第106話 みんなやることやっているんだ(棒)
「もしもし」
強張った表情で電話に出る。
電話の嫌いな俺であっても流石にこんな待ち遠しい電話は出ざるを得なかった訳だ。それでも、手が震えてまともに電話ができるかどうかといえば怪しいところではあるけれど。
『はい。星宮ですけれど。四季も酷いね。ワンコール目を無視するだなんて』
腑抜けた声が部屋に響き渡る。これは間違いなく星宮だった。
「その常はすみません」
『まあ。いいよ。今日は特別だよ。サイゼで話した続きということかな』
いきなり本題に入られて、俺は思わず唾を飲み込んだ。
「まあ。そうなるな」
『じゃあちょっと待っててほしい。すぐに終わるから』
「ああ。どうぞ」
プチリと電話が切られた。
今は都合が悪かったのか。それでも出てくれたのはありがたいのだけれど。
なんだろう。今からお風呂にでも入るのだろうか。
まあ。大体20分とか30分とか待てば良いんだろうな。うん、待てる気がしない。この胸のうちにある逸る気持ちが頻りに(四季だけに)飛び跳ねている。
バイブレーションで震えた携帯を持つ頃には俺は随分と、消耗焦燥仕切っていた(四季だけに)。
『ごめんかなり待たせてしまったかな』
「いいや」
31分33秒。俺があれから待った時間。
気分が狂ってしまって、狂ったように時計の針を追うだけの時間だったよ。
「何をしていたんですか?」
ちょっと余談をしようとした。
これが本質だとも知らずに。
『愛し合っていたのだよ』
星宮が絶対出さないだろうダウナーで焦燥し切った声を捻り出した。
するりと携帯電話が地面へ落下していくのを観察していた。
衝撃が頬を伝っていた。
「そ、それは隠語だよね?」
『いいや、別に普通に文面のまま。さっきまで人がいたんだ。海桐花ちゃんだけれど』
日、御、池、さ、ん。
あのヤンデレお化けが、望む人とそう言うことをした。それはあるべき所に収まったようだ。
まあ、でも、知っている人がそれだったので、明日どういう反応すれば良いんだと混乱してしまうけれど。
何を明日のことを呑気に考えているんだ。今から必死に目を逸らしているのが、バレバレではないか。
『大丈夫?震えているけれど』
いや、震えるだろ。え?完全に星宮へ思い描いていた性格像とは完全に違う。
もっと好青年で、底なしに優しくて、鳴蝉潔飢を保つ品行方正名人だと思っていたのだ。音を立てて崩れ切っている。
「それはどういう意図で、したんですか?」
聞くのを止めて置けばいいものを。俺はそんなことを聞いてしまった。
『それは、まあ。思い出かな?』
思い出?まあ。一生の思い出になるだろう。俺みたいなものにとってはさ。
え。と言うことはこのゲームまさかの18禁?
『さあ。ここの世界に18禁とか、全年齢対象とかあるんだろうか』なんて言い出した。
尚更ダメだろう。分からないものに手を出すなよ。
けれど、出来るんだったら、それはもう18禁かもしれない。俺はこのゲームになんか、色々と嬉しくなってしまう。
『別にいいものではなかったよ。続けていても無駄だったかもしれない。僕は只一人を、そして、あの瞬間を愛しているから』
「そうですか?」と質問をした。
『さあ。本筋が逸れたね。サイゼリアの時の話の続きだったか』
『母は行方不明な人と』
俺は言い淀む。
ぴきりと、直立直立不動で佇んでいる。
「どうして知っているんですか」
星宮は暫く言葉を返してくれなかった。
『前、会ったから』とごく当たり前の理由そうなことを言った。
「ど、どこで、ですか」
俺は居てもたってもいられなくなって、そう聞いた。
『でも、今は違うかもしれない』と目を落とした。
「違う?」
とどのつまり、生きていると言うこと?死んでいると言うこと?
『どちらでもない』
どちらでもない?
生死を彷徨っているのか?だとしたら、俺はこんな所に居る場合ではない。
『四季に伝えるのは……。でも敢えて言うなら、環境は人を作ってしまうらしいと言うこと』
環境は人を作る。
そのどこかの大学のスローガンのような文言を俺は鸚鵡返しに反芻した。
それが母と何と関係が?
「それってどういうことですか?」と速攻で質問をした。
『深く語ることは出来ないけれど、そのすぐ質問をして考えない癖はやめた方がいいかも知れない。自分の身のためにもね』
ぐっさりと、図星を突かれてしまった。
致命傷並みに痛い。
「ははは。そうですね」と苦笑をすることしかできなかった。
「あとは、アドバイスとして*****が****ですから……」
「はい?」
「****、繋がりを確認して、***で……灯台下暗しという諺を……」
「一つも聞き取れないのですけれど。もう一度お願いできますか?」
ノイズが混じっているのかな。
アドバイスというアドバイスが分からない。
『ああ。これは言えないらしい。と、言うか僕はもう駄目そうだよ。ここまで言ってしまったからね』
ここまでと言われても俺には何一つ伝わっていない。
変なアドバイスを聞いただけだけれど。
『それはつまり、僕は、この退屈で、そして恐ろしい箱庭に囚われてしまえないと言うことなんだよ……。これからは無限の逃避を続けなければならないんだ』
それはつまり……。
『僕はゲームを離脱する。君を救うために』
星宮は明確にそうやって宣言をした。空いた口が塞がらなかった。
君が離脱してしまったら、このゲームはどうなってしまうのかとか、俺はどうすればいいのかとか、君を救うだとか、そんなことを問いただすこともなく口がぱっかりとまるで鯉だった。
「最後に一つ。************************だ。ジガヲモテ」
そう言って、電話は一方的に切られた。
何のことも理解できなかった。
ツーツーと電話から悲鳴が聞こえるだけだった。俺はそのように感じた。
桜場さんに委任された任務を果たせなかった他、俺と星宮は別に分かりあってなどいなかったことに落胆をしたのだ。一時期は冗談でも親友で、何言っても怒らないと思っていた彼であるのに。
今とのギャップの崩壊に乗り越えることはできない。
ただ、失敗してしまったという状況が俺の中にあっただけだった。
「ああ。どうしようこれから」
あとは転がり落ちるだけの日常に期待するものは何もなかったのだった。
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