第13話 デート。そんなの実際にあるんだ。
「どう言うことですか?」
「まーね」
まーねって何?え、混乱が拭えない。
付き合ってとか言っていたか?だとしたら、春が来た。急に春が来たのだけれど、それはあまりにも唐突。唐突すぎて、素直に喜べない。唐突だとしても信じられない。だってだって君は……。
「あ、あの?星宮が好きなんじゃないんですか?」
そう。テニスの試合の時。公開告白のように愛の言葉を叫んでいたじゃないか。ダブルスタンダードも甚だしいぞ。理解が追いつかない。
「まあ、好きなんだけれどー。好きなんだけれどもー」と目の前の男に告白しながら別の男を好き好き言っている。でも心が籠っている感じではない。
なんだこいつ?
なんで待ち焦がれていた告白がなんでこんなにも苛立たしいのだ?意味もわからない。
ああ。振ってやりたい。この子の顔面がこんなに惹かれるものであっても、こんな浮気者許せない。
「じゃあ。念願の星宮と付き合えば良いじゃないか」
これは正論だ。相手の事情も考えない正論だった。
「だ、だからまあ。違うのー。聞いて。一回聞いて」
「まあ。聞くだけなら」
どんなことをどんな御託を並べるのか、気になるところだった。
「えっとね。わたくしは最近。気づいちゃったの。大体二個ほどね」
「何にですか?」
自分の性悪さ?
「わたくし彼、旭くんが好きな気持ちよりも、あいつが嫌いな方が勝っているってことに」
それは、なんか良くないだろ。
「はあ、で」
「二つ目。あいつ。なんか珍しく人と喋ってるのよ」
「そりゃ喋っているでしょ」
「いいや。わたくし中学の頃からずっと見てきましたけれどさ、あいつ全然人と喋らんのよ。喋っても絶対受動的なのよ」
「そーなんですか」
そりゃあ。まあ。あの性格だからなあ。
誰かに喋りかけるイメージがない。今日だって一人で黙々と《ドグラマグラ》を読むやつだ。友達はいないだろう。
「でも、気づいちゃった。あなたにだけは能動的に喋っているのよ」
「あ、あー」
確かに。何かと華月さんは俺に話しかけてくる。
まあ。神々さんにとって華月さんは受動的に見えるかもしれないけれど、それ以上に俺が受動的だったのかもしれない。ああそうだね。俺、高校生になって一人たりとも自分から話しかけていない。
「なんででしょうね。男と付き合いたいと言う訳で喋りかけていると言うのは的外れでしょうし、なら旭くんで十分でしょうに」
「それは。まあ」
星宮と比べれば、どうにもこうにも劣ってしまうのは俺だった。
「とにかく、あいつがお前を慕っていることは確かだ」
「まあ?うーん」
なんか魚の骨が引っかかって上手く飲み込めはしない感覚に苛まれる。ただ揶揄いやすいからとか言う単純明快な理由だったりするだろう。この二日で彼女のことを知ったふうに語ることは重々烏滸がましいけれど、華月さんがそんな人だとは到底思えなかった。
「だから、わたくしは思ったのです。あんたをわたくしのものにすれば、わたくしと付き合えば、それはもう。一回も勝ことができなかったあの華月結音に一泡も二泡も吹かせられるのではとっ!!!」
「あー。そうですか、じゃあ。自由にしてください。俺はそろそろガチャを引かないといけないので」
俺は颯爽と屋上を後にしようと思った。
面倒だから、なんて理由で断る訳ではない。俺はそこまで主人公じゃない。だが、俺は義理人情がある方だ。圧倒的な才能に当てられ続けて、性格がひん曲がって嫉妬に駆られる彼女の気持ちもわからなくもない。でも、華月さんの方が先に友達になったから、そこは守りたい。友達は傷つけたくないタイプなもので。
あと、俺を巻き込むな。やっぱり最初のやつだった。
ぐいっと引っ張られる感覚が俺の腕にあった。
「な、何するんだよ」
「いや、それは逃げるあなたを捕えるためであって……」
「逃げるってなんだよ」
「告白よ」
「じゃあ。もう良いから。あんたのことは振るから」
「はあ?正気じゃないんじゃない?」
「いや、あんたの方が正気じゃないでしょ」
何?華月さんに一泡吹かせたいからってかあ?
それは勝手にやっていろ。そうならば別に問題はないけれど、かといって計画に俺を巻き込むな。
「大体俺のこと好きじゃないじゃんか」
「好きよ、好き。I like you。はあ……。これでいいんでしょう?メールとか返していい?」
つまらなすぎて、スマホとか手にしたい衝動に駆られてるじゃん。
「LOVEも声高らかに言えずに、その上ため息だと。そんな俺に微塵の好意のない、行為のないお付き合いはなんか違うじゃないか!?」
「うっわ。キッツうー」
「きつくてごめんなさいねっ!?」
なんで俺の方がライフポイント削られているんだ?おかしいでしょ。
「まあとりあえず。今日。デートしましょう」
「デート?」
「デートして、わたくしが認められるカノジョになれるか審議してもらいましょう。それが一番納得できるでしょうよ。いい?」
え。デート。デートのお約束?
これまで生きてきて十数年間そんな誘いは無かったよ?だから、デートというものがあるかどうかも疑っているこの俺にその誘いが?
「嘘ですよね?」
俺は疑いのあまり聞き及んでしまう。
「嘘じゃないわ。じゃあ放課後とかにカフェに行きましょう」
ただ、それだけが言いたかったの。とでも言いたかったかの如くこの屋上から颯爽と去った。
あっけらかんとした俺だけが取り残されていた。




