第103話 いい性格してる。
「なにを辛気くさい顔をしているのかしら?いつもいつもしている気がするわ」
いつもいつも家庭教師として来ているのも、大概ではある。また今日も打って変わって夏休みが続いていた。とは言っても、それは普通の楽しい夏休みではなく、勉強をひたすらさせられる日々である。聖良さんはもちろんのことながら、今日は前の家庭教師である舞賀さんと共に教え込まれているが、それに頭を伏せて、昨日のことに現を抜かしている。その肝心の星宮は今日は居ないと言う。どうしてかな。なんている問題を解いているから、二次方程式など、微塵も頭のなかにない。
アピールしているわけではなかったのだが、そんな分かりやすく視覚的に絶望をしているから、華月さんに目を付けられてしまったのだ。気が滅入っているというのに、学校に来るなんて、なんて気が狂っているのだろうか。
「ああ……」
蚊のような途切れそうな声で、それに対応する気力はなかった。椅子に座るだけでも、大半の気力を使い果たしてしまったのかもしれない。のんべんだらりんと、その結論を先延ばしにしたい。
「あら、四季くんにしては、相当重傷なのね」
「重傷……、重傷かも」
一人の荷では重すぎることだ。
それか、俺が悩みへの体制が弱いだけなのかもしれないけれど。
「こんだけやっても勉強への体制がないのは些か問題だと思うけれど」
勉強の体制もなかったようだ。
「まあ。まあ。結構やってきたんだから、休憩も必要なことだよ」
「それもそうね。お茶菓子貰える?」
素直に華月さんが人の言うことを聞いているのは驚きだったけれど、なるほど、実利だった。舞賀さんが持ってきたその高級クッキーを食べたいというそういう理由だった。なんだか、俺がダシに使われて、不服だけれどまあ、いい。高級な紅茶も出してくれるというのだから、黙っていよう。
紅茶が、するりとティーカップに注がれる。
「で、何を悩んでいる訳?」
ああ。この紅茶はかつ丼だった。
そんなうじうじしているのはめんどくさいとか思われているのだろう。
手っ取り早く自白しろと。圧を感じたものだ。
だから、俺は躊躇もなく、「華月さんは、俺の性格をどう思いますか?」と俺は心の澱を押し出すように、質問をする。
それに、華月さんは目を丸くした。
「何に悩んでいるのか、検討も付かないわね」
俺の悩みを解決するような心意気もないらしい。
実に投げやりな言葉だった。
「貴方の性格なんて、単純明快じゃない。悩む必要もないくらい普通よ。普通。なんの取り留めもない。東京駅で見たならば忘れてしまうくらいものね」
ひ、酷い良いようだ。
でも、俺は間違っていなかった。星宮は何を求めているのか分からなかった。
「じゃあ。逆に華月さんはどういう性格だと思っているんですか?」
ゲームのキャラクターにそんなことを聞くのは随分と滑稽なような気がした。
誰かが設定した台詞を喋るだけだろうに。
「あら、私の性格なんて、語るまでもなく。《《いい性格》》じゃない」
自覚はあったようだ。
「彼女もいい性格よ?」とそこでぼけーっとしている舞賀さんに言った。
そっちのいい性格は多分意味合いが違う。舞賀さんは作中随一のいい性格の持ち主であろう。その作中随一の良い人に俺の性格を尋ねて見る。
「どうだと思います?」
「どう?う~ん。まあ、そこはかとなく……、優しくて、良い人?」
首をポッキリ傾げた。
無理矢理捻りだしている傷つく感想だった。そうだ、良い人は皆そうやって言うのだった。隣の席の人の良いところ言って見ましょうみたいな課題で出されるもの。ぼっちだったころの小学生とかを思い出してしまった。
「ははは」なんて苦笑いしかできなかった。
それでなんとか水に流して、水で薄める。
「優しいなんて誰でも出来るわ。モテない人ね」
最悪じゃないか。
毒舌キャラだとは思っていたけれど、それはもうライトノベル主人公への挑戦状等しい。
「納得できないって感じかしら?」
ドンピシャなことを言われて、ドキリとしてしまった俺がいた。
「まあ、はい」
「自分で折り合いつけるしかないわよ。私が言えることはこれだけだわ」
「そうなんですね……」
やはり、人に頼るべきではなかったらしい。
自分で決める。自分で答えを出す。これを克服しない限り、どうにもならない。行き着く先は多分地獄かも知れない。そこまでは自覚もなければ、あまり想像はできなかった。
まあ、今はまだ時間があると思っておこう。ここで考えることではないと思う。勉強に疲れた時のちょっとした気の迷った雑談だったことにしておこう。




