第19話 事実の曲解。それが解決なら。
俺は考えた。考えても考えても何も思いつかなかった。
だから、仕方がないので、有識者に意見を頼むことにした。
「は?自分で解決しろ。友達なんだろ?友達連れて来いって約束も果たさないし、大体風呂上がりの妹に話しかけるお兄ちゃんはTPOを弁えろ」
「な、なんでよ。妹よ。お兄ちゃんの頼みだぞ?」
洗いざらい悩んでいることをぶちまけた。決してその重量に耐えきれず、誰かにぶつけたいとか思ったことはないよお?
信頼する妹だからそうしたんだ。
「とりあえずコーラでもとって?話はそれから」
不服な目をするかと思えば、協力的だった。
それなら、コーラでも、サイダーでもワインでも何本でも用意するのは容易でござんすううう。俺は最上位の謙りを見せながら、冷蔵庫から瓶コーラを取り出した。
風呂上がりのコーラという幾分最高な条件で喉を潤した妹。
「てか、あれだね。お兄ちゃん。高校始まってすぐだよ?どうしてそんな面倒ごとに巻き込まれているの?」
「そんなの知らんよ」
「お兄ちゃん不器用だから……以前に、多分私でも二日で巻き込まれたなら、対処はできないだろうね」
「妹ですら、そうなら俺は……」
「いいや。バカなお兄ちゃんでもできる方法があるよ?」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
翌る日の放課後。また、放課後だ。
まあ仕方がない時間がある時なんてそんなことだ。
そして、妹に言われた通り華月さんと聖良さんを集めた。
「あら。どうしてあなたがいるんですか?」
「どうしてって?カレシくんの要求に応えないカノジョがいるとお思いで?」
「あー。そうでしたね。意外でしたけれど、四季くんのカノジョでしたね。星宮旭はどうしたんですか?」
「それはまあ。電撃的な恋愛があったのですよー」
「へえ。電撃的ねえ。ふーん」
やばい。妹よ。こんな状況で色々言うことなんてできませんよ。
まずは四季の指揮を挙げてくれよ。
「待って。落ち着いて」と俺は仲裁に入る。
「あら。そういえば、そうでしたね」
「あー。そうだ。カレシくんがこんなクソアマと鉢合わせてくれましたねー?」
二人から睨みつけられる。あ、うん。
でも、気合いを出さないと、ここがここで頑張らないと、どうにもならない。
「一つ、会話をさせてほしい」
「ちょっとだけね。図書室で勉強したいから、手短に」
「わたくしも手短にお願い。あんたとデートしないといけないから」
ピリつく空気。面白いほどに噛み付くなあ。
今となっては気にならない。
「くははははっ」
俺は高笑いを上げる。
その俺を頭がおかしくなった人として眺める二人の少女。
「本当は、二人は相思相愛なのです」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「えっと。その簡単な方法って何?妹よ」
「お兄ちゃんでも簡単にできる方法はね。勘違いさせることだよ」
「勘違い?」
「或いは押し付けるとか?」
「押し付け?」
「お兄ちゃんが言う限り、思うんだけれど。その人たちの説得は無理じゃないかな。所謂ヒュブリス症候群状態。自分が絶対的だと思っている状態のことだよ。そんな絶対だと思っている人のバイアスを壊すのは難しい話だ」
「じゃあ。簡単じゃないじゃないか」
「いいや。まあ。合理的な捏造をするんだよ。ぐっちゃぐっちゃに掻き乱せ」
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「あなたは相当頭が悪いと思っていたのだけれど、本当だったみたいね」
「そうね」
珍しく二人の意見が合致しているのが、喜ばしいことだ。しかし、聞かずに否定しないでくれ。ほら、二人。黙って俺の前から去ろうとしないでくれ。
俺は退路に立ち塞がり、話を強行することにした。
「聖良さん」
「わたくし?特に関係ないでしょう?だってカノジョだもの」
どういう理由で言っているんだ?
行動でいえば100あなたが悪いですからね?
「あなたの異常な華月さんへの攻撃性。ことあるごとに突っかかりにいくその姿勢。何かに似ていると思いません?」
「似てるも何もないでしょう?だって私は私でしょう。強いていうのなら、悪を倒す正義?」
どういうものの言い方なんだ。戯言を連発しては墓穴を掘っている。
救いようはないが、救いようはあった。
だってそれはまるで……。
「小学生が好きな子のするいじりみたいだ。キュートアグレッシブとかなんとか言う」
「は、はあ?」
俺の言っていることがわからない風の顔でも無かった。
ちょっと照れているような。紅潮しているのが分かる。
「まあ。それは納得出来るわ。こいつに好かれたってそれは迷惑千万であるのだけれど」
「こ、こんなことを言うやつをわ、わたくしが好きになるとっ?」
それは最もだけれど、だからと言って折れるわけにはいかない。
俺は牽強付会な論でも押し切る。
「だって、中学のころから突っかかっていると聞いて、思ったんだ。そんなの構ってほしいの裏返しじゃないか」
「構って、ほしい………。なんてないっ!!」
より紅潮する。
「ほらそうやって、強く否定をすればするほど、反動形成が強くなるんだ」
「じゃあ。好き。好きなんだからああ」
ほぼ錯乱状態。否定するために普段言わないおかしなことを言っている。
そんな聖良さんを見て、当惑した目を華月さんは向けている。
「それが正直な感想なんだろう?」
「いやあ。違う」
俺はセクハラと訴えかけられる距離感までに入る。
「顔が赤いじゃないか」とはっきりと伝える。
「んっ」
聖良さんが言葉にもならない言葉を発してから、俺を跳ね飛ばして、屋上を後にした。
敵前逃亡だ。
「ねえ。誰の入れ知恵?心理学という権威を使う方法頭空っぽのあなたに使えるはずないでしょう?」
不機嫌に胸前で腕組みをした華月さんが尋問をした。
圧倒的な圧だった。これは言わないと死ぬ。
「い、妹です。妹に言われて」
妹に無理やり知識を入れられた。
男女比の狂った世界でまさか心理学を勉強するとは思わなかった。こんな世界の女ならそんな技使わなくとも落とせるのはずなのに。
「四季くんに比べて妹さんは頭が良さそうね。こうすれば彼女もちょっかいを掛けづらいという訳だ。掛ければそれが好きの裏返しだと笑われてしまうからね」
「自慢の妹ですからね。でも一応俺も考えたんですよ。相思相愛って言ったから、華月さんのやつを聞きますか?」
「言ったら殺すわ」
ですよねー。
俺がこんなことを言ったからか、足早に屋上から去ろうとする。待って、置いて行かないで。一人は怖い。
そう思うほど、もう暮れ泥んでいた。
丁度チャイムが鳴った。最終下校時刻らしい。
「あら。もう勉強できないじゃない」
「じゃあ一緒に帰りますか?」
「遠慮するわ」と一蹴する。
なんでだろう。俺はこの人と話しているときコミュ障を発動しない。
このサバサバしている感じがいいのか。どうなのか。
そんなことはどうでもいい。
これを友情というのかもしれない。
「にしても妹がいたの。聞いていないわ」
「言っていないからですよ。またうちに遊びに来てください。妹に呼ぶように言われてますんで」
「考えておくわ」と首を傾けながら言った。
その顔は問い詰めた時の聖良さんのように紅潮していた。




