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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
ぬくもり

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43/44

14-1

「何がしたいって、そんなの決まってるじゃないですか。僕たち人間を闇に閉じ込めるのが奴の狙いだ。」

 ジャンティは皆の疑問を払拭するためすっぱりと言った。

 真は何も答えず黙っている。

 澪は機械の前にいる腕のないリーミンが悲しい顔をしているのが気になった。あれが『魔』の作り出した幻影だとして、なぜそんな表情をさせているのか、また自分の心の中にいるリーミンが今同じように沈み込んでいることが同じ女性として気になった。

 蓮は柄にあるオレンジの石の輝きをじっと見つめている。

「今度はあの影を同時に斬ってみましょう!一体ずつ斬るからダメだったのかも。」と、ジャンティが提案するが3人とも黙ったまま返事がない。

 ジャンティは何も言わない皆を順繰りに見回して訴えかけるが期待どおりの反応が得られず少しやけになってきた。

「みんなが力を合わせなきゃならないのに、これじゃ意味ないじゃないですか。」

 すると澪が口を開いた。

「みんなで協力するって、()()()()()を斬ることなのかな?」

「な、何を言ってるんだ、リーミン!」

 ジャンティは語気を荒げた。

「私は澪よ!リーミンじゃない。あなたずっと私を認めようとしない。」

 ジャンティは困惑した。

「君はリーミンじゃないか。」

「違うわ!」

 澪はジャンティの目をまっすぐに見て言った。

()()()()()は『魔』が作り出したものだと言ってるけど、あなたさっき蓮さんが斬ろうとしたらやめろと叫んだじゃない。なんで?それはあなたが彼女の顔しか見てないからでしょ!だから私のこともずっとリーミンて呼ぶんだ。」

 ジャンティは何も言い返せなかった。『魔』の作り出した幻影でもリーミンの姿をしているとつい心を許してしまう。それは澪の言うとおり表面しか見ていないからに他ならない。

「じゃあどうしろと?」

「リーミンが本当に好きなら彼女の心を見てあげて。」

「心?」

 澪は腕のないリーミンを指差して続けた。

「見て、彼女今どんな顔してる?」

 ジャンティは幻影のリーミンの表情を初めてまじまじと見た。悲しみと寂しさだけの表情をしている。

「ねえ、どんな顔してる?」

 澪は悲しくて潤んだ目で訴える。ジャンティは答えられない。

「ちゃんと見てあげてよ!()()は幻でもあの気持ちは本当よ。だって私の中のリーミンはずっと悲しそうだもの。」

 澪の瞳に涙が溢れてきた。

「弥がまたあなたになって、また私を忘れて・・。目の前にいるのにちゃんと見て貰えないのがどれだけ辛いかあなたに分かる?」

 リーミンの姿の澪に責められ何も返せずにただその場にいるだけのジャンティに一歩詰め寄って、

「でもね、私の中のリーミンがそれでもいつもあなたのことを思ってて、だから私、彼女が可哀想で今まで我慢してついてきたの。けどもう嫌!彼女の顔しか見てないあなたに弥を奪われたままでいるのもう耐えられない。弥を返して!」

 ジャンティの意識の下で弥は叫んでいた。今すぐに飛び出していって澪を抱きしめたいと思った。けれどどうあがいてもジャンティの意識の下から出られない。澪に自分の声を届けられない。自分の意志で体を動かせない。もどかしさに大きな声でわめいた。その叫び声が聞こえているのはジャンティだけだ。

 叫び続けていたら変化が表れた。ジャンティが頭を抱えて苦しみ出した。

 突然のことで澪は感情にまかせて彼を責めすぎたと思った。蓮は彼の背中をさすって介抱する。


「澪!!」

 息は荒いが苦しみが治まってきて落ち着いたジャンティが頭を上げて澪を見るとその名を力強く呼んだ。澪はいきなり名前を呼ばれてびくっとしたが、ジャンティが自分の名前を呼ぶわけないと返事をしなかった。

