第98話 サイゼ信者。
「今日はここまでにしましょう?」
大体3時間くらいが経過したのち、舞賀さんは目の眩むような幸福な話を出した。
流れるように動いていたペンが自動的に止まる。え?天使?天使なのか?な、なんで。今日は終えるの……?
毎日毎日何十時間とやってきたというのに……。
「天使じゃないけれど……。そこまで、棍詰めてやるべきじゃないし……。と、いうか結構四季くんできていると思うんだけれど」
そういえば、今日の問題は解きやすかった気がする……。
ページを閉じて、参考書のタイトルを確認する。
《基礎から中級のやさしい高校数学》
基礎から中級かよ。それを出来るとなっても嬉しかない。なんか夏休みの初めに戻ったようだ。え?大丈夫だよね?ループとかしていないよね?と思って時計をちょっと確認をしても、特にそんなことはなかった。
「大丈夫だから、高校受験の基礎は結構大事だから、そして基礎から中級なら、中堅大学くらいはいけるからさ」
全肯定じゃないか。
個別指導を売りにしている塾みたいだ。
教師にするなら、舞賀さんだな。華月さんが孤高の有能教師だけれど、舞賀さんは優しいおっとりとした有能教師だ。後者の方が絶対人気だ。前者は変なあだ名を付けられていそうだ。
「えっと、まあ。その程度なら、十分だよ。まだ一年とかじゃないか。そこまでの大学に行くの?」
「内部がいいです……」
内部というシステムを良く理解していないけれど、なんか良いんでしょう?くらいに思っている。脱法をしているようで、俺は後ろめたさがあった。まあ所詮ゲームだから大学なんて上がらずにエンディングを迎えるのだろう?じゃあ。今やっている勉強そのものの行動意義をとうに失っている。
「じゃあ。ご飯でも食べに行こう」
なんか、嬉しそうに言った。
まあ。夏休みだからね。友達と遊びに行くのは自然だ。
でも、そのレクチャーを今し方終了する宣言をされたのだけれども、ちょっと惜しくなっている自分があるのだ。それも含めて青春時代にできなかったことを遂行できているようで嬉しかったのだ。
まあ。結局は遊びたいんだけれど。
つまりは俺はペンをほっぽり出して、舞賀さんの問いかけた会話に参加する。
「ええ。どこに行くん?」
「料亭……じゃなくてファミレスとか?」
うん。さりげなく育ちの良さをアピールしないで頂きたいのだけれど。
その良い育ちの人がファミレスなんて行って勘当されないだろうか。
「大丈夫だよお〜」なんて腑抜けて信用でき無さそうな返答をする。本当に大丈夫なのか?
「じゃあ。サイゼ。サイゼにgo toしよう」
お呼びでもない聖良さんが飯の匂いを聞きつけて、話に割り込んできた。
このゲーム内にサイゼがあるのか?だとしたら版権とかどうなっているんだ。版権は。
「サイゼでいいんか。お前は」
ここに奢ってくれそうな人がいるぞ?
ああ。俺じゃない。俺じゃない。舞賀さんのことだから。
「サイゼで喜ぶカノジョは嫌い?」
「別にそうではないけれど……」
寧ろ理想でもある。丸亀製麺でも喜んで欲しいものである。
「舞賀さんはサイゼでいいの?」
顕貴な彼女はそんな世俗的で大丈夫なのか?ロイホとかの方が良さそうなのだけれど。それでもどんぐりの背比べでしかない。
「まあ。ボクはサイゼなんて行ったこと無いからワクワクしています!」
結構満更でも無さそうな表情ではにかんでいた。
まあ。今回はサイゼで決まりそうなものだ。だから、俺は振り返って「星宮はいいの?」と分かり切った回答を聞く。
「いいよ〜。どこでも」と、この場の全員から了承を得られたので、カバンをもった。
さあ。今から夏らしい青春に満ちた行為をしよう。
サイゼは放課後に行くからもっとも青春していると感じるんだけれどね。




