12-4
『マジか。』
弥が星の最期を知ってショックを受けている。気持ち悪さを堪えるのがしんどい。1人、2人くらいの犠牲はマンガや映画でもよくある展開だからと想定はしていたが、まさかそんな死に方をするとは思ってもいなかった。
『それで、そのあとは?』
ジャンティはさらに記憶を呼び覚ましていく。
***
ノイレンと璃羽は3人がいる門の所へ戻ってきた。
ぶつけどころのない感情に支配されてノイレンは黙りこくっている。それを見た璃羽が星の死を無駄にしないよう必死で考えを巡らした。
「星さんは命を賭けて教えてくれたんだ。拳で再生を阻止できるなら鞘をぶちこめば同じように止められるんじゃないか。」
「そうだ!聖剣の鞘ならできそうですね。それならもう4つ仕留められる。」
ジャンティが前を向こうと璃羽の話に同調する。
「それで、残りの3つはどうするの?」
璃羽とジャンティが今は考えたくないことを咲が指摘した。
「そんなの簡単さ。星とわたしらの鞘で5つ。残りの3つは聖剣を突き刺せばいい。そうしてもあと一本剣が残る。もし何かあってもそれで対処できる。」
ノイレンが握り拳を門に叩きつけ、ヒュドラを睨みながら答えた。彼女はどんな状況に陥っても冷静さだけは失わない。
咲がジャンティに鞘を渡すよう促した。
「ジャンティさん、鞘を下さい。あなたのその足では難しいでしょう。私たち3人に任せて下さい。」
「でも、」
ジャンティも一緒に首を落としに行きたかった。『魔』を打ち祓うことなんてできそうにないとふさぎ込んでいた自分の背中を押し、勇気をくれた星の仇を討ちたかった。
ノイレンが気持ちのはやるジャンティの肩をぽんと叩いて、
「今はわたしらに任せろ。あんたは最後の切り札になればいい。」
そう言ってジャンティの背中から鞘を奪い取った。そして璃羽と咲を順に見て、
「いくぞ。」
「おう!」
「承知しました。」
3人は飛び出していった。
ノイレンと璃羽はもう何度も首を落としているから手慣れたものだ。軽々と頭を翻弄して首をはね、そこに聖剣の鞘をぶち込んでいった。
「1つ!」
「2つ!」
「3つ!」
あっという間に3つの首が動きを止めた。レッドソード、ネオソード、タキシードソードの鞘がそれぞれ刺さっている。
咲は2人の戦い方をずっと見ていたから自然と動き方を覚えて、ちょこまかと動きながら兄と同じように頭を翻弄している。
ひょいっと飛び上がって頭の上に乗り、羽織っていたマントを外して竜の目を覆った。視界を奪われた竜はそれを振り払おうと頭をブンブンと振り始めた。咲は体重をかけてワグソードを竜の首に突き下ろした。竜が頭を振るその勢いを利用して斬るつもりなのだ。竜が頭を振れば振るほど勝手に刃が首に食い込んでいき、みずから首を落とす格好になった。咲は頭が落ちたその断面にワグソードの鞘をぐいっと差し込んだ。
兄の方を向いて、
「4つ!」
咲が自慢げに数えた。
「みんなすごかった。あっという間に首を4つ落としたんだ。」
ジャンティは3人の活躍を弥と澪に話して聞かせた。もちろん澪の瞳の奥にいるリーミンにも聞こえるように。
『残りの3つはどうやって?』
弥が訊くと、ジャンティは澪の姿を上から下まで見て俯いてしまった。
***
合計で5つ目の首を咲が仕留めて満足げな顔をしていたとき、6つめの首が大きな口を開けて咲に襲いかかってきた。
「咲!!」
璃羽が叫んで助けに走った。すばしっこい咲でも避ける余裕はなかった。咲は剣を構えて迎え撃とうとするが、彼女の腕力ではどう見てもはね飛ばされるだけだ。竜の口が今にも咲を咥えようというとき璃羽が咲に体当たりして突き飛ばし、代わりに竜に喰われてしまった。
「お兄ちゃん!」
突き飛ばされて転げたその先で咲が叫ぶ。顔から血の気が引いていった。
