第100話 そう、君はあの人の子だ。
別にそこまで構える必要はないと思うがなぜだか、構えてしまった。
内装も去ることながら、高級ディナーだと脳が勝手に勘違いでもしているのだろうか。よくある普通のサイゼだというのに。
「ちょっと四季のことを教えてくれないかな?」
その俺の緊張感をほぐすために一石を投じた。そういえば、俺たちは何も知らない。適当に意気投合して、適当に共にしているから、なんでも知っている気になっていた。これを灯台下暗しというのだろう。
「いいよ。寧ろウェルカム。なんでも聞いてくれ」
口角をわざと緩慢にし、親しみやすさを演出した。
「どうしてここの高校に来たの?」
「特に理由もないかな。そうなっていただけ」
「どんな食べ物が好き?」
「取り立ててある訳じゃないけれど、麺類は好んで食べるかな?」
「じゃあ。どこで生まれたんだ?」
「まあ。都会とも田舎とも言えない中途半端な地方都市に生まれたよ」
「趣味は?」
「趣味はまあゲームすることかな。流行りのFPSは一通りやってしまうくらいには」
そんな感じで俺と星宮の一対一の会話が続いていく。
他にも、他愛のない質問が出されていた。それは全部何の役に立つのか分からなかったけれど、まあ。答えられるものならどんとこいだ。
そして星宮は流れるようにこれを質問した。
「どんな子供というか性格だと思っているんだ?」
…………。
質問された中で一番簡単だった。
「ありふれた言葉で形容するなら、マイペースとか、引っ込み思案とか。まあ。ポジティブではなくてネガティブな人だと思ってくれればいい」
この定型文。
星宮は黙っている。あれ。受けが良くなかったのだろうか。それとも、星宮が想定していた答えとは随分違う方向へと着地してしまったというのか?詳しく知りたいのだったら、巷で流行りのMBTIとか使えばいいのになんて、馬鹿なことを考えていた。その様子を見て、星宮は「やっぱりそうか……」なんて。
完全に星宮の中で何が起こっているのか、何を考えているのかが、伝わってこない。全てが繋がったと言わんばかりの顔だ。俺の中では何も繋がっていない。寧ろ、離散している。そんなに上手い解答じゃなかっただろうに。状況に置いてけぼりで、置き去りにされている。かと思えば、急に俺の目玉を向いて口を吐いた。
「君の母は、行方不明だろう」
星宮の表情が暗澹とする。周囲の温度が低下しているのをひしひしと感じた。
今までとか完全に毛色の違う質問で、質問の意図が一つたりとも汲めない質問だった。ただただ、俺は愕然と、していた。
「な、な、なんで?なんでそんな……」
予想外が過ぎて、準備ができなかった。硬直して動くことができなかった。な、なんで星宮が知っている。なんで、その話を出す。その全てが分からない。俺が、この世界がこんな狂った世界だとは気づかなかった頃に沈んでいた思いがきつく俺を締め上げていた。
この店の喧噪だって気にならないほどにそんな当惑状態が続いて、時間の進みも狂ってしまったかのように、そのまま時が過ぎていく。
やっとのことで整理がついて、口を紡ごうとしたら「なあーに。喋ってんの?早くドリンクバー注いで来なさいよ」と有体にいえば邪魔者が入った。
“いや、今いいところだったから”なんて、テレビでもあるまいし、言えるはずもなく俺は立ち上がる。
「因みに旭くんのは注いで来たから心配しないで」
なんちゅー最悪なことを仕上がるんだっ!!
ドリンクバーを注ぐついでに、続きを話そうかと思ったというのに……。まあ。そこでそんなに話せるとは思わないけれど……。
「お待たせしました。マルゲリータとペペロンチーノをお持ちしました」と店員さんも邪魔をしてくる。
騒がしくなる店内。
わあ。と歓喜する聖良さん。
続々と運ばれる食材に手をつけ始める星宮。
やれやれと呆れる華月さん。どんちゃんパーティの開幕だ。
つまりは今日は聞けそうには無さそうだった。
ドリンクバーのカップを持ちながらそう悟るのだった。




