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聖剣伝説レッドソード  作者: 山田隆晴
対決

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34/44

12-1

 三度(みたび)変化(へんげ)したジャンティは(ひざまづ)き、目の前に横たわるリーミンの上体を起こし抱きしめた。

「リーミン。」

 彼女の名を呼び、抱きしめる腕に力が入る。すると弥があれだけ澪と呼んでも反応しなかった少女の体がぴくりと動いた。ゆっくりとまぶたが開く。

「ジャン、ティ?」

 少女の唇からその名が流れた。

「リーミン!」

 ジャンティは少女の顔を見た。青白い綺麗な長い髪に鮮やかな藍色の澄んだ瞳。ジャンティの大好きなリーミンがそこにいた。

 ジャンティはもう一度ぎゅっとリーミンを抱きしめた。

「助けに来たよ、もう離さない。一緒に帰ろう。」

 アデナで彼女を失って以来ずっと触れることのできなかった体温が全身に伝わってくる。リーミンのぬくもりがジャンティの心を撫でる。

 リーミンもジャンティを抱きしめ返して涙を流した。

「待ってた、ジャンティ。来てくれると思ってた。ジャンティ・・・」

 リーミンにとっても久しぶりのぬくもりだ。アデナのパン屋にいたはずがいきなり知らない、暗くて寂しい空間に飛ばされた。そこでずっと孤独と恐怖に震えていた。


 その時ジャンティの心の中で弥の意識が叫んだ。

『取り込み中に悪いが、その子は澪だ!リーミンじゃない。』

 ジャンティはリーミンを抱きしめたまま心の中の弥と対話する。

『君は誰?彼女がリーミンじゃないって何を言ってるんですか?』

『俺は弥だ。お前たちは400年前の人間だ。とっくに死んでるじゃないか。』

 ジャンティはしばし沈黙して記憶を探っているようだ。

 考え込んでいるジャンティを無視して弥の意識は続けた。

『思い出せ。俺は夢の中でお前たちのことを追体験した。全て知ってるぞ。』

『僕は、みんなと『魔』を斃しにここへやって来た。そして・・・』

『そうだ。思い出したか。』

『でも、僕の目の前にいるのは確かにリーミンだ。アデナで消えたリーミンだ。』

『リーミンがこんな服を着ていたか?そんな髪飾りを付けていたか?』

 弥は少女が着ているチロル風衣装と赤いカチューシャを見るように促した。

『この服は?こんなの見たことない。それにこの髪飾り、なんだろうこんな素材見たことない。』

 ジャンティはアデナにはなかったデザインの服とプラスチック製のカチューシャに驚いた。

『そうだ、お前の時代にはプラスチックなんかなかったもんな。わかったか?』

『いいや!服や髪飾りなんてあとからどうとでもできるじゃないか。それよりこの綺麗な青白い髪、澄んだ藍色の瞳。これはリーミンだ。』

『そ、それは・・・』

 弥は反論に詰まった。姿が変化していることはどう説明しても分かって貰えそうになかったからだ。自分自身もジャンティに変化している。つまりここにいる2人はどこからどう見ても、身なり以外400年前の2人でしかない。

