13-3
真は空いてる左手を顎に当てて考え込んでいる。
「水先案内人がある?いるではなくて?」
ジャンティはかつて『魔』が送り込んできた海賊船のことを話して聞かせた。真は訝しみもせず素直にその話を聞いている。『魔』のことなどなにも知らないのだから疑ってもおかしくないのだが、普段から外国人旅行者とも多く接しているだけに自分の常識が通じなくても動じなくなっている。いや単なる天然かもしれない。
「なるほど、操りの核ですか。でもこの船にはそんな人いないんじゃないですかね。」
真が逆に問いかけるように答えるとジャンティはなぜそう思うのか質問を重ねてきた。
「さっきから気になってたんですが、船の乗組員が1人も出てこないじゃないですか。私らが戦った相手ってあなたの知り合いなのでしょう。」
そう言って分身が霧となって消えたあたりを見渡しながら真が答えた。
「じゃあどうやってこの船を止めるんですか?」
ジャンティはまるで星とやりとりしてる気になりつい問い詰めてしまった。
「それは分かりませんが、エンジンを壊せば船は動けなくなりますよ。」
「エンジンて?」
真はまさかの質問にキョトンとしてしまった。
ジャンティの頭の上にはてなマークが飛んでいることを察した澪が彼に教えた。
「船を動かす機械よ。」
ジャンティは合点がいったという目で、
「ああ、オールのこと。今はエンジンと言うんだ。」
澪は目が点になった。400年前と現代のジェネレーションギャップを感じた。真と横にいる蓮も苦笑いしている。
真が気を取り直してこう付け加えた。
「まあ、この船の存在自体あり得ないですからね。果たしてエンジンを破壊したところで止められるのかどうか疑問ですが。」
”存在自体あり得ない”、その言葉を聞いたジャンティは嫌な予感がした。
『まさか、この船自体が『魔』の本体かもしれない?』
舳先から艦尾まで見渡して、ヒュドラなど比べ物にならないほどの船の大きさに『魔』の底力の計り知れなさを感じ恐怖心が湧いてきた。いくら聖剣が光を纏ったといってもこのデカブツを斬れるとは到底思えない。どうすればいいのかジャンティにはわからなくなってしまった。
『こんな時星がいてくれたら』と切に感じた。
「ここであーだこーだ言ってても埒が開かないわ。取り敢えず機関室に行ってみましょうよ。」
蓮が提案し、4人は艦尾へ向かって歩き出した。真、蓮、澪の3人が船の中への出入り口を探しながら歩いているのに対してジャンティだけ何か考え込んでいるような、浮かない顔をしている。
『おい、なに塞いでんだ。何しにお前は今ここにいるのか忘れたのか?』
弥の意識がジャンティに発破をかけた。ジャンティが心の中に返答する。
「忘れてないぞ。僕は『魔』を葬るためにここにいる。あの時の雪辱を晴らすんだ。」
『だったら一心にそれをすればいいじゃないか。』
「でも、」
『ああ、もう、めんどくさい奴だな、お前。そんなんだから手前だけ生き残るんだよ。』
「なんだと、もう一回言ってみろ!」
『何度でも言ってやる。しつこくうじうじしやがって、情けない。』
「情けないだと、」
ジャンティは頭にきて殴りかかりたかったが自分の心の中にいるのが相手では手が出せず苛立った。
『お前、どうやったらこんなデカブツ1人で倒せるかって悩んでんだろ。澪に言われたこと忘れてんじゃねえよ。』
「忘れてない!みんなで力を合わせることが大事だって気づいた。」
『だったら1人で悩んでないで相談しろよ。それができないならとっとと俺と代われ。お前の代わりに倒してやるから。』
代れと言いつつも、どうやったらジャンティの意識の前に出られるか弥にはわからない。前に変化したときは2回とも澪のおかげで引き上げてもらったようなものだ。ところが今の澪は半分リーミンのような状態だから以前のように、なんとしてでも弥を元に戻そうという意識が弱い。
「ここから中に入れそうよ。」
澪が出入り口を見つけた。ジャンティは弥にこれ以上あれこれ言わせないために率先して中に入ろうとしたが、ドアに取っ手がない。かつてエンゾの領主の屋敷で見た引き戸だろうと思ったが、指をかける隙間さえない。どうやって開けるのか分からず立ちすくんでいると、澪が当たり前のようにドアの前に立った。するとひとりでにドアが開く。ジャンティは信じられないものを見た気がした。
艦内も近未来的でジャンティ以外の3人は遊園地のアトラクションにでもいるようなわくわくした気分で艦尾を目指す。艦内には誰もいない。乗組員を模した分身に出くわすこともなく順調に進んでいった。
ジャンティはその静かさに、この艦自体が『魔』の本体であるだろうことを嫌でも意識せざるを得なかった。400年前、領主の屋敷の中で幾度も下に落ち、あの空間にたどり着いたあとはあれだけ湧いてきた分身が1体も出てこなかった。いたのはヒュドラを模した本体だけだった。
機関室に着いた。その扉の前で4人は互いを見て頷いた。
澪がドアの前に立って開けた。
中にはエンジンらしき大きな機械がある。照明はあるが弱くて薄暗く、周りの様子がよく分からない。その室の中はひんやりとしていて寂寥とした雰囲気が漂う。そのエンジンらしき機械の前に2人の人影があるのを4人は見つけた。。いつでも剣を繰り出せるように構えながらゆっくりと近づく。近づくにつれ光の剣の明かりが2人の姿を照らし出す。人影の姿がはっきりと見えてきた。
そこにはジャンティとリーミンがいた。
400年前ヒュドラと対決したときの姿をした2人だ。ジャンティは左足に怪我を負っている。額に三日月形の傷はない。リーミンは両腕がなかった。
それを認識した途端ジャンティは激昂して1人で飛びかかっていった。
「どこまでやれば気が済むんだ。ふざけるなっっ!!」
紫の光をまとった剣を頭の上に振り上げて過去の自分に斬りかかる。頭の上にまっすぐ振り下ろし真っ二つにした。過去のジャンティの体は2つに斬り裂かれながらゆらゆらと揺らいで消えた。そしてすぐそばに斬られる前の姿で再生された。
その様子を見ていた3人は驚いて目をむいた。
「これは幻覚?それとも立体映像か?」
真が目の当たりにした現象を推測している。
「試してみればわかるわ!」
蓮がリーミンに向かって光の剣を走らせた。それを見た額に傷のあるジャンティが「やめてくれ」と叫ぶ。彼にとってはたとえ幻だとしてもリーミンなのだ。
蓮はジャンティのそんな叫びを無視してリーミンの体を横薙ぎに真っ二つにした。
「リーミン!!」
ジャンティの悲痛な声が響く。
蓮に斬られたリーミンもさっきのジャンティと同様ゆらゆらと揺らめいて消え、そばに再生した。
再生した2人はその場に立っているだけで攻撃はしてこない。
「真さん。」
澪が真に助言を求めた。
「みんな、一端出入り口の所まで引きましょう。作戦会議です。」
4人は出入り口のそばまで戻り、幻の2人の様子を見守った。幻はそのままで動く様子はない。
「一体何がしたいのかしら?」
蓮が幻を見つめながら呟いた。
「本当に、何がしたいんでしょう。」
真は皆目見当が付かないと頭をひねっている。
澪は両腕のないリーミンを見て悲しそうな顔をした。
ジャンティはかつての過ちに悲しみと苛立ちを隠せずにいた。




