第17話 権力闘争品、俺。
午後の授業を終え、帰り支度をする時、「ダあーリン」なんて聖良さんに呼び止められた。
「あ、はい」
「一緒に帰りましょー」
ニッカリとちゃんと笑っているのに目は笑っていない。作り物の笑顔を俺に見せる。
それで人間不信の俺を騙せるとお思いで?
腕を組んで懐に入ったところで、ただのパフォーマンスでしかない。一挙手一投足が俺ではない誰かに見せるためのものだ。
「まあ。はい。いいですよ?」と断る理由もなかったので、俺は肯定する。
「じゃあ。どーする?スタバでも寄る?それともわたくしの家でも行きますー?」
「ははは。どっちでもいいですよ」
「あら。どっちでもよくないわ。四季とは初めから約束していたもの」
左から腕を絡みとられる感覚がある。それで強制的に向こうの引き摺られる感覚があった。
誰が、誰がそんなことを?と、見ると冷徹な表情を浮かべる華月さんが圧倒的な存在感を放ちながら佇んでいた。
「いや、そんなこと覚えていませんけど」
「まあ、してないから。でも私が今言ったことによって前からの約束が成立したわ」
なんて強引な。因果律を操作した約束事など、最早ただの虚言じゃないか。
そんな見え見えの嘘を聖良さんは呆れた表情で言い返す。
「わたくしのダーリンはそんなことしていないと言っていますけれど?ただの嘘つき?」
「あら、それならあなたは当たり屋ですか?それ以外にもあるけれど。罪を数えるならあなたは詰みよ」
「罪?」
「ええ。そうよ。現にこの状況をなんとも思わないのなら、あなたは頭がイカれてしまっているでしょうよ」
「何を思うと言うのですか?」
「そこが考えられないのならそういうことだわ」
バチバチに火花が散っている。こ、怖いんだけれど。
え、これが、女子の喧嘩。いや。こんな分かりやすい喧嘩を見たことない。ここが特別だとしてもこれは洒落にならない。
こんなのに挟まれている俺はもうにっちもさっちも行かないじゃないか。
「もういいわ。話し合いで解決というのは難しいそうね。あなたができそうなものにするわ」と言って華月さんは完全に聖良さんを引き剥がす形で自分の方へ引き寄せる。
「あら。そちらこそ無理そうじゃないですか。先に手を出しているじゃあありませんか」と聖良さんも負けじと俺を引っ張って寄せる。
「先手を講じるのは何が悪いのですか?弱肉強食。弱いあなたは淘汰される運命よ」
「いやいや。法律ならばわたくしを優先するはずですわ」
華月さんも聖良さんも一歩も引かない。右左、ずっと引っ張られている。
肘の関節からボキッっていう音がしばしばするのだが、大丈夫よね!?
まだ、引っ張られるから皮膚が擦れて……。
「い、痛い。痛いんだが。そろそろ離してもらえる……?」
「は?ダーリンは黙ってて、そのクソ野郎を倒してからしか余裕ないんだが」
人を殺す目をしている。俺は怯むことしかできない。怯えることしかできない。
その状況に目の前のカノジョの敵は一つ溜息を吐いた。
「そういえば、あなたさん。大岡裁判というのはご存知?」
「何?それ」
「じゃあ。説明してあげるわ。無知なあなたに」
「いちいち鼻につくわね」
「江戸時代ごろに一人の子供を巡って二人の女性が自分の子だと言い張っています。裁判長が子供の手を左右に引っぱって勝った方が母親だと言い渡したそうよ。子供が痛がって泣き出すと、一人の女性がすぐに手を離したわ。裁判長は手を離した方こそ、子供を労る真の母だと判決を出した。この意味わかるわよね」
「そ、それは…」
聖良ちゃんは腕を弱めた。
「そう、私たちがしてることは悪逆非道よ。せーので離しましょう」
「そ、そうね。わたくしも、悪いと思っているわ。じゃあ」
「せーの」
「「はいっ」」
で、離したのは聖良ちゃんだけだった。
離さなかった華月さんはそのまま俺を引き寄せて抱きついた。まるで私の所有物かのように。
「な、あ、華月?ひ、卑怯よ」
「卑怯?作戦よ」
「じゃあ。なんであなたそんな人情噺を持ち出したのよっ」
「ははは。それは勘違いよ。なんで、信用したの?私だったらこの話。手を離してからするわ。あなたを後悔させるためにね」
どっちみち最悪だよっ!!!
「さあ。四季くん。さっさといきましょう」
「いや。あの。え」
言い訳する暇もなく、襟を持って引き摺られていく。
教室が教室が遠のいていく。
す、すまん。俺のカノジョよ。
てか、星宮。なんとかしてくれんじゃなかったんかよおお。




