第21話 お見合いじゃないよ。女の子を家に呼ぶだけなんだ。
入学してからの疾風怒濤の三日間は幕を閉じ、あれから一週間ほどが経過した。
ようやく来た高校生らしい日々。相も変わらず騒々しい日々だ。
1時間目から6時間目まで授業があって、クラスメイトとの歓談があって……。嘘です。女子に持って行かれるから偶にしか一緒に食べてくれない星宮と随時聖良さんにストーキングされている華月さんだから基本的には一人じゃん。
え。なんで?おかしくない?
男女比崩壊社会の社会不適合者(男性)はないでしょおー。
やっぱ努力が必要なのか?努力なのかあああ!?
とか思っていた時期もありました。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「へえ。ここがあなたの家ね。飾らず言えば男子男子しているわ」
「えっと?どうして、華月さんがうちに?」
うちの玄関に一輪の可憐な花のように華麗に立ち尽くしていた。それだけでも絵になる美少女が、どうして?
「それは昨日の屋上であなたの妹さんが会いたいと言ったからじゃない?一々説明させる気?」
「いや、そう言うつもりじゃあないのだけれど」
「なら良いでしょう?いつまで客人に待たせるつもり?上げなさいよ」
「そ、そうだね」とスリッパを取り出して、気を取り直して部屋に案内する。
だからと言って俺の部屋に案内する訳ではない。急に来られたから散らかり放題だ。そんな部屋に女の人を案内すれば最低だ。
妹に幻滅される。俺はあんまり気にしないんだけれど。
そんなことを思っていたら、リビングには妹がいた。妹はバカっぽくTikTokを垂れ流していた。
「あれ?お兄ちゃんじゃん……おかえりーさーい」とだらしない声とだらしない態度でのんべんだらりんと伸びていた。ポテチに、コーラ。ゲーム機にソフト。駄目人間セットみたいなラインナップ。
「なんだよ。そんなの。ほら。妹が見てみたいと言っていた友達を折角連れてきたと言うのに?」
「お兄ちゃん本気だったんだー。笑。ははは」
妹は小馬鹿にしながら俺の方を見る。
そいつはポテチを取りこぼした。唖然とした。驚愕もした。
非常にわざとらしく、オーバーリアクションに。
だってこんな冴えない兄貴がこんな美少女を連れて来れる訳ないと思ったんでしょう?甘いな。
「こんにちは」
足をクロスさせて、スカートをたくし上げてお辞儀をする。まるで品行方正な優等生や社交会で淑女がする礼そのものだった。
「あ、あ、あああ。こんにちは?う、ううちは関根折節です?」と俺の方を向いて言った。なんで、俺の方を向くんだ。俺に自己紹介しても無駄だぞ?
そこの華月さんに向けて言えよ。
「折節と言うのですね。私は華月結音です。なんとでも呼べばいいわ」
「あ、はい。結音先輩……。そ、そうです」と照れ顔を見せている。
デレデレじゃん。
彼女いるんだろ?その彼女がみたら絶望するぞ。
「あなたたち兄弟ね。喋り出しが一緒だもの」
「あっ」て言う喋り出しかっ!やめろそれは、陰キャの潤滑油なんだ。取り上げるなよ?
「お兄ちゃんのやつとは一緒にしないでください」
「確かにだわ。妹さんのは可愛いけれど、四季くんのは気持ち悪いものね」
「ははは。褒められたああ。そうそう。お兄ちゃんはキモいんだよ」
「なんだよ。弁解しろよ。妹だろっ」
「する訳ないじゃあーん」
毒舌な友達に毒舌な妹がかけ合わさって俺のライフポイントを着実に削りに行っている。
俺を差し置いて、華月さんと意気投合するなよ。
華月さんは俺の友達だぞっ!?
「あ、そうだ。なんか淹れた方がいいよね?お兄ちゃん?淹れてきて?」
「はあ?お兄ちゃんを顎で使うなや」
「結音先輩はお兄ちゃんの友達でしょ」
「まあ。はいはい」とキッチンに向かおうとする。
「あー。そういえば、華月さん。何がいい?コーヒー、紅茶、コーラ。一通りのものはある筈だけれど」
「じゃあ。紅茶で」
「あ、うち。ココア淹れてよ」と指定する。
「ぶっ殺すぞ。自分で淹れろよ」
生意気な妹はこうして牽制しないとますます怠惰になる。
「あら。お兄さんは酷い人なのですね。知っていましたけれど」
「そーなんですよ~」
華月さんはおっとりと優しい目で妹を甘やかす。
なんだ。妹はあの残酷無比な華月さんを改心させるチャームの持ち主なのか!!
