第15話 まだ春は来ない。むしろ真冬。
俺はカノジョをゲットした。長年の夢を達成しました。
高校生活およそ二日で!
やったね!
とはいかないのが人生だった。いや、カノジョができたのも不可抗力。負荷幸力。
いつの間にか外堀を埋められてしまっていた!!
笑い事じゃない。それはどこで誰が、俺の噂をしているかわからないんだぞ……。それは信じられないくらい恐怖な出来事なんだぞ。
「あ、あれ。関根くん?」
「本当?あの星宮くんから神々《みわ》さんを奪ったって聞きました」
「略奪愛!?まじ漫画じゃあん」
「まじまじ。抜けるわあ」
あー。あ〜。言われなき批判が聞こえる。てか、なんでだ。極力、人の少ないルートを通ろうと尽力しているというのに、すれ違う人すれ違う人が俺の噂をしている気がする。
過剰反応と言われても仕方がないけれど、だとしても、前の世界で話題にすら上がらない、むしろ名前を間違えられたり、そもそも忘れられていたりそれ以下なことしかなかった人間だぞ。晒し首にされている気分じゃないか。
もうダメだ。こんな過剰なストレス下は吐く。
帰ろう。帰ろう。こんな自分の教室前でソワソワしている不審者になる前に帰ろう。
俺はターンレフト。玄関へ爪先を向ける。
「うげっ」
「あ。ダーリンじゃーん。やっと来たじゃーん」
神々さんが俺の登場を待ち受けていたタイミングである。まじか。
選択を完全にミスっているじゃないか。
俺は狼狽えて自ずと後ずさる。半歩ほど、その少しも許されず、神々さんの後ろにいた彼女らに捕まる。
「へー。これが聖良のカレシさんねー。あははw w」
「すごく可愛いです」
「ねえ。私が貰っていい?」
肌をツンツンとされる。手の甲をサワサワされる。距離が近い。右も左も女の子だあ。
と、呑気なことを言う余力もない。心の臓が異常なほどに脈打っている。不整脈かな?
まあ冗談だとして、だとしても、この人ら初日の星宮が喋りかけてくれた後、色々と喋りかけてくれた中の陽キャ女子だ。確かさっき喋った順にギャルっけのある桜場さん、清楚系の日御池さん、スカジャンを着て威圧感のある不良系の維川さんだったはず。あんまり覚えていないけれど。
あの時もそうだったが、案の定というべきか、距離感がバグっている。デリカシーがないことが陽キャの距離というべきか。
「ほーら。離れて。離れてー。わたくしのカレなんだから。そんな近づくから、もー照れちゃっているじゃん」
陽キャ女子の渦から救い出してくれたかと思ったら追撃だった。指摘されるともっと恥ずかしい。もっと茹蛸のようになってゆく。
「ははは。可愛いー」と彼女らは俺を小動物として揶揄い遊んでいる。
男としては屈辱極まりない。だとしても、NOと拒否をする度胸もない。今までに体験したことのない心地よさもあるから動けずにズルズルと現状に甘んじているんだ。
「ねー。四季くんはさー。どうして告白おっけえしたの?こいつのどこが良かった?」とふとした疑問を維川さんから問われる。
その問い方は神々さんに魅力的なものがないように伺えてしまう。
ほら、…………。出会って二日、今日含めて三日の人に印象を聞く問いじゃないね。
だから、俺にその問いを答えるなんて無理だ。応えるのも無理だ。脅されてとか、政治的戦略で…なんて言えるはずがない。
「えっと、あの。まあ」と陰キャ特有の言葉から始まって、神々さんの顔が強張っていく。およそカレシくんと呼ばれる俺にしていい顔じゃあなかった。
できるだけいい回答をしなければ殺すという顔だった。
だから、俺は俺なりに必死に考えて咄嗟に出た言葉は「顔?」だった。
いやいや、何を言っているんだ!?俺。トチ狂ったのか頭が!
これは本心だろ。顔はいい。顔だけはいいと言えるだけだが。
こんな爆弾発言をしたカレシくんを見るカノジョさんはというと、苦虫を噛み潰した表情をしていた。
ですよねーっていう反応だった。
「ぷっ。あははははっ。こ、これは傑作です。面白い。最高です。よっ。カレシくーん最高」と不謹慎にも笑い出したのは日御池さんだった。
「何がよ」
「いやあ。だってですねえ。あんたは愛の言葉を八百と並べていたのに、カレシくんは、顔って面白いったらないでしょう」
「別に笑えないけれど」
「まあでも、聖良もさ。旭のこと好きになったのは顔って言ってましたから。まあ似たもの同士で大団円ですし」
「このこのー」と言いながら俺の頬を日御池さんはつついている。面食いのクソ野郎(人のこと言えないが)よりも俺、この人の方が好きになれそう。
「しかし、驚きだよね。あんだけ中学の頃から好き好き言ってた相手を簡単に諦めて新規に乗り換えるなんてねえ。おかしいねー。シナリオ通りじゃないねー」と桜場さんは嘲る。
「それは……。まあ。電撃的な恋をしたんですよ……」
ちょっと口籠ってますよお。やっぱ俺と同じで適当な理由を即興で考えているから質が悪い。でも、俺の方が好きと言われているみたいで悪い気はしなかった。
「ほーん。へえ」
「何」
「いやだって、逆に旭が可哀想なまであるわ。ずっと好き好き言ってた人が取られるなんてね。NTRじゃん」
「NTRは見れないジャンルなんだけれど」
「じゃあ意図せずにしてしまったわけだ。見れるかもね」
「最悪だ」
神々さんは床に手をついて絶望した。
それはいいのだけれど、女子のそういう話をどういう気持ちで俺は聞けばいいのだろう。
帰りたい気持ちがより一層増した。
「まあ。カレシくん。こんなクソ野郎だと思うけれど、頑張って。意外と純粋ないい子だから」
「神々さんってそうなんですか」
それは意外。
印象という印象は第一印象が大事だというのに、最悪だものね。
「神々さんって。名前で呼んであげなよ。カノジョが可哀想よ」
これは名前で呼べという圧力を感じる。これで頑なに呼ばないと疑心を抱かれるだろう。
「じゃあ。聖良さん」
「はい。四季」
俺らはにこりと笑う。
側から見ればカップルだ。しかし、これは偽りだ。紛れもなく偽りだ。人の為なんかではなく、自分の為に騙している。
彼女ら3人を俺は知らないが、その純粋な眼で俺たちを祝福しているかのような……。
その行動を裏切るのは心が耐えかねる。
俺は教室に戻った。
教室に戻るとジロジロと喋ったこともない有象無象から注目を集めている。
神々聖良。その人と一緒に入って来たからだろう。
彼女は意外とこの人は有名人で、皆の関心事であるらしい。つまり、これは居心地が悪い。これから六校時までこれを耐え忍ぶというのは流石に酷という他ない。
だが、それも小鳥の囀りかと思う程度に隣の人が本で隠しているつもりになっているのだけれど、憎悪の表情が隠せていない。
俺に向けての明確な殺意だった。
あ、と。
俺はとんでもない悪魔と悪魔との板挟みに立ったことをたった今自覚することになった。




