第99話 サイゼ豪遊はそんなに掛からないからやってみるのがいいぞ。
近くのサイゼに来た。
何気にこのメンバーで、というか、今通っている学校のメンバーで食卓を囲おうとするのは何気に初めてである。と、言うか、学校の人たちとご飯を一緒にというのがそもそも、なかった人生だ。一回、卒業式という未だ訪れていないイベントがあった時に行けるかもとなってやっぱりお預けになっていた伏線をやっと回収できるのである。
それがサイゼというのもまあ、これはこれで悪くないものだった。
豪華絢爛。初めて見る人はそう思うけれど、やっぱりサイゼにそんな感情は抱けない。
例にも漏れず、舞賀さんはそういう反応を見せている。
「うわあ。シャンデリアっぽいものがある。あそこには風光明媚な絵画が掛けられているんだね。へえ……。いくらするのかなあ」
初サイゼだと言う舞賀さんは顔を覆いたくなるような、無邪気な物言いをする。
ちょっと肩身が狭くなるものだ。
実際、ボックスソファの隣に聖良さんがいるものだから、肩が窄まる。グイグイと引っ付きたがるから、余計に肩が狭まる。いや、もう押しつぶされていると言っても過言でない。
「何食べる?どうせドリア?」
「決めるなよ」
言われたら、決められなくなったじゃないか。
ペペロンチーノ?俺は値段が安いものしか思いつかないあたり苦学生という感じだった。
俺はメニュー表が欲しくなったが、しかし、舞賀さんが目を輝かせたようにそれを見ている。
「へえ。こんなんがこんな値段で……。ゼロが1つ足りないんじゃなん?」
箱入り娘の言葉だ。サイゼの値段感を知らない日本人なんて地元にない県民なじゃないか?されども、ここには腐るほどあるというのに……。
「エスカルゴも、フォッカチオもあるんだあ。へえ、じゃあ。あれとこれと一緒に頼もうかなあ」
君が食べているだろうそれらはもっと良質で価格は途方もないほどに高いだろうね。
「チキンとか、マルゲリータが美味しいよ?頼んだ方がいいよ」
「いいね。頼もうか」
頼んでくれと言わんとばかりの勧め方。
自分で頼めや。その勧めに乗る舞賀さんも舞賀さんであるけれども。
奢ってもらう気満々なのはそれは女でなくともカエル化してしまうことよ。
通常、学生では頼まないであろう量を注文している。本物の金持ちだというのに、サイゼで豪遊しているとそうではない人に見えるのはマジックだろうか。頼み方が、スマホに番号を打ち込んでいるからだろうか。
「この程度でいいよね」
こんな調子で一通り頼み終えたのだ。通常、一学生の身分として、頼まない量を頼んでいた。星宮は食後のデザートだけ、俺は何も頼まず、苦笑いをしていた。
「君たちは頼まないの?」
「どう考えたって、食べられない量を注文しているじゃないか」
舞賀さんは顔を下に下げる。
注文履歴を確認して「あー」と唸りをあげた。
値段しか見ていないし、聖良さんに促されるがままに注文をするからだ。
「人生で2、3回目くらいのファミレスだから調子乗って頼んでしまいました。すみません」
「まあ。いいよ」
それもそれで楽しいからね。シャアしよう。シェア。
俺はシェアというものに憧れを抱いていたからこれはこれで行幸なような気がした。ほら、シェアって青春っぽいじゃないか?身勝手ないイメージだけれど。
「シェアは中国料理って感じだけれどね……」
「イタリアンだけれど…」
「イタリアンにエスカルゴはないよ」
クッソ……。本物を知っている彼女は結構強い。
「ファミレスは雑多だからいいんだよね。ダーリン」
「ああ。そうだな」
「と、いう訳で、ドリンクバーに行こう」
その“と、いう訳”はどういう訳なのか不明であるけれど、「俺は頼んでいないんだが」ときっぱりと真実を告げる。俺は苦学生なのだ水で十分。水が無償サービスされていることに感謝を覚えている学生であるのだ。
「全員分予め注文したよ」
なんて勝手なことをする。
「お前らは騒がしいから先に汲んでこい。俺は後からでいい」
「そんな連れないこと言わないでよお…ダーリン」
「じゃあ、ドリンクバーなんてしたこと無さそうな舞賀さんに懇切丁寧に説明してあげて」
「ラジャー」と舞賀さんを引き連れてドリンクバーの方へ消えていった。
このボックスソファには星宮と二人っきりになった。
彼女らに先にドリンクバーに向かわせたのだけれど、すでに俺もその後を追いたくなってしまっている。概して気まずいということだ。
「ねえちょっといい?」
かつて言われた言い出しで、星宮は言った。
随分とデジャブだった。




