第115話 私と彼女は違うらしい。
四季くんが消えていくのをじっくりと眺めていた。
消えて暫くする。
私と妹さんがしんみりとした空気を薙ぎ払うように目をしばたかせる。まるで、姉妹のような同時性があったのだって大したことじゃない。
「さて、私たちも戻りましょうか」と私は妹さんに言った。
「ははは。これでよかったのかな……」
妹さんは空虚に絶望をしている。
「でも、貴方が望んだ結果なのでしょう?」
「望んだ結果はもっと美しいものだったよ。だけれど、こんな……」と眉を顰めて、怒りを言葉に乗せる。
「自業自得だ」と冷たく言い放った。
妹さんにとっては、痛い言葉を放たれたという顔だったか。
「そうだね。悪魔と契約して、外道な方法で、どうにかしようとしたんだ。当然の結果だったとも言える」
深い反省をする。
「まあ。それはさておき、一つ訊きたいことがあったよ。一つと言わず、二つ三つかもしれないれど」
さっきの言動で、好感度を失墜させたので、初めの対応と変わらないように、眼力強く睨み付けられる。それに怯むことなく、変わらず、言う。
「あれだよ。四季が死んだって奴」
神妙な面持ちにしたいが、相好は崩さない。
「お兄ちゃんは虐められていたんだ。母の死もあったかもしれない。それが五月雨式に重なって、お兄ちゃんは壊れた。遂には三角座りで動かなくなってしまったよ。生きているのに、死んでいるような」
ははは。と乾いた笑顔を浮かべる。
妹さんも壊れてしまったのかもしれない。
「だから、《《それ》》に手を出してしまったのか?」
「言い訳の余地がない」と目を背けた。
何の事情があるとかそういうのは、言い訳の余地はない。それを使ってしまったら、それはもう罪人だ。
「それは誰から、教わった」
「***」
私は知っていた。当然だ。
だから、
「そいつはどこにいる」と詰問する。
私にしては感情的になっていた。
「分からない」
ああ。最終到達地点に来たと思っていたのに。水の泡だった。
「私も知りたいんだ」と震えた声で言った。
「う、うちは……、《《あいつ》》に殺されてしまうかもしれない」
瞳孔が揺れていた。
恐怖に呑み込まれていた。多分、《《あいつ》》に、そんな風なことを言われたのだろう。
「それなら、どうするんだ」と過酷なことを聞いた。
「だから、協力する。協力するから、助けて欲しい」
彼女は失敗したから、消される。当然だった。
だから、助ける義理など無いけれど……。
「妹さんは正気なの?」
「ああ。勿論。この世界から出た後に自分でアイスピックを使って目をほじくり返して見せたっていいくらい」
ああ。そうなのか。それだけ、言うなら、正気なのだろう。
「じゃあ。穿り返せよ?それが約束だ」
「まあ、ともかく、結局訊きたいことは四季がこのまま戻ったとしても、大丈夫なのか?ということでしょ?」
全てはお見通しらしい。だから、妹さんを助けなければならないことを見透かされている。
「大丈夫、大丈夫。心配しなくて良い。四季の妹の名に置いて保証をするから」
自信満々に、腰に手を据えて胸を張った。
そこまでされて逆に不安にならないかと言えば嘘になる。
「本当に?少し、毒抜きをしなければ、また、頼ってしまう。そのようにここは作られているから」と、疑いだらけの目で妹さんをじっくりと輪郭をなぞるように眺めていた。
「分かっている。分かっている。勿論、全ての記憶を消して置く」
おどけた声で、妹さんは失笑する。
この世界の出来事は今後の四季くんに取って毒だ。
ここで形成された四季くんは本物ではないから。
「嘘ではないよね?」
「嘘は付くけど、易しい嘘だから」
妹さんはクスリと欺瞞っぽく笑った。
なんと言う言葉遊びをする。結局は嘘ではないか。表現にだまくらかされて、少しでもロマン的だと思ってしまった私を殺してやりたいと思う。
私はムキになって、「私も嘘は付くけど優しい嘘だから」と彼女の反対を行こうと裏を掻いたら、良くある陳腐な言葉になってしまった。
もっと、彼女はクスリと笑う。
「優しい嘘も、溶けてしまえばただの嘘」
「易しい嘘も、解けてしまえばただの嘘」
私たちの関係は、一言で言うと、あー言えばこう言うと言う関係が最も表しやすい。折角、自然とお互いの利害の一致にして、団結を図ろうとしたというのに、最後の最後まで、歪みあって分かれてしまった。
「「最悪だ」」
やっぱり、根本的に妹さんとは雰囲気が合うことは出来ないのだろう。まるっきり、信念に差異があるし、歩みよりもない。だけれど、利用価値があった。
それによって四季くんは守られる。
それなら、何でもしなくてはならない。そうあの悪魔を討伐するために―――。




