第112話 さて、机上の空論を始めよう。
取り敢えず、否定したい事実が、既に行き詰まってしまった。
だって俺は何一つとして、妹の行方を知らなかったから。今回だけではない。大体、妹に行き先を尋ねる前に何処かへ出かけているし、そして帰って来た後の会話も非常に僅少であるのだ。よく言えば放任主義。悪く言えば、ネグレクト。
「お兄ちゃんって妹のことを何でも把握しているものじゃないの?」
純朴なる質疑だった。
俺は声を大にして吐き出す。
「なんて的外れなことを言うんだ」
「ほら、あの身長からパンツのサイズ、胸囲、カップ数とか…、枚挙にいとまがないけれど」
もっと的外れなことを言った。軌道を外しまくっているどころではない。逆方向に撃っている。
と、いうか例を挙げるのが、何で全体的に体のことなんだ?俺が妹の裸を覗き見ているみたいな言い方じゃないか。
「ないの?」
「俺は……、まあ。妹とは結構ドライだったわけだから」
「妹と兄は王道ストーリーだと思うんだけれど」
「全国的な兄妹は全く持ってそういう間柄になるなんて一切合切ない。断言できる」
こんなゲームの開発者か、管理者か忘れたけれど、そうだから頭が真っピンクなんですか?
もう星宮のせいで学園もののそういうゲームになってしまったというのに、さらに俺たちで妹もののそういうゲームにシフトさせるというのか?刹那的に一考してみたら、悍ましくて仕方がなかった。
「全然。そっちの方が結構、説得感があっていいかもなあ。な〜んて思ったり」
あはは。と冗談っぽく笑うけれど、真剣に彼女の中では議題に上がっていたかも知れない素振りを見せる。
傍迷惑な話だ。
結構、この世界から脱出できるか、できないかの過渡期にいるというのに、なんて弛緩しきった話を展開するんだ。この世界にいつまでも幽閉されていることが俺自身にどんな悪影響を及ぼすのかということを滔々と説明をしていたのは何を言う桜場さんなのに。
「いやいや。ちょっと話の脱線ついでに、ドラマチックな可能性の話をしていただけだよ」
一つたりともドラマチックに思えないんですけれど。
それはもう猟奇的でしょうに。
「それが身の毛のよだつ話ならば、止めるけれど……」
「ああ、やめてくれ。やめてくれ」
妹と会う時になんかそう言うことを一瞬でも考えてしまったなら大変である。
今までの対応と違って偽物と疑われてしまうかも知れない。
「じゃあ。本題として、君の妹がどこにいるのか勘案しなければならない」
「当てもなさ過ぎる話題だな」
それでも、その論題を妹自身にぶつけなければ、進捗するものも進捗しない。
違うなら、違うで安心もできることだろうし。
一縷の希望として、残された希望だ。
「まあ。直系の君が知らないと言えばそのままなのだけれど……。言うなれば、ノーヒントの推理をしなければならない。仮定の上の仮定。机上の空論で見つけ出すのが吉」
「ノーヒントの推理なんて……」
確かに俺からは妹に対する傾向と対策みたいな赤本みたいな知識が引き出せるわけではないけれど、あまりにも漠然としすぎである。
「なんかないの?」
「ない」
すっぱりと断言する。
だから、言っただろう。妹とはドライだったと。
「そっかあ〜」
「俺から提案できるのは、このまま待って置くのがいいかも知れないと思う」
どうせ、妹はここに帰ってくるんだ。だって、ここは俺の家でもあるが、妹の家でもあるのだ。
見つけに行くよりも効率的であるぞ?当てもないところを徒労で終わる可能性はないだろうし。
「遺憾ながら、それは難しいだろう」
「何でですか?最も最善だと思ったんですけれど……」
「私がいるから」
首を傾げる俺。
桜場さんがいるから百人力じゃないか。
「それは四季にとってでしょう?妹さんにとっては現場を嗅ぎ回る厄介なやつになっていること間違いなし。だから、私から探知できないようにデータ上から消去している。つまりは、うっかり出くわさないように向こうも工夫をしているってことでしょ?」
「一人で探せということですか?」
「違う、違う。妹さんからしたらわざわざ、敵がいるのに目的もなく敵陣に突っ込む兵はただの愚か者でしょう?そこまで、愚か者なら、ここまで苦戦は強いられなかったものだし。結局言いたいのは、私たちから積極的に行かないと、捕まえられるものも捕まえられないということ」
まあ。確かに。
その理屈は重々承知した。
「けれど、やっぱり探す当てがない」
「私もこれと言って、思い当たる節はないような気がする」
頼れる桜場さんがそうだと、本当に八方塞がりにも程がある。
だったら、考えられることは一つたりともない。
「考えられることはあるよ。仮定の上の仮定。机上の空論って言ったでしょう?」
「お遊びの範疇じゃないか」
ずっと、冗談めかされているようで、バカらしくもなってくる。
「冗談でも、何か着想を得るかも知れないじゃない」
「うーm」
わからなくもないと、複雑怪奇な思いで唸りを上げる。
桜場さんは新種の冗談でも考えているのかと思わされるほどに、適当な表情を見せた。
「まあー。いそうな所といえば、こんな莫大なゲーム操作をしているから、随分と大掛かりな設備がどこかしらにあるかも知れないよね」
「そんな設備を格納できるほど、大きな建物ってありますか?」
「ここはゲーム、仮想現実だ。空間の大きさを変えることなんて、赤子の手を捻るよりも容易だよ」
「じゃあ。選択肢は無限じゃないですか。最悪暗渠の中だったと言われても納得が行く論理ですよ」
ロマンチックだけれども。
「あはは。それなら、探すものも探せないじゃないか」
呑気に笑っている。いや、笑えることじゃ全くない。
全く分からなくなっている。
桜場さんであってもお手上げなのだ。でも、犯人も完璧な訳がない。これまででヒントがあったはずだ。俺は、ここで使うのか分からないが、星宮のアドバイスを思い出していた。「繋がり」やら「灯台下暗し」なんて言う……。
「あ、」
確認していないところがあった。それも毎日毎日、確認できるというのに、確認していないところがあった。そして、納得できるお粗末な論理さえも組み上がってしまう。
それなら、確かめるしかない。間違っていた。それならそれでいい。そっちの方が清々しいまである。俺は立ち上がって、自室の扉を開けた。
そして、隣の部屋の扉の前にたった。
いいのか?これを開けてしまって。
ただのパンドラの箱ではないのか?
俺は扉を開けた。




