第22話 慣れが一番怖いよね。
02
「ねええー。結音ぇー。なんで、なんで反応してくれないのおー」
「ねえー、おーい」と聖良さんは華月さんの頬をツンツンとする。
しつこいぐらいそれをする。でも、華月さんは修行僧のごとく、時間停止もののあれみたいに一つも反応を示さない。
これはここ一週間の《《日常》》ではだった。
華月さんと、聖良さんのその《《日常》》に初めは誰もが振り返ったが、もう歯牙にも掛けない。俺だってどうにでも良いと思えてくる。好き好きと俺に向けた言葉も嘘だと思える。
それよりも、華月さんが青チャートを楽しそうに解いてる姿にドン引きだ。
感覚が狂っている。
「そんな問題解いてんとさあ。私に構ってよおおおおお」とジタバタと子供のように暴れる。恥ずかしいよお。
「そうね」とやっと反応したけれど、目はチャートに釘付けだった。
「なんなーん。素っ気なさすぎるやろおおお。ねええー」
もっと騒がしくなった。
トイザらスでおもちゃ買ってもらえなくなった子供じゃん。
「何をして欲しいの?かと言って円順列を教えるとか……。あとは確率漸化式?数Bか」
「二択が二択として機能していない。わたくしが欲しい二択はね。お付き合いをするかあー。結婚するかーの二択がほしーな」とぶりっ子めいた上目遣いで訴える。
「はっ」とさっぱりとした返し。
「雌蕊と雌蕊じゃあ立ち行かないでしょう?結局子供が欲しくなったら別の男の精子を受精させるのだから」
百合にとんでもない爆弾発言を投下する。
何かが音を立てて崩れる感覚がした。その言葉は言ってはならぬ。姫男子からすると禁句だぞ。さもありなんと、平然と敵に回すのは辞めていただける?
まあ。俺は不快感を覚える程度だけれど、聖良さんは腹を抑えて絶望した。
バカな想像をしたのだろう。いや、俺もしてしまって、脳破壊されたけれど。
「ど、どうやったら女の子で子供作れるの?」
「思考が文系ね。理系科目を履修することをお勧めしたいわ。てか、今チャート教えて差し上げましょうか?」
「それは勉強デートのお誘い?」
「恋愛を専攻する大学はないわ」
「わたくしが作るわ」
「私は文科省に就職するから許可しないでしょうね」
ずっと火力が高い言葉を吐いている。聖良さんのアピールを撃沈することしか考えないじゃないか。そんなことで就職先が文科省でいいのか。いいだろうけれど。
恋愛脳な聖良さんと現実主義者の華月さんはどう考えても相性悪い。これが一週間を総括した意見だ。
うん。初めから分かりきっていたことでしかない。何を一週間見てきたのだ。俺。
まあ。見てきたのはスマホの画面ですけれど。ソシャゲですけれど。
今だって、ソシャゲをする傍らで彼女らの話を盗み聞きしている最中なんですけど。
その一週間のどこかで、それに割り込んで華月さんに挨拶したけれど、聖良さんにボロクソ言われて(一週間前にベタ惚れ発言をしていたのに)凹んだのを覚えている。
だからこそ、イアホンをして、関係ないふりをしよう。
「ねえ。ちょっといいかな?」と俺の前に立つ人がいた。
ソシャゲができないじゃないかと不満に思いながら、顔を挙げる。
星宮だった。俺の友達だった。
だけれども、一週間ほとんど喋ったような気がしない。久しぶりなので、喉がつっかえる。
「あー。なんか悪かったかな?」
「あ、ええ。まあ。悪くないですけれど」と全面的にOKな雰囲気を出すために慌ててスマホを閉じる。
「じゃあ。ちょっと二人きりになれるところまで……。えっと。じゃあ。中庭まで来てくれないか?」
朝の人気のない場所へ呼び出す?
ん?何が行われるんだ?
呼び出されるのは、なんか一週間前の出来事を彷彿とさせるので警戒心が露わになる。
いや、でもねえ。かといって星宮が面倒ごとを持ち込むわけがない。持ち込んだとしても、それは協力したくなる。
「別に構わないけれど」と肯定をしておいて、星宮と一緒に教室を出ていく。
その際に華月さんに睨まれた気がするけれど、気にしない気にしない。
俺にはその聖良さんをどうにかできませんからね。すまんと心の中で謝罪して、気持ち早歩きで教室を離れた。




