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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
対決

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39/44

12-6

「リーミン!」

 ジャンティはその姿を見た途端飛び出した。その腕をノイレンが掴んで制止する。

「良く見ろ!彼女の目を。」

 リーミンの目が赤く光っている。『魔』に体を乗っ取られている証拠だ。

「だったらなおさら助けないと・・」

 ジャンティは心が急いた。

「気の毒だがあれは罠だ。行けば殺される。」

 ノイレンはそう言ってジャンティに留まるよう促したが、彼は彼女が止めるのも聞かずその手をふりほどいて剣も持たず丸腰で飛び出していった。

「リーミン!」

 足を引きずりながら全力でリーミンに駆け寄る。彼女はその場に立ったままジャンティがくるのを待っている。

「あのばか。」

 ノイレンはレッドソードも携えてジャンティを追いかけた。

 リーミンは無表情のまま両手を広げてジャンティを迎え入れる仕種をしてみせた。まるで人形だ。

「ジャンティ!」

「リーミン!」

 ジャンティはリーミンの元へ駆け寄るとしっかと抱きしめた。

「会いたかった。無事で良かった。ごめんね、あの時助けられなくて。」

 矢継ぎ早に言葉を重ねながらリーミンを抱きしめる腕に力がこもる。

「ジャンティ、痛い。」

 リーミンがジャンティの腕をほどこうと彼の胸に手を当てて体を離した。

「ご、ごめん。」

 腕の力を緩めて謝った途端、リーミンがジャンティの首を両手で絞めてきた。

「な、なに・・を・・・」

 無表情のままぐぐっと首を締め付けてくる。『魔』に操られたリーミンの力は彼女のものとは思えないほど強かった。

 息ができず意識が徐々に薄れて、目もかすんできた。そのかすんだ視界に赤く光るリーミンの目だけがはっきりと見えている。

 「リー・・・」

 ジャンティの体から力が抜けていく。リーミンは両腕を伸ばしジャンティを吊るし上げるようにして首を絞めている。ジャンティの足が宙に浮いている。

 ジャンティが”落ちる”寸前、ノイレンがリーミンの両腕を斬り落とした。

 ジャンティは首に食らいついているリーミンの腕と共にその場に落ちて倒れた。ノイレンがすぐさまリーミンの腕を取り払うとジャンティは激しく咳き込んだ。

「大丈夫かっ?」

 ノイレンがジャンティの背中に手を当てて顔をのぞき込む。ジャンティは自分の首を押さえて息を整えた。そして目の前に落ちているリーミンの両腕を見て叫んだ。

「ノイレン!何をした!?」

 ジャンティはリーミンを探した。『魔』はリーミンの操り糸を切ったらしい。瞳は綺麗な澄んだ藍色に戻っている。しかし彼女は視線の定まらない虚な目で冷たい床にぺたんと座り、失った両腕の傷口からただ血を垂らしている。魂の無くなった抜け殻のようだった。

 ジャンティは半狂乱になりノイレンを責めた。

「あんたを助けるためにはこうするしかなかったんだ、すまない。」

 そう言いながらレッドソードをジャンティに手渡そうとするがジャンティは受け取らず、

「だからってリーミンを傷つけるなんて!」

「ジャンティ、あんたが死んでたんだぞ。それでもいいって言うのか?」

 ノイレンは悲しそうな目で訊いた。

「そのほうが良かった!」

 ジャンティの目が険しい。今まで一度だってこんな目をノイレンに向けたことはなかった。

 ノイレンはレッドソードをその場に落とし、思わずジャンティの頬に手をあげそうになったのをぐっと堪えて、

「あんたが死んで、それで、あの子に未来があるのか?!」

 ノイレンの目に怒りと悲しみが入り混じる。声が少し震えている。そのセリフを聞いてジャンティはハッとした。

 リーミンを傷つけるくらいなら自分が死んだほうがマシだと思うだけで、1人残された彼女がどれだけの喪失感を味わうかまでは考えていなかった。ジャンティは俯いて、

「ごめん、ノイレ・・」

 言いかけた時7つ目の首が横からノイレンを咥えて天井近くまで頭を持ち上げた。

 ノイレンは咄嗟に竜の口にネオソードを挟んで噛まれるのを防いだが大きな牙に服が引っかかりそのまま持ち上げられてしまった。

「ノイレン!」

 ジャンティが下から叫ぶ。ノイレンはなんとか抜け出そうと足掻くが牙に引っかかった服が外れない。竜が口を閉じてノイレンを噛み砕こうとする。挟んだ剣が大きくしなる。ノイレンが力任せに服を引き破りそこから逃れた直後ネオソードの刀身が折れて竜の口が閉じた。

