第16話 星宮が親友だろ、これは。
昼下がりの涼しげな風が入り込む中庭。
俺は全てから逃げ出した。
昼に俺の現状カノジョからお昼に誘われたけれど、なんとか誤魔化して逃げた。多分上手く出来なかっただろうけれど。
また、女子の渦に巻き込まれていくのはもう耐えられない。
それに加えて、隣の席の華月さんとも空気感が悪い。教室には今の俺では快適さを生み出すことは叶わなかった。
かと、言って昼だからと、安直に食堂に行くのも人が多くて億劫だった。
屋上に行くのもあの告白を思い出して飯が不味くなる。俺は消去法的に中庭へと赴いたのだった。
見取り図を見た時から行ってみたかったところだし、この機会にでも行こうかと。
毎回毎回行く場所を変えるのはそりゃあ。冒険心が絶えないのだ。新たなマップは開拓したくなるのがゲーマーの性である。
ゲーマーというほどにはゲームをしていないけれど。まあまだ昼飯も食べずに、ゲームをしている俺なんかはゲーマーというほどでもないのだろう。
「あ、ご飯も食べずにゲーム?」
「あ、あー?ああ。星宮」
「そうだよ。お昼食べに来たんだ」と頷いて、俺を押し退けて、隣に座る。
「お昼?ああ。いいけれど……」
俺なんかを優先して大丈夫か?他の人と食べるんじゃないのか?
これは俺の勘違いなのか?
取り敢えず、食べようとしている人の前でゲームを続行するのは強行だろう。
徐にキオスクで買った菓子パンをとり出した。
「へえ。四季は弁当じゃないんだね」
「親が作ってくれないし、ああでも妹が自分で作っているね。俺の分も作ってくれてばいいのにと頼むけれど、お兄ちゃんは飯なんかいらないというのですよ」
「妹はそういうものだよ」
「それこそ、星宮は弁当じゃないか」
「まあね。お母さんが作ってくれるからね」
「それはやっぱ羨ましいね」と俺が言ったっきり返ってこなかった。
気まずい空気が流れる。
それを紛らわせるため、俺は菓子パンの袋を開けた。
やはり、ここはただの雑談だった。緩衝材みたいなもの。
話したいことは言われなくても以心伝心するものだ。そこまで曇り切った表情をすれば誰にでも。
それにもどかしさを感じた俺は耐えかねて、口を開いてしまう。
「あの。話したいことあるんだったら。どうぞ」
菓子パンをひと齧り。
言ってからだが、なんか素っ気なさ過ぎる態度だったろうか。言葉のチョイスをミスったような。偉そうで。
「それは、まあ。分かりやすいよね。僕表情に出てたかな?」と優しく、それにも侘しさが隠れているようで心が痛んだ。
俺のこんな失言にも真摯に取り組んでくれる星宮。まじ神。
「まあ。結構。俺でも感じるくらいには表情に出ていたよ?」
「なら、こんなくどくどした会話をやめてストレートにした方がいいかも」
「それはまあ。なんでもいいですけれど。俺は」
「僕はこのまま話していれば、有耶無耶にしてしまいそうだからさ。僕は結音ちゃんのようにストレートにはいかないから」
「あれはもうディベート戦闘狂ですよ。参考にしない方がいいよ」
あれを参考にしてしまったら、俺は普く人と会話する際に全部全部尋問だと勘違いしてしまうようになる。
それで、引きこもりになって、友達も《《理想的な》》カノジョも出来ない人生になってしまうんだああ。
「まあ。だからお願いと」
「僕は結音ちゃんのようにはいかないんだ。僕は聞くだけだから」
「そう」
星宮は生唾を飲み込んで、一拍ほど空けてから言う。
「あの。噂っていうか、あれは本当なの?」
噂ってまあ。一つしかないだろう。
「本当……。なんだろうな」
「そう。なんだ。えっと。あの聖良ちゃんとは上手くやっている?」
上手くか。上手く行っていると言えるのだろうか。俺にとっては全く上手く行っていない。彼女のカノジョの計画ならば、華月さんのあの感じで成功なのだろう。
「……」と考え込んで答えを出すことは出来なかった。
「まあ。まあ。どういう経緯かは詮索しないけれど、頑張ってとしか言えないな。聖良ちゃん。意外と破天荒で突飛なこと言い出すから」
「それは、まあ」
突飛なことを言い出したから、こんな状況になっているんだが?