『君は僕を騙してどうするつもりだ?もしかして『魔』の生み出した幻覚なのか。』

『な、何を言って・・・』

 ジャンティはリーミンから手を離すと、拳を握り自分の胸を思い切り叩いた。

『なにするんだ!おかしくなったか?やめろ!』

 弥はジャンティの自傷行為を止めさせようとした。

『僕の中から出ていけ!この悪魔め!!』

『出て行けるか!これは俺の体だ。お前こそ出て行け!』


 目の前でジャンティがなにやら独り言をぶつぶつ言っていたかと思うと、いきなり自分の胸を叩き始めたのを見たリーミンはジャンティの手を掴み自傷行為を止めた。

「やめて、ジャンティ。何をしているの?」

「リーミン、離してくれ。僕の中に『魔』が幻覚を送り込んできた。こいつを追い払わないと。」

 そう言ってリーミンの両手をふりほどき、再び自分の胸を叩いた。何度も、何度も。

 ジャンティのその行為にリーミンは衝撃を受け、その瞳の色が変化していった。

「やめて!!」

 リーミンが大きな声を出した。ジャンティはビクリとして手を止めた。

 リーミンの瞳の色が澄んだ藍色から弥のよく知っている黒みがかった綺麗な濃い茶色に変わっていた。

「弥を傷つけないで!」

 少女がそう叫んでジャンティを睨みつけている。

 ジャンティはその目をまじまじと見つめ、

()の色が、き、君は・・・」

「私は澪よ!」

 そう言って人差し指をジャンティにまっすぐ向けた。

「ミオ?」

 ジャンティの心の中で弥の意識が叫ぶ。

『そうだ、澪だ!』

 ジャンティは目を見開いて言った。

「まさか、『魔』はリーミンの体まで乗っ取ったのか?」

『違ーーうっ!わかんないヤツだな、お前!』

 弥は心の中で地団駄を踏んだ。



 ジャンティはさっきまで自分の胸を叩いた拳を見つめながら小さく呟いた。

「僕は、僕は・・・」

 澪がジャンティのその拳を静かに自分の両手で包み込んだ。

「リーミ、ミオ、さん?」

 ジャンティが情けない顔で少女の顔を見た。綺麗な青白い長い髪はたしかにリーミンだ。しかし瞳が知らない人になっている。

「落ち着いて、ジャ、ジャンティ。」

 彼の名を呼ぶとき(ども)っている。弥の意識が心の中で澪と叫んだ。彼女には聞こえていない。

「私の名前は澪。それでね、驚かないでね、私の中にリーミンがいるわ。とても優しい人ね。でも脆くてあなた無しでは生きていけない人。」

「あなたがリーミンを大切に思っているようにリーミンもあなたがとても大切。その気持ちは私にも伝わってくる。同じように私には弥が大切。」

 ジャンティはじっと澪の目を見ている。

「あなたの中には弥がいる。いいえ、正確には弥の中にあなたがいるの。私は何度も弥があなたになるのを見てきたわ。そのたびに弥は私を忘れてしまった。悲しかった。」

 澪は静かに続ける。

「今あなたの中で弥は何か言ってる?」

『澪!気がついたんだね、よかった。俺はここにいる!』

 澪には届かない。

「ぼ、僕は、」

 ジャンティは何度も弥の名を少女の口から聞いて、自分の中でさっきから話しかけてきている()の存在を理解した。


 ジャンティは澪に問いかけた。

「これは一体どういうことなんでしょうか?僕は、リーミンは、どうして・・・」

「ここは私たちの生きてる世界。あなたたちの生きた世界じゃない。」

「生きた世界?」

「そう、あなたたちが生きたのは400年前。」

 ジャンティは自分の手を包み込んでいる少女の両手をじっと見つめたまま何も言えなくなった。

 弥の意識はジャンティの前に出ようと心の奥底であがいているがどうにも以前のように前に出ることができない。澪に直接話しかけることができずにいた。

 澪がジャンティに語りかける。

「あなたたちが私たちの世界に再び現れたのには何か意味があると思うの。なにか心当たりはない?」

 弥の意識も彼に語りかけた。

『思い出せ、400年前ここで『魔』を斃したときのことを。そこにヒントがあるはずだ。」

「『魔』を斃したとき・・・」

 ジャンティは地下の不思議な空間で天井を見上げて思い出そうとしている。

「ここにはエンゾの領主の屋敷があった。中に入ると、まるでダンジョンのような不思議な空間だった。」

 ジャンティはすっと立ち上がって空間の奥に視線を送り、暗闇の先を睨みつけた。

「そうだ、ダンジョンのような中を進んでいくと地下深くに降りて、そこにいたんだ、『魔』の本体が。」

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