第14話 ドキドキデートは存在しない。こんな世界でも。
俺は授業中ずっとソワソワが溢れ出していた。
それは隣の華月さんの「きしょい」とどストレートに指摘されるほどにはソワソワしていたらしい。
「で、なんで俺はあの敵対している神々《みわ》さんとカフェに来ているんだ?」
俺は賢者モードに入ったが如く、そんな疑問を呈した。
「何をいっているのよ。それはわたくしがあなたのカノジョに相応しいかどうか見極めるためじゃない?」
「ああ。そうか」
「その調子じゃもう。落ちるのも時間の問題よね」
「そんなことありませんけどー」
俺が童貞だからといってそんな作為見え見えの罠にかかりますかよ。
もっとナチュラルに攻めてこいよ。
あ、でもクラスの可愛い子とデートだなんて、男女比狂った世界じゃなければできていなかった。ありがとうこの世界。
「じゃあ。わたくしのこと《《触って見る》》?」
「え!?」
待って。これは聞いていない。おさわりってど、どこ?どこをおおおお。
俺は見境もなくジロジロとみてしまう。
特に双丘の方を。
「ほーら、ねえ」と言って俺の腕を掴んでまっすぐと、引き込んでくる。
そのずーとみていたその双丘へと、早急に吸い込まれいく。
ああ。妹よ。俺は初めて触ってしまうぞ。あんだけ日々お兄ちゃんを陰キャ呼ばわりする妹よ。先に旅立つぜえ。
と、馬鹿なことを思っていた自分もいました。
「くす、くす、くす」
腕は宙で、目の前の女は笑っていた。
「な、な、な」
「ばあーか。触らせるかよっ!わたくしのお胸は旭くんのためにあるんだからっ」
ですよねー。納得納得……。いくわけないだろおおお。と、怒り心頭に発するところだが、陰キャなので逆に揉み返すなんてギルティなことはできない。
無念。胸ん。
ついでに腕を持っているからといって腕をへし折られたのは最悪だと思いませんか?
「とりあえず、注文しましょうか」
「ははは。カフェにきて頼まないのは失礼だと思うんですけれど、カフェに来て腕をへし折る女の子もまた失礼だと思うんですけれど、ねえ」
「へえ。そういう人もいるんだー。じゃあどれにする?メニューやっぱこれ?」
俺の話を聞かない。おいカップルになって欲しかったんじゃないんかい。謝ることぐらいせいよ。呑気にメニュー表を広げるなよ。
神々さんが真っ先に指を差し示したのは店、イチオシのカップル限定品だった。
「カップルじゃないでしょう?俺たち」
「まだですよ。でも安いじゃないですか」
確かに破格の値段ではあった。
多分この世界にカップルそのものが珍しいからそんな値段設定にできるんだろう。
この世界様様。だからといって今使わないでしょ!?
「店員さーん」と神々さんが呼んで「なんでしょう」と伝票を持った人が来る。
「じゃあ。このカップル限定品をください」なんて言う。
は?へ?ほんとに頼むの?
「な、なんで?」
「なんでもいいじゃないですか」とクスリと笑った。
小悪魔的だった。ちょっと可愛いと思った。俺って意外とちょろいのかも。
しばらくすると店員さんが商品を運んできた。
「おー。うまそう」
パンケーキにメロンソーダ。その他諸々。女子が好きそうなバライティーである。
俺も意外とそういうの好きだから、楽しみなラインナップだった。
「待ってこのメロンソーダ。一つしかないんだけれど」
「ストローは2本あるよねー。そういうことだよねー。ほら吸っちゃう?」
妖艶で艶やかな唇から発せられた言葉にドキドキした。
「ほら、ちゅうって」
「は、恥ずかしいからやだ」と俺は要求を突っぱねる。
そこまでしたら本当にカップルじゃないかっ!!
「ちぇえ。つまんねーの」
「じゃあ。写真撮るのは?写真。それぐらいはいいでしょう?」
「え。ああ」
おそらく、どうせインスタ用の写真とかなんとかだろう。インスタは何故か好きになれないが、女の子が言っているのだ。
好き嫌いでもなく、俺は肩を寄せるように近づけた。
「はいチーズ」
そんな掛け声と共に、シャッター音が鳴り響く。
「綺麗に撮れた?」
「もうバッチリよ。これで証拠は出来たわ」
証拠?証拠ってなんの話?
「いいや。わたくしたちが付き合っている証拠」なんて彼女は言ってスマホをこちらに向けてきた。
あれ。インスタじゃない。
LINE。LINEだ。LINEのグループチャット。それに爆弾でも投下する勢いで、俺との交際を綴ったちょっと恥ずかしい文章が投稿されていた。
「は、え」
「あんた以外とガード固いのね。まあ。男なんてそんなものか。セクハラなんて日常茶飯事だものね」
そんな日常知らないんだが?
「拒否権はないわ。強硬手段を取らせてもらったわ。ほら、もうとにかくあなたはわたくしのダーリンよ」
ははは。それは本来嬉しいはず。嬉しいはずの言葉なのに、俺はもう取り返しのつかない過ちに突入してしまったのかと錯覚に陥った。
だ、騙された。騙されたよ。童貞の心を弄びやがって。
いや、でもちょっと好きだ。この人。
でも、そうか華月さん。華月さんの言う通りかもしれない。彼女は、彼女はとんでもないやつだ。俺の身柄を攻撃するためだけに政治利用する性悪女だったんだ。
はあ、とため息を漏らす。そうしても何も変わらない。
ともあれ彼女がカノジョになった。
しかし、悪い気はしなかった。




