第101話 またあったね。
食事を食べた後、俺らは解散することにした。
僕はもう少しだけ、遊びたい……というか、星宮のその話を聞きたくてしょうがなかった。だから、皆が帰る途中、星宮だけ呼び止める。
「いいや、今日は用事があるから。とっても大事な用事なんだ」と言われて、あっけなく俺の浅慮な計画は徒労に終わった。
仕方なし、そう思って、帰るのもいいが、今日はそんな気分ではなかった。もっと遊びたいという気分だった。折角今日は勉強の休息日。隅々まで遊ばなければ、休息日の名に恥じる。
「よし、ゲームセンターに行こう」と適当に思った。
適当に考えたから、ところでゲームセンターはどこにあるのだろう?なんて言う疑問が出るのはそう時間もかからなかった。
何も考えずに外へ繰り出していたことに気がついた。
狭い路地の右端。そこに停止してスマホで検索をかける。
へえ。意外とここ周辺でもあるらしい。格ゲーとか、テトリス、ぷよぷよさえあれば、何時間だって時間を潰せることだろう。されども、そこまでどうでもいいことだが、場所の選定でこの性格を発揮しているのは最悪だった。
「ははは。悩んでいるねえ」
俺は矯めつ眇めつGoogleマップに集中していたところに誰かしらに声をかけられて、驚天する。
「あ、あぁ……」
名前はあの時聞かなかったと思う。だけれど、よく覚えているその雰囲気。不気味で、どうにかなってしまいそうな空気。
「どうしたんだい。少年」
吸い込まれるような目を持っている人。
全てをゲロってしまいたくなる人。
「いや、今からゲームセンターに行こうとしてるのだけれど、どこに行こうか迷っているんですよ」と正直に言った。
「そお?まあ。レトロゲームやるか、格ゲーやるかとか、色々選択肢があると悩んで結局行くのやめてしまうのさ」
わかる。確かにというバカみたいに共感した。
「最後は長いモノに巻かれろと、思うねえ」
「じゃあ。地下鉄に乗って遠くへ行くのがいいんですか?」
そのラウンドワン的な……。ラウンドツーというパクリみたいな店に。ゲームだから著作権でそうなっているのだろうけれど……。
「それがいいかもしれない。あとはgoogleの星の評価を参考に」
確かにと、俺はスマホで評価を見る。
3.4。
「微妙です」
「なら、これはどうだろうか?」
その人はそこそこ広くて、そこそこ評価の高い場所をサーチしてくれた。
「じゃあ。それでいいです」と俺は思考停止で頷いた。
「じゃあ。行こうか」
「行くんですか?」
「まあ。ねえ。暇だからね」
まあ。一人で遊ぶよりも多分いい感じになるだろう。そうに決まっている。
けれど、この得体のしれない人と共に遊ぶとなるのはちょっと若干引けていたりする。距離の詰め方が、近すぎる。陰キャは逆に近いと警戒心が高まってしまうのだ。
でも、それを主張することはできない。既に一緒に地下鉄に乗っていたりする。
「どう?最近は」
最近も、過去も知らない人にそれを聞かれている。
まあ、聞かれれば答えるのだけれど。
「最近は、結構悩みが絶えないですね」
「どんな悩み?」
「どんな…と言われるとちょっと困惑してしまいますね。えっと……、自分の性格について、その問いに日夜、頭を惑わせていまして……」
あれ。どうして、俺はこんな一回しか会ったことがないどうでもいい人にペラペラと語っているのだろうか。中身がペラペラだからだろうか。多分相手が桜場さんじゃないとこんなペラペラと喋っていないだろう。
「ほーん」とどうでもよさそうにその人は頷いた。ちょっと後悔した。
「そんなことであれこれ悩むのだったら、それはもう誰かの偏見に溺れて見たり、機械に丸投げして、決めて貰えばいいと思う。最近はそういうの、多いから」
「それは……」
実に俺らしかった。
「そうやって決めてもらった後にその決められた通りに自分の思いの型を適合させていく…。妥協というらしいけれど、まあ。それでもいいだろう?」
まあ、いいかもしれないと思った。
「だから、君は何も決めなくてもいい。相手が促してくるまま、行雲流水に行くつくところでいつの間にか決めればいいのさ」
俺の全てを覗かれて、全肯定してくれているように感じた。ちょっと背筋が凍るのを感じた。
「さて、何も考えなくてもいいさ。忘れよう」
こんな相談をしていたからか、いつの間にか辿り着いていた。
「カラオケですか?」
「それがもっともストレスを緩和するでしょう?」
ボーリングも、ダーツも好きじゃないが、俺が歌うことがそこまで悪くないと知っていての配慮だろうか。それなら有難いのだけれど……。
「かもしれないですね」
「でしょ。でしょう?」
クネクネと貼り付けの笑顔を見せる。
その歪みに目を背けるように「行ったとしても何を歌えばいいのかなあ」と俺は適当に悩んだ素振りを見せる。
「ねえ。知っているかい?決めかねている人を見るのは意外と鬱陶しいものがあるだろう」
「……」
俺は口を噤んだ。
「君はのうのうとしているようだけれど、この世は結構、流れが早いのだろう。それは逆らってから初めてわかることだ」
また、口を噤んだ。
これ以上何も言わなかった。俺には余りにも痛い話だった。これでカラオケが楽しくなると思っているのだろうか?俺はむすっとした顔で、その人を睨みつけけていた。依然として相好を崩さず飄々とした笑顔を浮かべるのは癪に障るところがある。
取り敢えず、俺は反発心として、「じゃあ。カラオケに行きましょう」と力強く言った。
「ははは。そういうと思って、もう予約したのだよ」
スマホの画面には209号室に予約されていますと表示されている。
俺が肯定することを見越していたらしい。その人の方が一枚上手というわけだ。俺はその人を超えられることは一切ないのだろうと思ったものだ。