「そして、聖良ちゃんの気持ちというか、意図はいつもよくわからないものなんだ」
「それもまあ」
わかる。華月さんを陥れたからなんだという話だ。陥れることが目的化していて、後のことなんて、後の祭りじゃないか。
「だってさあ。元々聖良ちゃんは俺のことは好きでもなんでもなかったんだ。俺のことを見て、一つ覚えかのように好き好きと叫ぶ人ではなかった。むしろ初めは歯牙にも掛けない様子だったんだ」
「ん?」
それは、それは聞き間違いなのだろうか?俺のイメージとしては神々さん(聖良さんと呼び変えた方がいいいのかな)は星宮に心酔状態だと勝手に思っていた。
「いつしかの日に、それはコロッと変わって、あんなふうになったんだ。それは誰が見ても明らかでね。右から左に。上から下に。それぐらい極端ではあったんだ」
「それは今の状況と重なるような気がしますね」
「そうだね。大体一緒といえば、そうなんだけれど、強いて異点を挙げるなら結音ちゃんが機嫌悪いところかな?いつだって不干渉で、仲裁にも入らないのは普通なのだけれど、敵意はどれも向けなかったなあ。飄々《ひょうひょう》と冷静に、子供と遊ぶみたいに。だから意外という感想が湧くんだ」
「へえー」
え?それは、どういうことなんだ?
星宮の場合と俺の時の場合は何が違うんだ?
イケメンと凡人だぞ。
その評価を覆す心情など、やっぱ。俺に好意がっ。俺の本当のヒロインは華月さんだった!?それはまあ、やぶさかでもない。可愛いし、クズじゃないし。
「それはどういうことだと思いますか?」
「まあ。普通に考えて、聖良ちゃんの行動がやりすぎただけなんじゃないか?」
「あ、そうですか」
俺は俺のことを肯定する言葉を言って欲しくてそういったのに違うかったあ!!!!恥ずかしいい。
「聖良ちゃんは飽きずにいつも結音ちゃんに突っかかっているからね。中学校から今まで、それはもう風物詩のごとく。テストの点数勝負とか、スポーツとか。そう言うのを舞台にしたお遊び程度の勝敗。でも、ここまで険悪になったことはないかも。今日だってあの噂が流れてから、一言も喋っていない。これが当たり前といえばそうかもしれないけれどさ」
「関係性は複雑怪奇性を増していますなあ」
「まあ。当事者の四季からしたら迷惑千万な話ではあるけれど」
「ほんとですよ」
俺思えばなにも関係ないじゃないか。何を悩んでいるのかすらわからないぜ。
「結音ちゃんもムキになっているようだし、どうしたものかなあ。解決は困難を極めるだろうね」
「直接そういうのを聞いた方がいいのかな?」
「それは結構、相手を気分悪くさせると思う。情報として最高だけれど、最終手段な気がするんだ」
「そっかあ。でも機会があれば聞いてみることにする」
俺が殺されないのなら。
「ごめんね。殆ど初対面でこんなことに巻き込んでしまって。僕は僕で頑張るから」
星宮は目を落とす。彼は彼であまりにも苦労を強いているのだ。
俺は一切合切関係ないとしても、これは俺にも非があるように思えてしまう。
こんな心優しい少年がこの世界に残っていたなんて…。ただのバイアスだが、この世界の男は女を好き勝手できるからクズばかりだと思ってた。
だというのに、俺、感動だよ。いい友達を持ったなあと。
「はは。大丈夫。大丈夫。俺が俺がなんとか頑張るから」
俺は立ち上がった。こいつのために頑張れる。験担ぎでもいい。自由の女神のポーズをした。これで俺は全てをなんとかできる気がするぜえええ。
俺は意気揚々と華月さんの元へと向かう。
「華月さん!」
「何っ?」と睨みつけられる。
「あ、なんでもないです……」
ま、まだ早かったらしい。まずは始まりの町からクリアしなければ…………。