「澪、俺だ!弥だ!」

 目の前のジャンティが真剣な目で澪の目を見つめている。

「わ、たる?」

「そうだ!」

 そう言ってぎゅっとリーミンの姿の澪を抱きしめた。

「澪ごめん。俺ずっとヤツの意識の下で君の声聞いてた。でも戻れなくて何も伝えられなかった、ごめん。」

 それまで背中をさすっていた蓮が彼の言葉遣いに気づいた。

「今まで”僕”だったのが”俺”になってる。」

 それを聞いた澪が大きく目を見開いて弥の顔を見た。

「弥!」

 弥は大きく頷いた。

「弥!」

 澪は弥を抱きしめ返した。

 その時真がいきなりぽんと手をたたき合わせて口を挟んできた。

「唐突に理解した!」

 3人は真に注目した。真は幻影のジャンティとリーミンを指して、

「あの二人が何をしたいのか、分かったよ、たぶん。」

「何?」

 蓮が続きを急かす。真はマイペースに人差し指をピンと立てて言った。

「心の光。」

 蓮は真が場を和まそうといい加減なことを言い出したと思い込み、光の剣を構えて彼を睨んだ。

「わあ、待って、タンマ。ふざけてないから。」

 真は冷や汗をかきながら必死に蓮をなだめる。

「あんた、ここでヘンなこと言ったら叩っ斬ってやるからね。」

 蓮が怖い。

 真はこほんと咳払いをして勿体ぶってみせる。弥と澪も真の口に注目する。

()()()()()は私らの心の光を見たいんじゃないかな、たぶん。」

「それで?」

 蓮が眉を八の字にして真を下から覗き込む。真は冷や汗が止まらず少々びくつきながら続けた。

「甲板の上で戦った人たちとは違ってあの人たちは攻撃してこない。やろうと思えばいくらでもできるはず。それなのに何もしないのは何故か、それってこちらの出方を伺っているから。」

「で?」

「"僕"と呼称してた弥君は『魔』を悪者扱いしていたけど、実は『魔』というのは我々人間の心の闇を具現化したものなんじゃないかな。それで、我々を試しているんじゃないかと。」

「それと、心の光とどう繋がるんですか?」

 澪が訊いた。

「闇を払えるのは明るい光。たとえば夜電気を点ければ部屋が明るくなるように。つまり心の闇を払うには心の光が必要というわけ。澪ちゃんさっき言ったでしょ、()()()()の顔が悲しそうだって。それって心の闇を象徴していて、で、それを払うための”光”を待っているんじゃないかな、たぶん。」

 蓮は剣を引っ込めた。そして柔和な顔に戻って訊いた。

「どうやって見せるの?」

「どうしましょうかね?」

 真が困った顔をした。蓮は引っ込めた剣をまた目の前にちらつかせた。

「ちょっと、蓮いつからそんな乱暴に。」

 真はまた冷や汗が吹き出した。

「私は元()()()だからね。」

 にまっと笑って見せた。

 真と蓮がそんなやりとりをしていると弥が、

「まずは()()()()を助けましょう。」と幻影のジャンティとリーミンを見た。

「どうするの?」

 蓮が訊くと、弥は自分と澪の持っていた剣を真と蓮に預けて言った。

「俺に任せて下さい。」

 そして澪を連れて丸腰で幻影のジャンティとリーミンのところへ向かった。

 幻影は2人が近づくのを察知するとじっと目を見てきた。弥はゆっくり歩を進めながら隣を歩く澪にそっと言った。

「澪、君はジャンティを抱きしめてやってくれ。俺はリーミンを抱きしめる。」

「それで心の光を見せられるの?」

「俺たちの中には彼らがいる。あの幻を抱きしめることで彼らの感情を受け止められると思う。たぶんだけど。」

 弥にも確信はなかった。けれど今は弥の意識の下になっているジャンティがリーミンを求めているのは感じていた。腕のない彼女を抱きしめることでかつての過ちの償いができそうな気がした。同じように澪の中にいるリーミンの悲しみがジャンティに伝われば彼らはお互いに深くわかり合えるようになるのではないかと思った。澪がリーミンに変化(へんげ)し、弥のことを忘れたときにそれまで澪が感じてきた悲しみを弥が理解したように、ジャンティとリーミンがお互いに互いの気持ちを共有すれば光が差すと感じていた。

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