあと思ったけれど、緊張でそれどころではなかった。
「ネットの人だあ」と斜め上のことを言ってしまうほどだった。
「あれ……。ネットの人?ボクが?」
「あ。ん。はい。何でもないでう……」
「別クラスの人だよ。同じ一年の……」
「別クラスなんだ。へえ……」
………。
あれ俺会話能力ゼロなんか?
沈黙は陰キャにとって毒沼だよ?HPがどんどん削れていくイベントなんだよ。
どうにか桜場さんが取り持ってくれええと個人でディスコードでコメントを送る。
任せたって来た。
「えっとおー。あはは。元カレくん。この人はま…」
「ちょっと待ってくれ…。偽名の方で、偽名の方で」
「ああ。そう?そっちの方が?」
「そうそう」
「じゃあ。気を取り直して、この人はドクターMさんです」
「ドクターM?あの、ランキング上位におられるあのドクターM先生ですか!?」
「いかにも?」
「あはは。私知らなかったなんだけれど、な、何?有名なの?」と少し困惑気味の桜場さんがいた。
「数々のゲームで上位ランカーなんすよ」と俺でもないのに自慢げに話をする。
「へえ。ま……じゃなくてドクターMさんは有名だったの?」
「一部界隈がわいわいしてるだけだから……。そこまで囃し立てられると恥ずかしい……」
「そ、そうなんですか……。気をつけます……」
「はい…」
「……」
「……」
沈黙が十三秒間。
「あ、あのご職業は……」
「見合いかよっ!?」とデカデカとした桜場さんのツッコミが響き渡った。
喋ること無さすぎて、馬鹿なことを口走ってしまった。
これ以上何もしないとおかしなことを言いそうだ。それを察した桜場さんは「はいはい。もうしましょう。コントローラー持って!ゲームスタートさせるよっ!」と言ってゲームを強行した。
それからはドクターMさんの力は遺憾無く発揮されていた。
もうそれは憧れに見たまさにそれらしく。圧巻であった。
俺も負けず劣らず、応戦し、会話のあの気まずさは何だったのやら、すっかりゲームでは意気投合を果たし、時計の針がてっぺんを有に超えるほどやりこんだ。
俺は思った。ゲーマーはゲームをやるに限る。それ以外はてんでダメなのだ。