だからカノジョがいるのも納得できるけど…。
「ああ。もう、わかったよ。淹れてくるから」と投げやりになり、キッチンに向かった。
あー。紅茶は激安のがあるけれど、ココアの粉はあったけれど、ああ、とやましい心がわいた。ちょっとだけ粉を淹れてほぼお湯。
これは密かなる妹への復讐だった。
どう言う反応をするんだろうかと悪どい笑みを浮かべながら、リビングへと運ぶ。
「ああっ!!結音先輩結構強くないですかっ!?経験者ですかっ!?」
「別にこれの経験者ではないけれど、まあ。類似作品はしているからでしょうかね?けれど、私はなんでもできるから関係ないわ」
「かっこいいっす」
わちゃわちゃと盛り上がっていた。妹が趣味のゲームで。
俺の友達だぞ?
俺はなぜサーバントみたいなことをしているんだ?
「持ってきたんだけれど」
「あー、置いといて、適当に」と俺のことに一瞥もすることなく、コントローラーに夢中だった。
「それより、結音先輩強すぎるから。お兄ちゃん一日中やっていたでしょ?中学校の時。不登校みたいなものだったんだから」
「ちょ、お兄ちゃんの秘密をバラすなよ」
「四季くんはそんなもんだと思っていました。電気を付けずに、パソコンゲームを2画面体制でしているのがありありと想像できるわ」
はいはい。なんでも知っている華月さんならそう言うと思いました。
なんでそんなに解像度高いの?
「まあ。そんな一日中ゲームをしていたあなたでも私の腕に勝てるほどなの?」
だあああがああー!!
殊、ゲームというフィールドならば、この華月さんの天才性をコテンパンにしてやるわあーー!!!
「おいっ!?俺の得意分野だぞっ。いいだろう。いいだろう!コテンパンにしてやるぜええ」とこういうことを言った人が典型的にどうなるかわかるだろう。
「嘘だろお……」
画面にデカデカと表示されたWINが俺のためにあるものじゃないと。
「努力が才能に勝てる訳ないでしょう?」
「あはは。お兄ちゃん。ざっこ。クソじゃん。やっぱ。結音先輩はすごいんですねえ」と俺を小馬鹿にする。兄より優れた妹は存在しないが、別の人と勝負すれば負けることもあるだろう。
でもなんだよ。一生擦られそうな勢いで床を這いずってバカにしてくる妹は最悪だぞ。
「まあ。流石に」と華月さんは優雅に見下すように紅茶を嗜んでいた。
激安でも飲む人によるらしい。
妹も釣られるように飲むけれど吐き出した。
「な、なあ?白湯?白湯じゃん。はあ?色がココアなだけの白湯じゃん」
「ココアみたいなもんでしょ?俺はいつもそんな感じで飲んでいるから」
「ふざけなよ。バカお兄ちゃん」
取っ組み合いの喧嘩をする。
客人の前で見境のない俺たちはどうかしていると思うけれど、華月さんは珍しく「くすす」と笑うようだった。
「見ていて微笑ましいわ。私はそんなことないから」と寂しそうな、憧憬の混じった表情を浮かべた。こんな表情は一回も見たことはなかった。
それから、ゲームを2時間ほどして、華月さんは帰った。
その間にあのような表情を見せることはなかった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
華月さんを玄関まで見送ってから、妹は、俺に向かって、「なあ。お兄ちゃん。あの人大切にしろよ?」と言ってきた。
「いや、ほら。当たり前じゃないか?」
一人たりともできたことなかった友達、それに女の人の友達をそう簡単に手放すのはない。絶対に。
逆に手放されるのがオチだろう。
「ほら、あれはお兄ちゃんのタイプじゃない」
「ふざけるな」
「じゃあ私が貰っていい?だってうちあの人可愛くて、あんまり目を合わせられなかった。惚れたかも」
血の気が引くとはまさにこういうことなんだろう。
こ、こいつまじか。
カノジョいる身で浮気宣言とかやめとけよ。




