第26話 下駄箱に入れるのはもう古いでしょう。
ざああ。っと音がする。
若木からポタポタと水滴が滴り落ちるのも趣であろう。
まあ。ポニーテールから滴り落ちる水滴の方がまた一興なのは言うまでもない。
今日は予報通り雨であった。
雨は嫌いだ。
雨は学校を休みたくなる理由にもなる。以前の俺はそれだけでも休んでいただろう。でも、休めない理由は友達が困っているからで十分だった。
それでも雨は憂鬱で、頭の機能が低下しているのを感じた。
体が重い。重すぎる。
「はあ」と溜息をついて下駄箱の前に棒立ちする。
そう言えば、星宮の下駄箱はどこなんだろう。そのチョコレートが仕込まれた現場を探偵が見ないのもなんだか不自然なものだ。
どうして、男女比が破滅的に終わっている世界で探偵ごっこなどしているのだろう。
なんていう邪念が生まれてしまう前に思い立ったが吉日ということで、星宮の下駄箱を探そうかと思った。
先着がいた。
現場を開けて、何かを置いている姿が発見された。
犯人?
でも、女子だから話かけずらい。違う。その上な話だ。
初対面の人に話し掛けられないのが俺だった。
そうしてまごまごしている俺に話しかけてくれたのは渦中の相手である日御池さんだった。聖良さんの取り巻きの人である。
「あ。あれえー?カレシくんですかあ?」
ま、まだその名前で呼ぶのか。
うう。小っ恥ずかして仕方がない。
「いや。もうカレシじゃないですけれど……」
「あはは。可愛いですねえ。照れちゃっているんですか」
「そ、そうですけれども」
「否定はしないんですか」
「俺の名前は関根四季です」
「カレシくんはカレシくんです」
「そんなふうに呼んでいたら、あなたが、俺の……」と言おうとして、先の言葉恥ずかしくて、噤んだ。
「悪くないかもです」
くう……。心を揺さぶるなよ。
日御池さんのその仄かに濡れた衣服を見ると余計揺さぶられる。
下手な音声作品よりも素晴らしい。
「ジョーダンです。カレシくん」と言われた。
あ、この世は音声作品だったらしい。
くうう。悔しい。めっちゃ良いようにされているだけだ。なんで聖良さんの周りは聖良さんも含めて俺を揺さぶってくるんだああ。
頭抱えて小さくなった。
待って。あれ。これ、話逸らされている気がすると気づいたのは俺の頭がもう少し冷静になってからだった。
「えっと。下駄箱でなにしていたの?それ星宮のですよね」と恐る恐る聞いてみる。
逆上されるかもしれない。
なんか言われるかもしれない。そうネガティブシンキングしていると自然と目は閉じていった。
「あー。別にあれです。はは。小っ恥ずかしくて仕方ないですねえ。カレシくんに見つかっちゃうのは」
形勢逆転。今度は向こうがまごまごし始めた。
どういうことだと思って、わかりやすく目についた。手に手紙がある。
「あ、あー。え?その手法は古くない?いや、よく分からないけれど」
最近はLINEとかのメールとか電話とかでサクッと簡単に済ませるような形態が蔓延っているんじゃないのか?
「ふ、古い!?いや別に古い、いや最近は…かも……しれないけれど、なんかそういう古典的な手法でするのとか良いんじゃないです!?一周回って!?」
おお…圧が強い。俺に綺麗な顔を近づけるな。好きになっちまうだろ。
「かもしれないけれど」
「だって、私みたいな連中がいっぱいるから、星宮くんの下駄箱があんなふうになっているのでしょう?」と指差すのはもちろん下駄箱なのだが、ぎゅうぎゅうに手紙やら、プレゼントやらが詰められている。
周りを確認すれども、そんな人は一人も見受けられない。
これが恋愛格差というものか。絶望した!
この恋愛資本主義社会に。恋愛は社会主義(もういっそお見合いだけ)にすべきだ。
「なんか、負けた気がする」
「まあ。しょうがないです。男子が少ないからと言っても女の子はその少ない中からも選ぶっていう現実があるんです」
「なんか嫌な現実を教えてくれてありがとう。傷ついた気がする」
「傷ついたのですか?慰めてあげましょうか?」
「他に好きな人がいる人に慰められる人の気持ち考えたことある?」
「ないですね。ははは」と俺を拐かすような笑みを見せる。
うう……。やっぱこの人やばいよ。
「おっと。そろそろ来る時間かもです」とスマホを確認した。
見ると周りに人が多く来ていた。
俺たちのやりとりを面白がって放っている人もいる。
表現し難い、昇降口で浮いている感があって恥ずかしくなった。
日御池さんもそう思ったのか、直様手紙を下駄箱に押し込んで、鞄を持って、前髪を整える。
「ご、ごめんね。勘違いさせるようなことしちゃって」
嘲るような笑顔を見せた後にそんな申し訳ない顔をされるとすぐ許したくなる。
俺ってやっぱちょろいんだなと絶望したものだ。
やっぱ雨って嫌いだ。