 ノイレンと共に刃の折れたネオソードの柄が床に落ちた。天井近くまで上がった7つ目の頭が翻って床に突っ込む勢いで再びノイレンめがけて襲いかかる。

 ノイレンは折れたネオソードの柄を拾い上げて構えた。刃の折れた柄ではせいぜい竜の目を突くくらいしかできない。それで仕留めることは不可能だ。

 7つ目の頭が床に迫ってくるほんの僅かな時間にノイレンは覚悟を決めた。

「上等じゃないか。」

 口角を上げて不敵な笑みを浮かべると、そのまま竜の口の中に自ら飛び込んでいった。

 竜の頭は喉に異物が詰まったように苦しみもがいたあとズシンと大きな音を立てて床に落ちた。

 ピクリとも動かない。

 ノイレンは竜の喉の奥で折れたネオソードの刃を何度も肉に突き刺して切り裂き、そこに柄ごと刺し込んで、さらにその上から自分の腕諸共にそれを深くねじ込んだ。

 頭を落とした首に拳や鞘をぶち込んで再生を止められるなら、頭がついていても喉深くに聖剣を突き刺せば同じように動きを止められるのではと、またそこに腕も食い込ませれば確実に仕留められるはずと、あの刹那にノイレンは考えた。

『ジャンティ、あとは任せたぞ。』

 ノイレンは竜の喉の奥で腕ごと柄を肉にめり込ませたまま心の中で呟き意識を失った。


 ジャンティは竜の口からノイレンが出てくると期待してその帰りを待った。しかしいつまで待っても出てこない。

「ノイレン!」

 名を叫ぶが返事はない。ジャンティはリーミンをちらと見る。彼女は依然茫然自失のまま座っている。

「リーミン、待っててくれ。君とノイレンどちらも助けるから。」

 そう言って足下にあるレッドソードを手に取った。

 まず7つ目の首を斬り落としてノイレンを助けだそうと剣を振り下ろしたとき、最後に残った8つ目の首がジャンティに襲いかかってきた。

 間一髪避けたが竜の牙がジャンティの右の脇腹をかすった。最期の首は体勢を立て直すともう一度襲いかかってきた。

 ジャンティはレッドソードを構えて迎え撃つ。

「いつまでも貴様の好きにさせるか。」

 迫ってくる竜の頭に狙いを定め、剣を握る手に力を込める。

 ジャンティが最期の首に集中していると、その背後からヒュドラの尻尾が音もなくジャンティに向かって突進してくる。

 茫然自失のリーミンの目がその様子を捉えている。彼女にはただその映像が見えているだけだが、その目に映る尻尾がジャンティとの距離を詰めていくにつれ瞳に生気が蘇ってきた。

「ジャンティ-!!」

 リーミンは叫ぶとジャンティに向かって飛び出した。両腕を失っているためバランスが取れない、体勢を崩しながらも必死に彼の元へその身を重ねていく。

 ジャンティはリーミンの叫びに背後から迫り来る尻尾に気付いたが、目の前の8つ目の頭に集中するあまりどうにもできなかった。

 ジャンティは覚悟した。背後から突かれる前に頭を仕留めてやる。右足で床を蹴り、ノイレンのように8つ目の頭に向かって自ら飛び込んでいった。

「うあああっ!」


 レッドソードが8つ目の頭の眉間に深々と突き刺さった。 

「ぬうう!」

 渾身の力を込めて剣を眉間に押し込んでいく。竜の眉間が割けた。そのまま首元へ剣を押し込み続ける。首元に達したとき剣をひねって刃の角度を変え、床に向かって下に剣を引いた。

 最後の首が落ちた。

 その首の肉へレッドソードを柄まで深く刺し込んだ。

 ヒュドラが黒い霧となって消えていく。

 『魔』の本体を打ち祓うことができた。


 ジャンティは剣から手を離し、振り向いた。さっきリーミンが自分の後ろへ走っていくのを見た気がした。

 そこにはヒュドラの尻尾に貫かれているリーミンが。ジャンティを庇うため飛び出した彼女が盾になることで尻尾の軌道が逸れジャンティはその攻撃を逃れていた。

「リーミン!!」

 ヒュドラの尻尾もしだいに霧となって消えていく。あとには変わり果てた姿のリーミンが残された。

 ジャンティはリーミンの亡骸を抱き上げて泣き叫んだ。

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