ノイレンが咲の元へ駆け寄ってきた。2人とも璃羽を呑み込んだ頭を見上げた。
竜の口からくぐもった雄叫びのような声が漏れてきた。
「お兄ちゃん?」「璃羽?」
その瞬間竜の頭上に内側からタキシードソードの刃が突き出てきた。
「うおおおおお!!」
明らかに竜ではなく璃羽の声だ。タキシードソードの刃は円を描くように内側から竜の首を斬っていく。
竜の首が落ちた。
床に転がった頭から璃羽が転がり出てきた。ぜいぜいと肩で息をしている。竜の唾液なのか璃羽の全身は粘り気のある粘液で濡れ、それにやられて目を開けられなくなっていた。
首の断面の肉が再生しようとうごめき始めたのを見た咲は咄嗟にワグソードを突き刺してそれを止めた。
「咲無事か!?」
目の見えない璃羽は耳をすませて四方に首を振り咲の安否を気にしている。
「お兄ちゃん!」
咲は璃羽に飛びついた。璃羽は咲をしっかりと抱きしめて笑顔になった。
「よかった、怪我はないか?」
手探りで咲の頭をなでた。
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「そうか、うんうん。本当に良かっ・・・・」
璃羽と咲の会話はここで途切れた。
咲の窮地を救い、さらに6つ目の首を驚きの方法で落とした璃羽に咲が抱きついてお互いの無事を喜んでいたとき、璃羽の背後から音もなく、先端が槍のようにとがったヒュドラの尻尾が兄妹を貫いた。
ノイレンは目を大きく見開いて尻尾に斬りかかった。ネオソードの刃が尻尾を捉える直前、璃羽と咲を串刺しにしたまま尻尾は天井近くまで持ち上がり、そのままヒュドラの背後にある壁に2人を激突させた。壁が崩れる。2人の体は尻尾から外れてがれきと共に冷たい床に沈んでいった。
その一部始終を門のところで見ていたジャンティはレッドソードを手に左足を引きずりながらノイレンの元へ飛び出してきた。
「ばか、何しに来た。戻れ!」
ノイレンがジャンティに門の所に隠れるよう促す。
「だって、」
「だってじゃない。」
ノイレンは足下に転がっていたタキシードソードを拾い上げ、そしてジャンティの胴を抱えるようにして一緒に門の所まで引いた。
『なんてこった。』
弥は慰めの言葉が見つからない。
「ジャ、ジャンティさん?大丈夫?」
表情が次第に暗くなっていくジャンティを澪が心配した。
「ありがとう、リーミン。」
ジャンティは今にも涙が溢れそうな目で澪を見た。
***
「ノイレン!」
ジャンティが泣きたいのを我慢した目でノイレンに訴えかける。ノイレンは何も答えない。
「ノイレン!」
ノイレンはジャンティの手を引いて座るよう促し、自分も横に座った。ジャンティはじっとノイレンを睨むように見ている。
「僕が今足手まといなのは分かってる。でも、それでもじっとなんかしてられない。」
ノイレンは壁に背中をもたれ、暗い天井を見ながら静かにジャンティに話しかけ始めた。
「わたしな、小さい頃親に捨てられたんだ。お母さんが病気で死んだ次の日、父親が私を行ったことのない遠くの町の教会へ連れて行った。そこで待っているよう言われたんだが、父親はそれっきり迎えに来なかったよ。」
ジャンティはノイレンがショックのあまり気が動転しているのかと思った。
「ノイレン?」
「教会の神父がそれから面倒を見てくれたんだが、わたしは大人が信じられなくなって、悪さばかりしてた。1年くらい経ったころかな、そんなわたしを疎ましく思っていた町の人たちが神父の留守中にわたしを拉致して別の街に、ポイっ。」
ノイレンは横にいるジャンティを見て、
「それからは生きるのに必死だった。生きるために何でもやったよ。そんな時だ、師匠に出会ったのは。」
ノイレンは剣の師匠との出会いをジャンティに話して聞かせた。




