第113話 解答編で語りすぎるのは犯人の悪いところ。
扉を開けると、言わずもがな犯人でラスボスと主張する人物が回転椅子に腰を掛けていた。
「あーあ。幸せな世界が崩壊してしまうよ。お兄ちゃんのための素晴らしい世界が」
一丁前に足を組んで、腕を組んで、回転椅子を回転させながら、思っていた通りの人が露悪的に言った。
思っていた通りの人とは勿論、議題に上がっていた妹である。
当然いつもの妹とは雰囲気が違うわけだ。物腰柔らかで明るい妹から、鋭く冷たい感じが漂う。
それは随分と過去の記憶で色褪せてしまった妹に似ていた。
「ああ。その人か。その人に教えてもらったのかな?」
妹は俺から目線を逸らし、後ろで狼狽している桜場さんに焦点を当てた。
桜場さんは今すぐにでも俺について詰問したい様子を我慢していた。
「こんにちは。うちはお兄ちゃんの妹、関根折節です」
「私は桜場です」
「お兄ちゃんに有る事無い事吹聴していないよねえ?」
「そんなわけがないじゃないか」
恭しく初対面の挨拶を交わしていると思えば、バチリと火花が散った。
両者、睨み合わさった。反りが合わなかったらしい。
「色々教えてもらったけれど、ここに来たのは自分自身で、だよ」と、その地獄を少しでも和らげる緩衝材の如く、補足を入れる。
「ほお〜。意外だねえ」
本当に本当に意外そうだ。俺を馬鹿にするように大袈裟に手を叩く。
「やっぱり兄妹だから分かっちゃったのかな?」
「そんな説明で許してくれるなら、有り難いけれど」
「私はそれを許容しないけれど」
一人は見逃してくれなかった。一人除け者にされた桜場さんは鋭利な眼力で俺を威嚇する。さっきから無言で説明を求めていたことだ。俺は折れて説明する。
「とは、言っても上手くは説明できない。なんか、近くにいる気がした」
「やっぱり遺伝子の話をするのかな?」
ニンマリと俺との遺伝関係を証明できたようで妹から笑みが溢れる。
対して、桜場さんは「いや、そのいちゃつきはどうでもいいから」と塩対応だった。
まじで兄妹間にやましい関係がありそうだと思っているかも知れない。
ないよ。ないから。
激しく否定すると、逆に工程だと思われるかも知れないから、もう言及はしないけれども。
「多分、この世界に初めて来た時、目覚めたのがこの部屋だったからかな……」
直感的に言えば。分かりやすく脳内に怪しさ、不気味さというのが微かに内包されていたのだと思う。一番最初は特に何も感じやしなかったが、異様に暗鬱としていて、機械類が犇めき合っている光景は脳裏に焼きついていたのだ。だから無意識的にもここへと導かれたと言ってもいい。あとは星宮のことだって、動機付けになった。最終判断は彼のアドバイスのおかげやもしれない。
「ほーん」
妹が神妙な面持ちをする。正解を引き当てたっぽいのか?
「それで?」と、続く言葉を求められた。
「俺の友達が、繋がりというアドバイスをくれたんだ」
最終判断は星宮のアドバイスのおかげやもしれない。あれがなければ、確信に迫って動くことは出来なかったかもしれない。
「へえ。あいつ。やっぱり、最悪のにんげんだ。どうしようもないともいう」
妹が失笑して茶化す。
星宮の批判をするなら黙っていないぞ?
桜場さんも失笑したが、これはまた別の失笑ものだっただろう。やっぱり、桜場さんは納得する余地はないらしい。
「まあ。それはそこまでにしておいて、妹さん?聞きたいことは随分とあるけれど?」
叩けば埃が出きったと判断したのか、別のところに槍玉を挙げる。
俺からの情報など些事にしか思っていないらしい。
「どんどんと聞けばいいじゃない。うちは黙秘権を行使するけど」
それじゃあ。意味はない。見つけ出して、会話する特権が生かされない。
「けれど、ここに私とあなたが居合わせている時点であなたは負けだ」
桜場さんは煽るように啖呵を切る。
「へえ。言ってくれるじゃない」
「ゲームのコンセプトは崩壊したのも等しいからだよ」
「まだ、まだ、再構築すればいいこと」
「だが、どうやって再構築するの?肝心な主人公はいないもの。ERROR CODEが紛れもない証拠」
「主人公が居なくたって、この世界の現状維持をするくらいなら……」
語尾がどんどん元気がなくなる。
「現状維持をしてどうするっていう。現状維持をしたところで、進化はない。寧ろそれは違和感を起こす。だからもうとっくにプログラムは崩壊している」
QED証明終了と真実を突きつけた。
妹は去勢を張るべくもなく、ぐうの音もなしにしなしなと床にへたった。
「さあ。妹さん。君はもう追い詰められてしまったのだ。とっとと、四季を現実世界に戻しなさいな。窮鼠噛猫を見せるなら、どうぞ?」
要らぬ挑発をしている。
それで本当に窮鼠噛猫でもされてみろ。溜まったものではないだろうに。
しかし、妹は桜場さんではなく、俺の方へと向いた。
「じゃあ。お兄ちゃん。一つ聞いていい?」
はて、俺が聞かれることなんてあるのだろうか。
「どうぞ?」と躊躇もなく、そう言った。
聞かれるものを答えるなんて簡単だから。それくらいのお願いは聞いてあげなくちゃと思ったんだ。
「お兄ちゃんは今、幸せ?」
なんてことない質問だった。
俺は素直に、「幸せだけれど……」と言った。
「うん。そう」
妹は何を納得したのか満面の笑みを浮かべた。
そして、戦意が完全になかったかのように手を挙げた。
「降参。降参。お兄ちゃんを戻すから。準備に結構時間かかるから待っといてくれる?」
そう言って、何かしら準備し始める。
え?え?俺は当惑感を隠せなかった。あっさりと、降参を認める妹がむず痒かった。
だが、しかし、これで一件落着してしまうのかと、感慨に耽り出した。
そう考えると何か惜しいものを心に感じた。だから、妹から目が離せない。ただ、何もできずに呆然と立ち尽くすだけだった。




